インバウンドマーケティングとは? 5分でわかる基本と実践のポイント、事例まで解説

インバウンドマーケティング

インバウンドマーケティング(Inbound Marketing)とは、ブログやeBook、ホワイトペーパー、ニュースリリース、動画などのコンテンツをWebで公開し、検索エンジンの結果ページに上位表示されたりソーシャルメディア(SNS)で共有・拡散されるような取り組みをすることで、見込み顧客に見つけてもらい、自社やその商品・サービスに興味を持ってもらえるように仕掛けるマーケティング手法です。現代の消費者・購買者の行動様式に合わせて提唱されている概念で、インターネットやスマホが普及した現代、企業がデジタルマーケティングを進めるに当たってとても重要な考え方です。

旧来のマーケティングは、企業から売りたい相手に向けて押し付けるアウトバウンド(外側に向かう)型で、テレマーケティングやダイレクトメール、マス広告などの手段が使われていました。しかし、デジタル時代の消費者・購買者は、情報過多の環境で生活したり仕事をしており、そうした押し付け型のマーケティングメッセージを避けるようになっています。

これに対しインバウンドマーケティングは、消費者・購買者がWeb検索や商業メディアの閲読、SNSでの交流など、自分の興味・関心にもとづいて自発的に行動し、その結果、自分に役立つ情報として企業のマーケティングメッセージを受け取ります。そのため、売りたい相手が自ら企業の方にやってくる。これを指してインバウンド(内側に向かう)と呼んでいます。

本稿では、インバウンドマーケティングの概念とそのメリット、インバウンドマーケティング実践に必要な「購買プロセス」の考え方について解説します。

インバウンドマーケティングとは?

「追いかける」から「見つけてもらう」へ-インバウンドという考え方

「インバウンドマーケティング」という言葉自体は聞いたことがあるという人は多いと思います。

しかしながら、従来のアウトバウンド型の対義語としてそのコンセプトは比較的理解しやすいものの、いざ実際に取り組もうと思うと「どこから手を付けていいのか」「なにを作らなければならないのかよくわからない」と壁にぶつかってしまうことも多いのではないでしょうか。

ぜひ本稿を参考に、理解を深めてください。まず、あらためて「インバウンドマーケティング」という呼び方の由来に触れておきましょう。

一般に「インバウンド」と言ったときに、マーケティング業界以外の多くの人は「訪日インバウンド=外国人観光客が日本を訪れること」を連想するのではないでしょうか。

「外から内(日本)にやってくる」から「インバウンド」…言葉としては「インバウンドマーケティング」も同じことです。

テレマーケティングやダイレクトメール、マス広告といったプッシュ型の「アウトバウンドマーケティング」によって顧客を「追いかける」のではなく、顧客に自社を「自ら見つけてもらう」(プル型)ことを目指すのが「インバウンドマーケティング」の基本的な考え方です。

2006年にこのマーケティング手法を提唱したブライアン・ハリガン(米国HubSpot)によるとインバウンドマーケティングとは「一般消費者を特定の商品やサービスに対する顧客に育て上げていくための、全てのステップやツール、ライフサイクルの総称」とされています。なにか特定のツールやシステムを指すのではなく、それらを含むプロセス全体を顕す概念、ということです。

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図1)インバウンドマーケティングの5ステップ

インバウンドマーケティング誕生のきっかけは至極単純。従来型のマーケティング手法であるアウトバウンドマーケティングだけでの新規顧客の獲得が困難になってきたからです。

インバウンドマーケティングとコンテンツマーケティングの違い

近い概念に「コンテンツマーケティング」というものがありますが、コンテンツマーケティングとは、「ユーザーにとって価値のあるコンテンツを提供し、購買行動へ結び付けるWebマーケティング手法」のこと。その名に示す通り、「コンテンツ」に中心を置いた概念です。
一方インバウンドマーケティングは先に示した通り、あくまでプロセス全体にフォーカスしたもので、アウトバンドマーケティングの対抗概念として生まれたものになります。

なぜアウトバウンドマーケティングが効かなくなったのか?

