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イノーバマーケティングチーム2024/04/01 7:31:553 min read

CMSとWebアクセシビリティガイドライン - JIS X 8341-3への対応

1. はじめに

Webアクセシビリティとは、障がいの有無に関わらず、誰もがWebサイトを利用できるようにすることです。高齢者や一時的な障がいを持つ人なども含め、あらゆる人々が等しくWeb上の情報にアクセスできる環境を整備することが重要です。

日本では、Webアクセシビリティを確保するための指針として、JIS X 8341-3が定められています。この規格は、Webコンテンツがアクセシブルであるために満たすべき要件を定義しており、WCAG (Web Content Accessibility Guidelines) 2.0との整合性も図られています。

CMSは、Webサイトのコンテンツを管理するためのシステムであり、Webアクセシビリティを確保する上で重要な役割を果たします。CMSを適切に設定・運用することで、アクセシブルなWebサイトを効率的に構築・維持することができるのです。

本記事では、JIS X 8341-3の要件を満たすために、CMSを活用してWebアクセシビリティを向上させる方法について詳しく解説します。

2. JIS X 8341-3の要件と実装方法

JIS X 8341-3では、Webコンテンツがアクセシブルであるために満たすべき要件が、以下の4つの原則に分類されています。

  1. 知覚可能性
  2. 操作可能性
  3. 理解可能性
  4. 堅牢性

各原則には、より具体的なガイドラインと達成基準が定められています。以下に、それぞれの原則における主な要件と、CMSを活用した実装方法を解説します。

2.1 知覚可能性

知覚可能性とは、コンテンツを利用者が知覚できるようにすることを指します。

2.1.1 代替テキスト

画像には、その内容を説明する代替テキストを提供する必要があります。CMSを使用する際は、画像のアップロード時に代替テキストを入力できるフィールドを設けるようにしましょう。また、代替テキストの入力が必須であることを明示し、適切な内容が入力されるようにガイドラインを提示することも効果的です。

2.1.2 時間依存メディア

動画や音声コンテンツには、字幕や手話通訳、音声解説などの代替手段を提供する必要があります。CMSで動画や音声を扱う場合は、これらの代替コンテンツをアップロードできる機能を実装しましょう。また、代替コンテンツの提供が必須であることを明示し、適切なフォーマットでの提供を求めることが重要です。

2.1.3 適応可能性

コンテンツは、利用者の要求に応じて様々な方法で提示できるようにする必要があります。CMSでは、レスポンシブデザインを採用し、様々なデバイスやウィンドウサイズに適応できるようにしましょう。また、ユーザーがコンテンツの表示方法(フォントサイズ、配色など)を調整できる機能を提供することも有効です。

2.1.4 判別可能性

コンテンツは、利用者が知覚しやすいように提示する必要があります。CMSでは、適切なコントラスト比を維持し、背景と前景の色の組み合わせに注意しましょう。また、テキストは画像化せずに、テキストのままで提供することが重要です。

2.2 操作可能性

操作可能性とは、利用者がコンテンツを操作できるようにすることを指します。

2.2.1 キーボード操作

すべての機能をキーボードで操作できるようにする必要があります。CMSでは、キーボードフォーカスを適切に管理し、タブ移動の順序を論理的に設定しましょう。また、キーボードショートカットを提供することで、効率的な操作を可能にすることができます。

2.2.2 十分な時間

利用者がコンテンツを読み、操作するために十分な時間を提供する必要があります。CMSで時間制限のある機能を実装する場合は、利用者が制限時間を調整したり、延長したりできるようにしましょう。また、自動更新されるコンテンツについては、更新を一時停止または非表示にする機能を提供することが求められます。

2.2.3 発作の防止

閃光やフラッシュを含むコンテンツは、発作を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。CMSでは、このようなコンテンツを使用する際に警告を表示するとともに、代替コンテンツを提供するようにしましょう。

2.2.4 ナビゲーション可能性

利用者がコンテンツ内を容易に移動できるようにする必要があります。CMSでは、ページタイトル、見出し、ランドマークなどを適切に設定し、ナビゲーションを容易にしましょう。また、複数の手段でコンテンツを探せるように、サイト内検索や適切なリンク設定も重要です。

2.3 理解可能性

理解可能性とは、利用者がコンテンツを理解できるようにすることを指します。

2.3.1 読みやすさ

テキストコンテンツは、読みやすく理解しやすいものにする必要があります。CMSでは、適切な文字サイズや行間、段落構成を使用し、読みやすさを確保しましょう。また、専門用語や略語については、必要に応じて説明を提供することが求められます。

