マーケティングは、突き詰めて言うと自社や自社製品の「ファン」を増やすための一連の取り組みです。消費者の心を掴み、自社を「好きになって」もらうためには、消費者が何を考え、どのように行動するかを可能な限り的確に理解する必要があり、そのためにさまざまな方法論やツール、フレームワークなどが考案されています。
購買行動モデルもそうしたなかの一つで、消費者が何かを購買する際の行動プロセスをモデル化したものです。消費者がある商品を知り、購入して使用し、最終的に破棄するまでの一連の経験や心理状況などを時系列に整理したもので、消費行動モデルと呼ばれる場合もあります。消費者の購買行動モデルを踏まえてマーケティング戦略を設計することで、消費者が求めるものを適切なタイミングで提供できるのです。本記事ではこの「購買行動プロセス」の過去から現在までの変化を、大きく3つの時代背景・メディアの変化からまとめました。
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購買行動モデルは変化する
人間は本質的には20万年前からさほど進化していないといわれているそうですが、そうは言っても、社会の様子が変化すれば行動パターンは変わります。たとえば、インターネットと電子メールが発達した現代において、数十年前のように紙の手紙で文通をしようと思う人はもはやほとんどいないでしょう。
消費者の購買行動パターンも時代やメディアの進化・発展とともに変化し、それに連れて購買行動モデルも変化を遂げてきました。この記事では過去から現在までの社会の変化を追う形でそれぞれの時代の購買行動モデルについて説明していきたいと思います。
購買行動モデルは、時代背景やメディアの状態を踏まえて大きく以下の三つの段階に分けて考えることができます。
1.マスメディア時代
インターネットが登場する以前、消費者が商品に関する情報を収集する手段は限られていました。
この時代、消費者の購買意思決定を補佐する主な情報源として用いられていたのは、テレビCMや新聞・雑誌の広告、店頭販売員から受ける説明やカタログ、パンフレットといった、企業の側から提供される情報です。消費者が自分から情報を「取りに行く」手段はほぼないに等しい状態で、企業から消費者へと一方通行に近い形で流れる、いわゆる「マス広告」が絶対的な効果を誇る時代でした。
この時代に提唱されたのが、AIDA(アイーダ)の法則とAIDMA(アイドマ)の法則です。
AIDAの法則はアメリカのE・K・ストロング氏が『Theories of Selling』という論文の中で発表したもので、これを受けて1920年代に米国の経済学者ローランド・ホール氏によって提唱されたのがAIDMAの法則です。
AIDAはAttention(認知)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Action(行動)の頭文字を並べたもので、AIDMAはそこにMemory(記憶)が加わります。いずれも消費者が商品を知ってから実際に購入するまでの段階を示すもので、この法則に照らし合わせることで、消費者が今どの段階にあるかを把握することができます。また、把握した各段階に応じて適切な施策を打つことにより、マーケティングや販促活動を効果的に行うことが可能となります。
【AIDMAの法則】
段階 | 消費者の状態 | 取るべきアプローチ例 |
Attention(認知) | 商品を知る | CMや広告で商品を知る |
Interest(興味) | 商品に興味を抱く | 商品を訴求し、消費者の興味を引く |
Desire(欲求) | 商品を欲しいと思う | 商品が欲求を満たすものであることを納得させ、購買意欲を後押しする |
Memory(記憶) | 商品を記憶する(思い出す) | ダイレクトメールや電話などでフォローする |
Action(行動) | 実際に商品を購入する | 実際に購買行動を起こさせるような働きかけをする |
参考:【基本】アイドマの法則とは?自社のWebマーケティングを見直してみよう :: 株式会社イノーバ
2.インターネット検索時代
AIDMAの法則が提唱されたのは100年近く前のことですが、現在でも基本的なプロセスとして広く現場で活用されている現役のツールです。とはいえ、インターネットが一般化し、消費者がWebサイトなどから自由に情報を収集できる土台が整うと、消費者の行動パターンも徐々に変化を遂げていきます。従来のように企業からの一方的な情報提供に頼るのではなく、消費者がインターネット上のWebサイトやブログなどにアクセスし、商品に関する情報を検索することができるようになりました。また、SNSの普及によって消費者自身が手軽に情報を発信するためのインフラが整い、情報の流れ方も劇的に変化し始めます。
こうした変化を受けて登場したのが、インターネット検索時代の購買行動モデルであるAISASやAISCEAS、ZMOTです。
AISAS(アイサス)は2005年に大手広告代理店である電通が提唱・商標登録したもので、インターネット普及後の購買行動を表す代表的なモデルとして知られています。AIDMAの5つの行動プロセスからDesireとMemoryが外れ、かわりにSearch(検索)とShare(情報共有)が加わっています。
AISCEAS(アイシーズ)はAISAS同様にインターネット検索時代の購買行動を示すモデルで、こちらはSearch(検索)とAction(行動)の間にComparison(比較)とExamination(検討)が入ります。
【AISAS】
段階 | 消費者の状態 | 取るべきアプローチ例 |
Attention(認知) | 商品を知る | CMや広告で商品を認知してもらう |
Interest(興味) | 商品に興味を抱く | 商品を訴求し、消費者の興味を引く |
Search(検索) | 商品について検索する | 自社の情報が検索結果に表示されるよう、Webサイトでの情報提供・SEO対策などを行う |