あなたは今まで、自宅に訪問販売のセールスマンが訪れた経験がありますか?あるいは、買う予定もないマンションのセールスの電話を受けたことは?その時、どう感じましたか?「何か、売りつけられるようで嫌だ。」 「なんとなく騙されるのではないか?」 というような、ネガティブな気持ちになった人も少なくないでしょう。これはなにも訪問販売や電話営業に限りません。

大量に送られてくるメルマガ、自宅のポストからあふれるDMやチラシ、しつこく画面に現れるバナー広告などにウンザリした経験は誰しも持っているのでないでしょうか。

なぜこういった情報に「ウンザリ」するようになったのか。

それは、我々自身が「知りたいことは自分で調べられる」ようになり、「自分が欲しいと思わない情報はシャットアウトするようになった」からです。

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図2)アウトバウンドマーケティングとインバウンドマーケティングの主な施策

インターネットで情報武装する消費者

調査会社ニールセンが国内の消費者に対して「新商品に関する情報源」を調査したところ、情報の入手経路として「インターネット検索」を選んだ人が68%で最も多く、「テレビ広告」の50%を大きく上回る結果となりました。

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図3)参考:新商品購入に関するグローバル調査レポート

この結果が意味するところは、いまや消費者はテレビや雑誌を通して送られてくる情報を受動的に消費し購買を行うのではなく、自ら積極的に情報を検索・収集し、購買につながる意思決定をしている、ということです。

また、この傾向はBtoC(一般消費者向け)ビジネスだけでなく、BtoB(企業間取引)においても同様です。

商材が高額で検討期間が長く、極めてロジカルに意思決定が行われるBtoBビジネスにおいて、買い手側はその意思決定プロセスの57%を営業担当との接触前に済ませているといいます。この57%の部分こそ、まさにネットでの情報収集です。

BtoCにおいてもBtoBにおいても、購買行動の多くはネットでの情報収集から始まっているのです。

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インバウンドマーケティングは、この消費者の行動変化に対応した考え方です。

顧客になり得ない相手に一生懸命「押し売り」をして嫌われるのではなく、興味を持った消費者が自ら検索したときに「見つけてもらえる」ように「顧客が欲しい情報」を用意し、ニーズを育成して購買につなげていくのです。

インバウンドマーケティングは、購買プロセスに応じたコンテンツでニーズを育てる

この「顧客が欲しい情報」こそが「コンテンツ」です。

間違えてはいけないのは「企業の発信したい情報」ではないという点。従来型のWebサイトは会社概要に製品情報、技術仕様や価格表など、企業が伝えたいと思う情報だけで構成されていました。これらの情報はニーズの顕在化した見込み顧客に対しては有効ですが、潜在顧客にとっては意味をなしません。

インバウンドマーケティングを実現するために必要なのは、「顧客が欲しい情報」は何かを考え、彼らの興味関心の段階(購買プロセス)に応じたコンテンツを準備し、それを然るべきタイミングで届けることなのです。

購買プロセスは大きく下記の4段階にわけることができます。

(もちろんもっと細分化できることもできますが、細かく分けすぎても設計しづらくなります)

それぞれのプロセスに合わせた施策例も図にまとめましたので参考にしてみてください。
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図5)購買プロセスと段階に応じたコンテンツ例

上記の図を見るとわかるように、インバウンドマーケティングは「見つけてもらう(認知獲得)」ための集客施策にはじまり、リード(個人情報)の獲得、ニーズの育成から成約、さらには既存顧客の定着・ロイヤリティ向上というCRM領域にまで及ぶ幅広い範囲をカバーする考え方です。

次に、それぞれの購買段階について

  • 顧客の状態
  • 施策の目的
  • コンテンツ設計のポイント

の3つのポイントを簡単にまとめてみましょう。

認知獲得系コンテンツ(認知段階)

【顧客の状態】

この段階の顧客はまだニーズが顕在化しておらず、皆さんの会社の存在や製品についても知らないことがほとんど

【施策の目的】

潜在顧客に「見つけてもらう」こと

【コンテンツ設計のポイント】

  • 顧客自ら積極的に情報収集を行う前の段階なので、製品やサービスについて声高に発信してもなかなか興味を持ってもらえない
  • ターゲット層が日頃関心を持っている話題はなにか、興味があることは何かを考え、ブログやソーシャルメディアなどで発信
  • 他社運営メディアへの寄稿、ゲストブログ、他社との共催セミナー等も自社だけではリーチできない潜在層へのアプローチに有効
  • 業界に関する調査やアンケートを実施し、その結果をリサーチレポートとして公開、プレスリリースを発信するといった手法もよく取られる
  • コンテンツマーケティング」が得意とする領域

理解促進系コンテンツ(調査・理解段階)