2.3.2 予測可能性

Webページの見た目や操作性は、一貫性を保ち、予測可能なものにする必要があります。CMSでは、一貫したナビゲーションやレイアウト、デザインを使用し、利用者の混乱を防ぎましょう。また、コンテクストの変化(新しいウィンドウやタブの開始、フォーカスの移動など)は、利用者が予測できるようにすることが重要です。

2.3.3 入力支援

入力エラーを防止し、修正を容易にする必要があります。CMSでフォームを実装する際は、入力フィールドにラベルを付け、必須項目を明示しましょう。また、エラーが発生した場合は、わかりやすいエラーメッセージを表示し、修正方法を提示することが求められます。

2.4 堅牢性

堅牢性とは、コンテンツが様々な利用者エージェントに対応できるようにすることを指します。

2.4.1 互換性

コンテンツは、現在および将来の利用者エージェントとの互換性を最大限に保つ必要があります。CMSでは、標準的なマークアップ言語(HTML、CSS)を使用し、仕様に準拠したコーディングを心がけましょう。また、新しい技術を採用する際は、後方互換性に配慮することが重要です。

3. 主要なCMSにおけるアクセシビリティ対応

主要なCMSには、WordPressやDrupal、Joomla!などがあります。これらのCMSには、アクセシビリティを向上させるための様々な機能や拡張機能が用意されています。以下に、各CMSにおけるアクセシビリティ対応について解説します。

3.1 WordPress

WordPressは、世界で最も広く使われているCMSの一つです。

3.1.1 テーマとプラグイン

WordPressでは、アクセシブルなテーマを選択することが重要です。また、アクセシビリティを向上させるためのプラグインも数多く提供されています。例えば、「WP Accessibility」プラグインは、様々なアクセシビリティ機能を追加することができます。

3.1.2 投稿編集画面での配慮

投稿編集画面では、見出しの適切な使用、代替テキストの入力、適切なリンクテキストの設定などに注意しましょう。また、Gutenbergエディターを使用する場合は、ブロックごとにアクセシビリティを考慮することが重要です。

3.1.3 事例と Tips

アクセシブルなWordPressサイトを構築した事例や、アクセシビリティ向上のためのTipsを紹介します。例えば、キーボード操作に配慮したメニューの設計や、適切なランドマークの設定などが挙げられます。

3.2 Drupal

Drupalは、高い柔軟性と拡張性を持つCMSとして知られています。

3.2.1 モジュールとテーマ

Drupalでは、「Accessibility」モジュールや「High Contrast」モジュールなど、アクセシビリティに関連するモジュールが提供されています。また、アクセシブルなテーマを選択することも重要です。

3.2.2 コンテンツ編集時の留意点

コンテンツ編集時は、適切な見出しの設定、リンクテキストの指定、テーブルのマークアップなどに注意しましょう。また、CKEditorなどのWYSIWYGエディターを使用する場合は、生成されるHTMLがアクセシブルであることを確認することが求められます。

3.2.3 事例と Tips

アクセシブルなDrupalサイトの事例や、アクセシビリティ向上のためのTipsを紹介します。例えば、フォームのアクセシビリティを高めるためのモジュールの活用や、WAI-ARIAランドマークの適切な設定などが挙げられます。

3.3 Joomla!

Joomla!は、ユーザービリティとアクセシビリティに配慮したCMSとして知られています。

3.3.1 コンポーネントとテンプレート

Joomla!では、アクセシビリティを向上させるためのコンポーネントやテンプレートが提供されています。例えば、「Accessibility Links」コンポーネントは、様々なアクセシビリティ機能を追加することができます。

3.3.2 アーティクル作成時のポイント

アーティクル作成時は、適切な見出しタグの使用、代替テキストの入力、読みやすいテキストの作成などに注意しましょう。また、リンクテキストは、リンク先の内容を適切に表現するようにすることが重要です。

3.3.3 事例と Tips

アクセシブルなJoomla!サイトの事例や、アクセシビリティ向上のためのTipsを紹介します。例えば、アクセシブルなナビゲーションの設計や、キーボード操作に配慮したコンテンツの作成などが挙げられます。

3.4 CMSに依存しない共通の対策

CMSに依存しない共通の対策として、以下の点が挙げられます。

3.4.1 セマンティックなHTMLの使用

適切な見出しタグ、リストタグ、テーブルタグなどを使用し、セマンティックなHTMLを記述することが重要です。これにより、コンテンツの構造を明確にし、アクセシビリティを向上させることができます。

3.4.2 WAI-ARIAの活用

WAI-ARIAは、Webコンテンツのアクセシビリティを向上させるための仕様です。CMSでWAI-ARIAを活用することで、ランドマークやライブリージョンなどを適切に設定し、アクセシビリティを高めることができます。

