SaaSとは? 導入メリットや運用課題を説明します

デジタルマーケティング
インターネットの普及により、ビジネスの形は大きく変わりました。そのなかでもSaaSの登場は、コスト面、運用面において企業に多くのメリットをもたらしています。特に働き方改革や新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワークの導入が増加している現在、SaaSの活用がなければ実現は難しいでしょう。そこで、今回は業務効率化はもちろんテレワーク導入時にも欠かせないSaaSについて、概要やメリット、価格、運用の課題などについてお伝えします。
SaaSとは?
SaaS(サース)とは、Software as a Serviceの頭文字を取った略称で、「サービスとしてのソフトウェア」という意味を持っています。具体的には、クラウドサービスとして提供されるソフトウェアです。代表的なものとしては、Webメールやクラウドストレージ、チャットサービスなどが挙げられます。
これに近い形のサービスとして、Application Service Provider(ASP)があります。どちらもインターネットを通じて遠隔からソフトウェアを利用するため、基本的にはほぼ同じものという認識で間違いありません。
PaaS、IaaSとの違い
クラウドサービスには、SaaS以外にもPaaSやIaaSなどがあります。それぞれの概要は次のとおりです
PaaS(パース)
Platform as a Serviceの頭文字を取った略書で、主に開発者が利用するサービスです。具体的には、アプリケーションの開発に必要となる実行環境一式(プラットフォーム)を、インターネットを通して遠隔から利用できるものを指します。
IaaS(イアース、アイアース)
Infrastructure as a Serviceの頭文字を取った略称で、主にネットワークや仮想サーバー、CPU、メモリなどを、インターネットを通して遠隔から利用できるものを指します。
おおまかにいえば、SaaSはWebメールやチャットサービスなど一般ユーザーが利用するクラウドサービスなのに対し、PaaSやIaaSは、開発者が利用するクラウドサービスだといえるでしょう。
SaaSの活用メリット
次に、SaaSの活用によりどういったメリットが得られるのか、その代表的なものを紹介します。
インストールの手間がかからない
ビジネスで利用するツールは、オンプレミス型とクラウド型の大きく2つに分けられます。オンプレミス型を利用する場合、社内のサーバーや各自のパソコンにインストールをしなければ利用できません。これに対し、クラウド型であるSaaSは、インターネットにアクセスできる環境であれば、すぐに利用可能です。
また、オンプミス型の場合、バージョンによってサーバーやパソコンとの相性が悪い場合もありますが、SaaSであれば、機種依存性が低いため、そうした心配もありません。
いつでもどこからでも利用が可能
SaaSはオフィス以外の場所にいても、ファイルやアプリケーションの利用が可能です。また、基本的にはWebブラウザ経由で利用するため、パソコン以外にスマートやタブレットなどデバイスを選びません。これにより、テレワークで自宅やサテライトオフィスからでもオフィスにいる時と変わらない業務ができるのは大きなメリットといえるでしょう。
コスト低減が可能
パソコンにインストールして使うオンプレミス型の場合、パソコンの台数分のソフトウェアが必要です。1つのソフトウェアで複数人分のライセンスがある場合もありますが、基本的に購入して利用するため、導入時のコストはかなり高額になってしまいます。
これに対し、SaaSの場合は毎月で使った分だけを支払うもしくは機能によって月額料金を低くも設定できるケースが多いため、初期投資を抑えられるうえ、費用の平準化も可能です。
用途に応じてスポットでの利用も可能
SaaSはクラウド経由での利用となるため、用途に応じてスポットで利用する、アカウントを増減するといった使い方も可能です。例えば、「繁忙期の際に、臨時アルバイトの分だけメールアドレスを増やす」「自社に適したサービスかどうかを確認するため1ヶ月だけ使ってみる」などができるのもSaaSならではのメリットでしょう。
常にアップデートされたものを利用できる
SaaSは、新たな機能が追加される、バージョンアップがされるといった際は自動でアップデートされます。そのため、改めて最新版を購入することなく、常に最新のバージョンを手間をかけずに利用可能です。
また、オンプレミス型のようにバージョンアップされる度にパソコンの設定を変える必要もありません。そのため、保守管理の手間にかかるコスト低減が可能な点もSaaSのメリットといえます。
BCP対策にもつながる
クラウドストレージを利用すれば、社内のサーバーだけに書類を保管しているのに比べ、BCP対策として大きな効果を発揮します。地震や台風といった自然災害が起きた際でも業務再開のスピードを速められるのは、ビジネスを継続していくうえで大きなメリットです。
セキュリティの観点からも安心感が強い