【顧客の状態】

解決したい課題の存在=ニーズが顕在化した段階。顧客自ら積極的な情報収集を開始している

【施策の目的】

課題の存在に気付いてもらいそれに対する改善策・ソリューションを「理解してもらう」ことが目的

【コンテンツ設計のポイント】

  • ユーザーが情報収集の過程で「知りたいこと」「疑問に思うこと」を想定し、コンテンツで丁寧に解決していく
  • 見込み顧客は自社に近い業界や課題を解決した事例等を探している。業界別・課題別・活用方法別などでコンテンツを準備しておくとより効果的
  • 一つひとつの細かいトピックはブログで、ブログを10本程度まとめた文量のまとまった情報はeBookで、それらコンテンツの定期的な配信にはメールマガジンを活用するとよい
  • 自社でのセミナー開催は参加者の課題を対面で解決できるだけでなく、見込み顧客からの信頼獲得にも効果的。時間、場所の制約を受けないオンラインセミナー(ウェビナー)が現在は主流。
  • この段階において、見込み顧客の情報ニーズに応じた適切なコンテンツ提供と検討のサポートを行うための「インサイドセールス」の活用が有効。

意思決定支援系コンテンツ(比較・選択段階)

【顧客の状態】

すでに施策の実施やツールの導入自体は決めており、予算取りを進めていたり競合製品と比較検討を行っているような段階

【施策の目的】

購買間近の見込み顧客に競合他社ではなく自社の商材を「選んでもらう」ことが目的

【コンテンツ設計のポイント】

  • 具体的な利用イメージを持ってもらうことでいかに製品体験を疑似体験してもらえるかがこの段階のコンテンツのカギ
  • 業界別、規模別、課題別の導入事例や実際のお客様の声(お客様の声には動画コンテンツも有効です)を用意
  • 導入までの具体的な流れを明示することでスケジュール感をイメージさせる
  • 実際に製品に触ることができるようにデモやトライアルを用意する
  • 導入にあたってよくある質問に答えたFAQなども欠かさず用意したい
  • 営業部門との情報共有と連携が必須

定着促進系コンテンツ(リピート・口コミ段階)

【顧客の状態】

既存顧客

【施策の目的】

購買後の顧客の満足度を向上させ「ファンになってもらう」ことでリピーター化することが目的

【コンテンツ設計のポイント】

  • 会員向けサイトで会員限定のコンテンツを提供
  • 会員向けのイベントを開催してユーザー同士のノウハウ共有の場をつくる
    • ※米国などではさまざまなITツールベンダーがユーザーコミュニティを作り、ユーザー同士が積極的にノウハウの共有や事例提供を行っており、定着率向上に一役買っている。
  • 担当営業部門、サポート部門との情報共有と連携が必須

クラウド型の商材などのサブスクリプション型、いわゆる月額課金モデルのビジネスでは解約率がビジネス全体に大きなインパクトを及ぼしますし、売り切り型のビジネスであったとしてもアフターフォローいかんで顧客による口コミは大きく左右されます。

ソーシャルメディアによって個人の情報発信力が極大化したいま、離脱顧客によるネガティブな口コミは思わぬマイナス要因となりかねませんので手を抜かないようにしたいものです。

インバウンドマーケティング推進のポイント

インバウンドとアウトバウンドを組み合わせたコンテンツの提供

ここまで読み進めて「アウトバウンドは効かないって言いながら(プッシュ型の)メルマガとか使ってるじゃん」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。

そう。アウトバウンドが効きにくくなっているのは、特に購買プロセスの一番はじめの段階なのです。

一度興味を持った相手に対しては、きちんと相手の情報ニーズにあわせたコンテンツであればメールマガジンも有効ですし、ある程度検討の進んだ見込み顧客に対しては自社セミナー等への参加を促す電話をかけてみてもいいでしょう。

インバウンドとアウトバウンド、どちらが良い悪いではなく、肝心なのは「顧客が必要とするコンテンツを、必要な時に一番届けやすい形で届ける」ことで購買プロセスを後押しすることです。

実際、弊社でも広告費にほとんどコストをかけない代わりにインサイドセールスの仕組みを導入し、メールマガジンや自社セミナーを通して顧客ニーズの育成につとめた結果、営業効率が3倍以上に改善しました。インバウンドを基本に、ポイントポイントでアウトバウンドな手法も取り入れることが成果に繋がっています。