3.4.3 アクセシブルなフォーム設計

フォームのアクセシビリティを確保するために、ラベルとフォーム・コントロールを適切に関連付け、わかりやすいエラーメッセージを表示するなどの配慮が必要です。また、タブ移動の順序を適切に設定することも重要です。

4. アクセシビリティ評価と改善

Webアクセシビリティを向上させるためには、定期的な評価と改善が欠かせません。以下に、アクセシビリティ評価の方法と改善のポイントを解説します。

4.1 自動チェックツール

自動チェックツールを使用することで、Webサイトのアクセシビリティを効率的に評価することができます。

4.1.1 利用可能なツール一覧

代表的な自動チェックツールとして、以下のようなものがあります。

  • aXe: Browser Extension、CLI、JavaScript APIなどが提供されている
  • WAVE: Browser Extensionや オンラインツールが利用可能
  • Lighthouse: Google Chrome開発者ツールに組み込まれている
  • Accessibility Insights: Browser ExtensionとWindows applicationが提供されている

4.1.2 ツールの使い方

多くの自動チェックツールは、WebページのURLを指定するだけで、アクセシビリティの問題点を検出し、レポートを生成してくれます。一部のツールでは、問題の重要度や修正方法なども提示されます。定期的にこれらのツールを使用し、アクセシビリティの問題を早期に発見・修正することが重要です。

4.1.3 自動チェックの限界

ただし、自動チェックツールにはいくつかの限界があることに注意が必要です。例えば、コンテンツの意味的な正確性や、実際の使用場面での使いやすさなどは、自動チェックでは判断が難しい場合があります。そのため、自動チェックと併せて、手動チェックやユーザビリティテストを行うことが求められます。

4.2 手動チェック

手動チェックでは、実際にWebサイトを使用しながら、アクセシビリティの問題点を発見します。

4.2.1 キーボードのみでの操作

マウスを使用せずに、キーボードのみでWebサイトを操作できるかどうかを確認します。すべてのインタラクティブな要素に到達でき、適切に操作できることが重要です。

4.2.2 画面リーダーでの確認

画面リーダーを使用して、Webサイトの内容が適切に読み上げられるかどうかを確認します。代替テキストや見出し構造などが適切であることが求められます。

4.2.3 拡大表示での表示崩れチェック

ブラウザの拡大表示機能を使用し、Webサイトのレイアウトが崩れないかどうかを確認します。テキストが読みやすく、コンテンツが適切に表示されることが重要です。

4.3 ユーザビリティテスト

ユーザビリティテストでは、実際の利用者を対象に、Webサイトの使いやすさを評価します。

4.3.1 障がいのある人を含めたテスト

ユーザビリティテストでは、障がいのある人を含めた多様な利用者を対象とすることが重要です。異なる障がい特性を持つ人々が、Webサイトを円滑に利用できるかどうかを確認します。

4.3.2 テスト実施のポイント

ユーザビリティテストを実施する際は、以下の点に注意しましょう。

  • 参加者の障がい特性や利用環境を考慮し、適切なタスクを設定する
  • テスト中は、参加者の行動や発言を詳細に観察・記録する
  • テスト後は、問題点を整理し、改善策を検討する

4.4 継続的な改善サイクル

アクセシビリティの確保は、一時的な取り組みではなく、継続的な改善サイクルの中で実現される必要があります。

4.4.1 定期的な評価と Issue 管理

定期的にアクセシビリティの評価を行い、発見された問題点はIssue管理システムなどで管理しましょう。問題の重要度や対応の優先順位を明確にし、計画的に改善を進めることが重要です。

4.4.2 制作フローへのアクセシビリティ組み込み

アクセシビリティの考え方を、Webサイトの企画・設計・開発・運用の各フェーズに組み込むことが求められます。各フェーズでアクセシビリティをチェックする仕組みを整備し、問題の早期発見・修正に努めましょう。

5. CMSを用いたアクセシブルなWebサイト制作のベストプラクティス

CMSを用いてアクセシブルなWebサイトを制作する際の、ベストプラクティスを以下に示します。

5.1 企画・要件定義段階での配慮

Webサイトの企画・要件定義段階では、アクセシビリティを重要な要件の一つとして位置づける必要があります。利用者の多様性を考慮し、アクセシビリティ確保の目的と達成レベルを明確にしましょう。

5.2 デザイン段階でのチェックポイント

デザイン段階では、アクセシビリティに配慮したUI設計が求められます。十分なコントラスト比の確保、読みやすいフォントサイズ、適切なホワイトスペースの使用などに留意しましょう。また、デザインパターンライブラリを活用し、一貫性のあるアクセシブルなデザインを実現することが重要です。