利用するサービスにもよりますが、SaaSのサービスを提供する事業者は一般的な企業に比べセキュリティに高いコストをかけています。外部に自社の情報を預けるのはセキュリティ的に問題があると考えるかたも多いかもしれませんが、多くの場合、自社に保管するよりも安全性が高いといえるでしょう。
また、社内ですべての書類、データを保管しようと思えば、それを保守管理する人間が必要です。そのためのコストを考えれば、SaaSの利用は安全面からもコスト面からもメリットが大きいといえます。
代表的な国産SaaS
SaaSというと、Dropbox、Gmail、Slackなどまず海外サービスが思い浮かぶのではないでしょうか。しかし、日本発のSaaSも少なくありません。そこで、ここでは代表的な国産のSaaSをいくつか紹介します。
サイボウズoffice
国産のグループウェアソフトでもっとも有名なサービスといえばサイボウズです。中小企業向けのグループウェアで、300人までの企業で多く使われています(累計導入企業数69,000社以上・2019年)。
主な機能としては、「スケジュール」「ファイル管理」「メッセージ」「メール」「ワークフロー」「報告書」「ToDoリスト」「タイムカード」「掲示板」などグループウェアに必要な機能はほぼ網羅されています。価格も1ユーザー500円から利用でき(30日間無料)、1ヶ月単位での解約、ユーザー数変更も可能なため、テスト導入も気軽に行えます。
Sansan
テレビCMでも有名な法人向け名刺管理サービスのSansanです。スキャナやスマートフォンでスキャンが可能で、AIやオペレータの手入力による制度は99.9%を誇っています。また、11カ国語対応のため、海外企業との取引が多い企業でも対応可能です。
ほかにも、オンライン上で行える名刺交換機能、SFAやMAなどとの連携による顧客管理機能、コンタクト管理機能など、名刺を管理するだけではなく、営業管理ツールとしての活用も可能です。
freee
個人事業主から中小企業まで対応可能な会計ソフト、freeeです。日々の経費管理から決算書の作成まで多くの業務をワンクリックで可能にしたソフトウェアで、チャットや電話によるサポートが充実している点も国産ならではでしょう。
また、freeeは、会計ソフトのほか、人事労務、法人設立、プロジェクト管理、ERPなどのサービスもあり、用途に応じてさまざまなサービスを利用できます。
Chatwork
中小企業向けのビジネスチャットサービス、Chatwork。個人、グループチャットはもちろん、ファイル共有、タスク管理、ビデオ・音声通話などさまざまな機能を有したサービスです。社内以外でも他社との連絡用としての利用も多く、メールに比べて迅速な情報共有が可能です。
自由度は少ないものの無料でも使えるため、まずはテストで導入し、効果が見込めるようになった際に、機能が豊富な有料プランに切り替えるといった使い方もできます。
CLOUDSIGN
テレワークにも欠かせない電子契約サービス、CLOUDSIGN。日本の法律に特化した弁護士が監修しているサービスのため、安心して利用できます。
主な機能としては、「契約締結」「契約書保管」「契約書検索」「本人確認」「テンプレート」など、電子契約と電子署名が施された書類の保管、管理が行えるサービスです。
SaaSのプライシング
SaaSのプライシング(価格設定)は、大きく次の4つの種類に分けられます。
使用量によるプライシング
毎月、使用した量に応じて価格が決まるタイプです。そのため、閑散期になればコストが抑えられるメリットがあります。
利用できる機能・量別のプライシング
利用する機能や量に応じて価格が決まるタイプです。通常、使える機能や量を段階的に分け、そのなかから自社に合ったものを選択します。また、利用人数によって階層が変わるタイプもあります。
利用量にかかわらず料金が変わらないプライシング
頻繁にサービスを利用した月もまったく使わなかった月も同じ料金が発生するタイプです。閑散期はマイナスになってしまう場合もありますが、金額が変わらないため、予算を組みやすいのがメリットになります。
フリーミアム制のプライシング
基本機能は無料で使え、機能を追加したり、高機能にしたりした際に料金が発生するタイプです。それほど頻繁には使わないサービスやテストで使ってみたい際などに便利なプライシングです。
SaaSの運用課題
さまざまなメリットを持つSaaSですが、運用において課題がないわけではありません。ここでは、SaaSを導入、運用していくうえでよくある課題とその対策についてお伝えします。
SaaSが複数になると管理が煩雑になってしまう
これまで説明してきたように、SaaSはサーバーやパソコンにインストールする手間がかからず、インターネット上でアクセスするだけですぐに利用できるサービスです。そのため、クラウドストレージ、Webメール、チャットツールなど気づくと複数のSaaSを導入していることも珍しくはありません。
そこで。課題となるのが複数のSaaSを利用するための管理です。通常、SaaSのサービスを利用する場合、IDとパスワードを入力してログインをします。つまり、SaaSのサービスの数だけIDとパスワードを用意しなくてはならないのです。