皆さんもぜひ上手な組み合わせを模索してみて下さい。

関連記事:BtoB企業マーケターがマーケティング施策を選ぶ際に考えるべき基準

インバウンドマーケティングとアウトバウンドマーケティングのコスト比較

インバウンドマーケティングは、ここまで説明してきた通り、現代の消費者の行動変化に対応できる手法です。しかし、インバウンドマーケティングのメリットはそれにとどまりません。多額の広告投資を必要とする旧来のアウトバウンド型マーケティングに比べて、コストの面でも優位性があります。

インバウンドマーケティングの専門企業である米国のprotocol 80社によれば、インバウンドマーケティングは旧来のアウトバウンド型マーケティングに比べて年間コストを平均2万米ドル(1米ドル=113円換算で226万円)削減しつつ、54%も多くのリード(見込み顧客)を獲得できるとしています。同社の調査では、インバウンドマーケティングによるリード獲得単価が2012年に平均135米ドルだったのに対し、アウトバウンドマーケティングは平均346米ドルでした。

インバウンドマーケティングのコストを構成する要素として同社は、(1)戦略と計画の立案を専門家に依頼する費用、(2)コンテンツの制作費、(3)SEO(検索エンジン最適化)にかかる費用、(4)リスティング広告費、(5)ソーシャルメディアマーケティングの費用、(6)CMS(コンテンツ管理システム)の費用、(7)リードジェネレーションおよびリードナーチャリングにかかわる費用を挙げています。

詳しくは、同社のインフォグラフィックをご覧ください。

Inbound Marketing Pricing - The Cost of Inbound Marketing
出典:protocol 80

イノーバは、BtoB企業のインバウンドマーケティング活動を支援するサービス「BtoBマーケティング伴走型支援サービス」を提供しており、参考にその費用もここで紹介します。

これは、マーケティング戦略の初期設計から、そこで発信するコンテンツの制作、レポーティングまでをまとめたパッケージサービスです。最低価格のプランで30万円台から利用できます。(詳細な資料をこちらからダウンロードいただくか、お問い合わせください

イノーバでは自社でオウンドメディアを活用したインバウンドマーケティングを実践し高い成果を上げています。2021年現在、月間約10~20万人が当社のコンテンツにWebでアクセスしていて、そこから当社の製品・サービス資料や、ホワイトペーパー、eBookなどのダウンロードが月間1500件ほど発生します。

これにより、検討段階の見込み顧客を150件、商談を50件ほど創出できており、それぞれ仮にリスティング広告を使えば300万円、テレアポならば130万円に相当する効果だと見積もっています。

インバウンドマーケティングの成功事例

最後に、当社でご支援したインバウンドマーケティングの成功事例をご紹介します。

事例 プラス株式会社ファニチャーカンパニー

同社は1948年創業、オフィス家具やインテリア用品の製造・販売を中心にてがけるメーカーカンパニー。

オフィス家具メーカーとして一定の知名度を誇るものの、案件の大半をオフラインでの集客に頼っており、ウェブサイトを活用したインバウンドでの集客体制構築に課題がありました。

新しいお客様との接点づくりとして、Webサイトをリニューアルし、コンテンツ制作、マーケティングオートメーションとインサイドセールスの導入に着手。弊社のサポートも受けながら月五本のペースでブログコンテンツを更新し、インバウンドマーケティングの仕組みを作り上げたことで、プロジェクト開始からわずか一年未満でPV数は163%にアップしました。ご支援開始から5年経った2021年現在では、PVは3倍弱、リード獲得数は月100件以上、月の商談創出数は5倍以上まで伸びています。

事例の続き・詳細はこちらから

まとめ

今回の内容をまとめます。

  • ネットが普及し消費者が「欲しい情報、必要な情報は自分で探す」習慣を身につけた結果、プッシュ型の手法であるアウトバウンドマーケティングでの新規顧客獲得が難しくなった
  • そこで現れた「インバウンドマーケティング」は押し売りをせず、顧客自身に「見つけてもらう」事を目指すマーケティング手法
  • インバウンドマーケティングでは顧客の検討を促すため購買プロセスに寄り添ったコンテンツを提供する
  • 購買プロセスには大きく「認知段階」「調査・理解段階」「比較・選択段階」「リピート・口コミ段階」の4つが存在し、それぞれに対応するコンテンツを準備することが重要

ここまで見てきたように、インバウンドマーケティングの実践にはまず戦略の設計と、それに沿ったコンテンツの充実が必要不可欠です。

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