5.3 実装・テスト時の注意点

実装段階では、セマンティックなマークアップ、WAI-ARIAの適切な使用、キーボード操作への対応などが求められます。また、実装したコードが、自動チェックツールや手動チェックで問題がないことを確認しましょう。テスト段階では、多様な利用者を対象としたユーザビリティテストを実施し、アクセシビリティの観点から問題がないことを検証することが重要です。

5.4 公開後のPDCAサイクル

Webサイトの公開後は、アクセシビリティの維持・向上のためのPDCAサイクルを回すことが求められます。定期的なアクセシビリティ評価に基づき、問題点を把握し、改善策を立案・実行しましょう。また、利用者からのフィードバックを収集し、アクセシビリティの向上に役立てることが重要です。

6. アクセシビリティ関連の情報源

アクセシビリティに関する知識を深め、最新の動向を追うために、以下のような情報源を活用しましょう。

6.1 アクセシビリティ関連団体・イニシアティブ

  • W3C Web Accessibility Initiative (WAI)
  • 一般社団法人日本アクセシビリティ協会(JAA)
  • 特定非営利活動法人アクセシビリティ・コンソーシアム

6.2 参考になる書籍・Web記事

  • 「Webアクセシビリティ - アクセシブルな設計やコンテンツ制作について」太田良典, 伊原力也 (著)
  • 「アクセシビリティAPI コーディングガイド - WAI-ARIA 1.2」 (W3C Working Group Note)
  • 「Inclusive Components」Heydon Pickering (著)

6.3 アクセシビリティ関連イベント・カンファレンス

  • CSUN Assistive Technology Conference
  • AccessU
  • a11yTOKYO

これらのイベントやカンファレンスに参加することで、アクセシビリティに関する最新の知見を得ることができます。

7. おわりに

本記事では、CMSを活用してWebアクセシビリティを向上させる方法について、JIS X 8341-3の要件を踏まえて詳しく解説しました。アクセシブルなWebサイトを制作することは、障がいのある人だけでなく、すべての利用者にとって使いやすく価値のあるWebサイトを提供することにつながります。

CMSは、アクセシビリティを確保する上で重要な役割を果たします。CMSの機能を適切に活用し、アクセシビリティに配慮した設定・運用を行うことで、効率的にアクセシブルなWebサイトを構築・維持することができるでしょう。

ただし、アクセシビリティの確保は、CMSだけで実現できるものではありません。企画・設計・開発・運用の各フェーズにおいて、アクセシビリティの考え方を組み込み、継続的な改善サイクルを回すことが求められます。

今後、Webアクセシビリティの重要性はますます高まっていくことが予想されます。法的義務の観点からも、社会的責任の観点からも、アクセシブルなWebサイトの提供は不可欠です。CMSを活用し、アクセシビリティに配慮したWebサイト制作に取り組むことで、誰もが利用しやすいWebの実現に貢献していきましょう。

【FAQ】

Q.なぜWebアクセシビリティが重要なのですか?
A.障がいの有無に関わらず、誰もがWebサイトを利用できるようにすることが重要です。高齢者や一時的な障がいを持つ人なども含め、あらゆる人に公平にアクセスできる環境を整備する必要があります。

Q.JIS X 8341-3とはどのような規格ですか?
A.JIS X 8341-3は、日本におけるWebアクセシビリティの指針で、Webコンテンツがアクセシブルであるための要件を定義しています。WCAG 2.0との整合性も図られています。

Q.CMSを使うメリットは何ですか?
A.CMSを適切に設定・運用することで、アクセシブルなWebサイトを効率的に構築・維持できます。コンテンツ制作時の支援機能やアクセシビリティ向上のための機能が備わっています。

Q.アクセシビリティ評価にはどのようなものがありますか?
A.自動チェックツール、手動チェック、ユーザビリティテストなどがあります。これらを組み合わせて定期的に評価し、問題点を特定・改善することが重要です。

【チェックリスト】

  •  アクセシビリティを重要な要件として位置づける
  •  アクセシブルなデザインパターンを策定する
  •  CMSの設定でアクセシビリティ機能を有効にする
  •  コンテンツ制作時の作業手順を徹底する
  •  自動チェックツールを活用して定期的に評価する
  •  手動チェックやユーザビリティテストを実施する
  •  発見された問題をIssue管理し、計画的に改善する
  •  利用者からのフィードバックを収集し改善に活かす
  •  最新のアクセシビリティ動向を継続的に学習する
  •  PDCAサイクルを確立し、継続的な改善を行う
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イノーバマーケティングチーム

株式会社イノーバの「イノーバマーケティングチーム」は、多様なバックグラウンドを持つメンバーにより編成されています。マーケティングの最前線で蓄積された知識と経験を生かし、読者に価値ある洞察と具体的な戦略を提供します。