すべてのサービスで同じID、パスワードにすると、セキュリティ面で問題があります。しかし、すべてのサービスでID、パスワードを別々にしてしまうと、覚えきれずにログインできなくなってしまい。業務が滞ってしまうリスクが増えてしまうでしょう。
複数SaaSの管理を簡単にするサービスの導入
複数SaaSの管理が煩雑になってしまう課題の対策として考えられるのは、統合ID管理システムの導入です。複数のSaaSのほか、社内にある既存システムで使っているIDやパスワードも一元での管理を可能にします。もちろん、セキュリティも強化できるため、情報漏洩リスクも回避し安全に利用できます。
複数のSaaS間での連携が取れない場合がある
SaaSを導入する目的はさまざまですが、そのなかでも大きなものとして業務効率化があります。例えば、「クラウドストレージを導入し、外出先でオフィスに戻らなくても資料が閲覧できる」「電子契約サービスを活用して自宅で取引先と契約を行う」などによる、大幅な時間短縮が可能です。
しかし、仮にクラウドストレージと電子契約サービスの連携が取れない場合、一旦、クラウドストレージから契約書をダウンロードし、改めて電子契約サービスに取り込む手間がかかってしまいます。業務効率化を目的として導入したSaaSが逆に連携が取れないことで非効率になってしまうケースがあるのは、大きな課題といえるでしょう。
SaaS導入時の確認とRPAの導入
複数のSaaS間で連携が取れない場合、前提として導入の際にすでに導入しているSaaSと連携が取れるものを導入することが重要です。もし、導入した後に連携が取れないと気づいた場合や、用途によって連携が取れないものの、どうしてもそのSaaSが必要といった場合は、多くのサービスと連携が取れるRPAの導入を検討がおすすめです。結果としてさらに業務効率化が進むメリットも享受できます。
セキュリティレベルの確保が難しい
SaaSを提供する事業者は一般的な企業よりもセキュリティ面で安心して利用できる場合が多いと前述しました。しかし、サービスによってはセキュリティレベルの低いものも少なからず存在します。そうしたサービスを選択してしまえば、当然、セキュリティリスクは高くなるでしょう。
また、SaaSのセキュリティリスクはそれだけではありません。サービスを利用する企業側の人間がセキュリティに対する意識が低ければセキュリティリスクは増加します。例えば、「外出先でSaaSを利用する際、周囲の人に画面が見える場所でログインしてしまう」「シェアオフィスでSaaSにログインした状態で席を外してしまう」などが頻繁に行われれば、情報漏洩リスクは増大してしまうでしょう。
SaaS導入時のセキュリティレベルの確認とセキュリティ教育の徹底
SaaS導入におけるセキュリティレベルを確保するためには、導入時にコストだけで選択をしないことが重要です。サービスにもよりますが、価格が安いものは何かしらのデメリットが存在します。セキュリティレベルを下げてでもコストを抑えたいといって導入しても、情報漏洩でより高額の損害を生んでしまっては意味がありません。
また、社員に対するセキュリティ教育の徹底も重要です。前述した統合ID管理システムの導入もセキュリティリスクの低減に一定の効果はあるでしょう。しかし、社員がセキュリティに対する意識が低いままでは、何を使ったとしても、情報漏洩リスクは高まるばかりです。そのため、「セキュリティレベルの高いSaaSを導入する」「社員へのセキュリティ教育を徹底する」この2つは必ずセットで行わないとセキュリティレベルの確保は難しいでしょう。
業務効率化、生産性向上の実現にはSaaSの適切な活用がポイント
少子高齢化、新型コロナウイルス感染拡大、多様な働き方の実現など、ビジネスにはさまざまな障害や課題を解決していく必要があります。また、そのなかで競合優位性を保ちつつ企業として生き残っていくためには、新規商品や新規ビジネスの創出が欠かせません。今回紹介したSaaSはさまざまな障害や課題の解決に大きな効果を発揮し、活用方法によっては新規商品や新規ビジネスの創出にもつながります。
実際、経済産業省が2018年9月に発表した、「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」のなかでも、DXを実現するための第一歩は業務プロセスの改善であり、その一つのはSaaSの効果的な活用が重要であるとしています。
もちろん、メリットが多いからといってやみくもに導入を進めても期待するような効果は生まれません。そこで、重要なポイントは、自社に合った適切なSaaSを導入・運用することです。そのためには既存の業務プロセスの棚卸を行い、業務のボトルネックを見つけ出すこと。そして、ボトルネックの解消にどういったSaaSが最適なのかをしっかりと検討することが求められます。
複数SaaSの管理、連携、セキュリティレベルの確保など、今回紹介した課題についてもテスト導入や検討を繰り返し、自社にとって最適なSaaSの選択、活用が企業運営に欠かせないものとなっていくでしょう。
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