英小売最大手テスコのデジタルマーケティング戦略とは?

EC(Eコマース)
テスコ(Tesco)は、イギリス最大の小売業であり、グローバルでは米国のウォルマート、フランスのカルフールに次ぐ、世界3位の小売業である。日本は残念ながら撤退してしまったが、そのテスコがF&Fというアパレルブランドを立ちあげているのだが、そのブランドのイメージ向上のために、デジタルの技術を活用して効果を上げているので紹介したい。
目次
ポップアップストアとデジタルの組み合わせ
今回、テスコがF&Fのブランド立上げに当たって活用したのは、期間限定店舗であるポップアップストアによるテストマーケティングと、デジタルをフル活用したキャンペーンの展開である。ロンドン中心街でわずか4日間という短い期間ではあったが、その取組みは、非常に先進的で大きな話題を呼んだ。
レトロな店舗の雰囲気

ロンドンの中心街にオープンしたポップアップストアは、視覚を重視した店作り、いわゆるビジュアルマーチャンダイジングに力をいれた店になっている。F&Fのブランドのテーマでもあるヴィンテージスタイルを表現するため、レトロな内装に、水玉模様の壁紙を採用。更には、エリザベス女王即位60周年にちなみ、60年前の女王の戴冠式の様子をテーマにキャンペーンポスターを作成した。
デジタル技術の徹底的な活用
この店舗のレトロな雰囲気と好対照をなしているのが、最新の技術を駆使した販売手法である。
1 オンラインへの誘導
このショップでは、レジを設置していない。その代わりにiPadが置かれており、消費者が、自分でテスコのオンラインショッピングサイトで買い物をするようになっている。オンライン限定の20%オフの商品を用意したり、陳列してある商品すべてにQRコードをつけるなど、徹底的にオンラインへの導線を強化している。
2 バーチャル試着室
さらにユニークなのは、Webサイト上での試着室「バーチャル試着」が用意されている事だ。仕組みはこうである。F&Fの専用のWebサイトにアクセスすると、バーチャル試着のアプリケーションが準備されている。
このプラットフォームで、消費者は、自分の写真をアップロードし、服を選んで「バーチャル」に試着をする事ができる。着せ替え人形やアバターの感覚に近いかもしれない。さらには、自分の体型を入力すると、どのサイズを選べばいいかが判るという。そして、このアプリからは、テスコのECサイトへリンクされており、そのまま購入する事もできる。
3 バーチャルランウェイ
そして、ショップのウィンドウに貼ってあるポスターには、AR(Augmented Reality、拡張現実)と呼ばれる技術が用いられている。スマートフォンのアプリをダウンロードしカメラをかざすと、ランウェイのビデオを見る事が出来る。気に入ればそのまま買い物をする事も可能だ。
どうだろう?なかなか面白い取組みではないだろうか?日本でも、バーチャルフィッティングなどは出ているが、ここまで徹底してデジタルを実践している例は少ないのでなはいか?
では、外資系メーカーでブランドマネージャーをつとめる友人の中谷さんに、コメントをもらったので紹介したい。
テスコブランド改革の秘訣
このテスコのケーススタディは、学ぶことの多い面白い事例だと思う。
デジタルをうまく活用した成功例として語ることもできるし、逆にブランドイメージを刷新した事例として語ることもできるだろう。スーパーブランドとして確立されきったエクイティをどうアパレルに振るか、それは恐ろしく難しい課題だと思う。
その成功の鍵は何だったのか、ブランドエクイティの改革という側面からテスコの成功を整理してみよう。
1) アパレルとしてのテイストの確立
何よりも買いたいと思ってもらえるファッションブランドとしてのテイストを確立するのにテスコの行ったこと。それは、i) 2004年頃からアパレルやアートで流行ったポップアップストアという形式を利用しテスコの“おしゃれ感”を演出、 ii) ビジュアルマーチャンダイジング(店舗ディスプレイ)でその世界観を強め、 iii) コベントガーデンという土地柄からくるイメージをうまく利用している。コベントガーデンと言えばアンティークマーケットで有名。しかもオペラハウスのある場所。その土地柄をうまくブランドエクイティを刷新するために使ったというのも面白い。
2) 意外性=エンターテイメント
絶対に体験したいと思わせるような仕組みづくりこそが口コミを生む秘訣だ。それはやはり意外性や気持ちの高ぶりから生まれるものだろう。その意外性を作り上げるためにテスコのしたことは、i) デジタルの斬新さをうまくつかって従来のアパレルイメージ(しかもスーパーマーケットのブランド)とのミスマッチを生み、ii) 店舗でデジタルを使い自分でオーダーして翌日に届くのを待つという今までにない体験、iii) オンラインでバーチャル試着+店頭では試着オンリーってのも妙に女ゴコロをくすぐる。まさに、たくさんの驚きを提供し遊園地に行くかのようなわくわく感を創造しているのだ。
3) 緊急性
限定感に人間はとことん弱い。4日間限定のお店とか20%OFFとか言われると、今すぐ急いで行かないと面白いことを逃しそう!だと思ってしまうのだ。(しかもコベントガーデン=アンティークマーケットで掘り出し物をみつけるところ)これは何としても友達を誘って行かなきゃと思わせる効果が大。
つまりは、「 1) おしゃれな製品が、2) わくわくする体験で、3) 今だけ買える。」ということ。そんなことを耳にしたら、行くしかない。これはもうテスコの勝ちだと思う。ブランドの刷新という難題を成功させるにはここまで徹底していないとダメなんだと納得させられる事例だった。

中谷和世 Kazuyo Nakatani
消費財外資メーカー勤務、ブランドマネジャー
参考記事:
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