Action(行動) | 実際に商品を購入する | 実際に購買行動を起こさせるような働きかけをする |
Share(情報共有) | 商品に関する情報を共有する | SNSなどで情報発信をしてもらいやすい仕組みを作る |
インターネット検索時代の購買行動モデルについて考える時、あわせて覚えておきたいキーワードの一つがZMOTです。ZMOTは2011年にGoogleが提唱した新しい概念で、ひとことでいうと、「消費者が店頭を訪れるより前に、(インターネット検索による)購買意思決定の瞬間がある」とする考え方です。
スマホの普及によって情報検索がより身近なものとなり、消費者は店舗を訪問する前に、WebサイトやSNSなどを通じて手軽に商品の情報を検索できるようになりました。得られる情報の量や質も従来とは比べ物にならないほど充実してきており、この段階で購買意思決定が下されるケースが増えてきています。
Zero Momentとは商品やサービスに触れる前の「瞬間」を指す語ですが、今後はこのZero Momentを貴重な顧客接点と捉えてマーケティング戦略を構築していく必要があります。
3.コンテンツマーケティング時代
最後に、近年注目を浴びつつある購買行動モデルとして、DECAX(デキャックス)をご紹介します。
DECAXはDiscovery(発見)、Engage(関係)、Check(確認)、Action(購買)、eXperience(体験と経験)の5つのプロセスの頭文字を並べたもので、2015年に電通デジタル・ホールディングスが「コンテンツマーケティングに対応した購買行動モデル」として提唱した概念です。
【DECAX】
段階 | 消費者の状態 | 取るべきアプローチ例 |
Discovery(発見) | コンテンツをきっかけとして商品を「発見」する | 消費者の求めるコンテンツを用意し、見つけてもらう仕組みを作る |
Engage(関係) | コンテンツを何度も閲覧することで、商品(企業)との「関係」を深めていく | コンテンツに繰り返し触れられる仕組みを作る |
Check(確認) | 商品についてより詳しい情報を「確認」する | コンテンツや自社の信頼性を高め、適切なタイミングで詳細情報を提供できる仕組みを作る |
Action(購買) | 商品を「購入」する | 最適なタイミングでアクションへの導線を提示する |
eXperience(体験と経験) | 商品を体験し、感想をSNSなどで「共有」する | 情報をシェアしたくなる仕組みを作る |
DECAXの大きな特徴は、AIDMAやAISASにおいて行動の起点となっていた「Attention(注意)」が「Discovery(発見)」に置き換えられていることです。AIDMAとAISASでは、まず企業が主体となって消費者の関心を惹くための行動(広告)を起こし、それがトリガーとなって消費者の購買プロセスが動き始めました。
これに対してDECAXでは、消費者自身による「コンテンツの発見」が行動の起点となります。また、発見後のEngage(関係)の段階においても、消費者が自発的に気に入ったWebサイトなどを訪れ、「いいね」や「シェア」、メールマガジン登録といった小さな行動を積み重ねて関係を深めていきます。自分自身の購買行動を思い返してみると、確かにそうした流れがあることに気付くのではないでしょうか。
参考:コンテンツマーケティング時代の購買行動モデル「DECAX」を考える :: 株式会社イノーバ
コンテンツマーケティング時代の購買行動モデル「DECAX」を考える
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近年、注目されている購買行動モデルとして、Dual AISAS をあわせてご紹介しておきます。Dual AISASは従来のAISASの考え方に「情報拡散」の概念を加えたもので、提唱者の電通ではこのモデルについて次のように説明しています。
Dual AISAS Modelは、これまでのAISASに、アテンションにまつわる新たな消費行動を組み入れ、さらにモデル内に流れる情報と消費者が持つ興味の中身を明確に規定することで、現在の消費行動をより忠実に表現しています。
そこでDual AISAS Modelは、これまでのAISASを「『買いたい』のAISAS」という購買モデルとし、Attentionの周囲に回る情報拡散モデルを「『広めたい』のA+ISAS」として加えました。
出典:“Dual AISAS”で考える、もっと売るための戦略。 | 電通報
SNSなどから得られる情報の重要性が高まる中、消費者自身による情報拡散行動を自社のマーケティング戦略にいかに取り入れていくかが、今後は重要なポイントとなっていくと考えられます。
今後のマーケティング戦略に求められるもの
コンテンツが購買行動における重要なカギを握る時代において、今後企業はどのような点に留意してマーケティングを推進していけばよいのでしょうか?
この問いにはさまざまな答えが考えられますが、一つ確実にいえるのは、品質と信頼性の高いコンテンツを整備し、情報を求める消費者に対して適切なタイミングで「見つけてもらえる」ような仕組みを早急に構築する必要があるということです。
インターネット上に溢れる大量の情報の中から自社(自社の商品)を見つけてもらい(Discovery)、幾度もの接触を重ねて関係性を深め(Engage)、確認を経て信頼を勝ち取る(Check)。そして、実際に商品を購入してもらった(Action)あとも、消費者自身に新たな発信者として自社の情報を拡散してもらう――このようにDECAXモデルを踏まえてマーケティング戦略を組み立てていくことが、今後ますます重要となっていくはずです。
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コンテンツマーケティング時代の購買行動モデル「DECAX」を考える