「Suitly」の挑戦 ~オーダーメイドのスーツをECで売ることは可能か?~

EC(Eコマース)

オーダーメイドのスーツには「高い」、「サイズをプロにきっちり測ってもらわなければならない」というイメージを持っている方も多いのではないだろうか?

今回はそんな概念を覆し、オーダーメイドのスーツをオンラインで提供する大胆なECを展開するカナダのスタートアップ「Suitly」を紹介しよう。

あなたのスーツは本当に自分の身体に合っていますか?

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Suitly・CEOのMatthew Krizsan(以下:マシュー)は、欧米人の中でも細身の体型であったことから、彼は自分の身体にぴったりのスーツを探すのに非常に苦労していたが、タイを旅行している際にその苦労を覆す事実に遭遇する。

彼はタイを旅行している際に、地元の服飾店でシャツやスーツをオーダーメイドで作ってもらったのだ。価格が安いのはもちろん、マシューはそのスーツの質の高さに驚愕する。3週間もあればタイから質の高いオーダーメイドのスーツが自宅に届き、決済もPaypalで安全かつ簡単に済ませられたのだ。

自分の身体に合ったスーツを買えないという悩みを一気に解決できる可能性を体験したマシューは、この経験を元にビジネスモデルを組み上げ、2012年8月にSuitlyを創業した。

$389.99で質の高いオーダーメイドスーツが買える仕組み

● 丁寧なサイズ測定

ユーザーはスーツをオーダーするために、当然自分の身体のサイズを測定しなければならない。さすがに1人では無理なので、友達や家族に手伝ってもらおう。このサイズの測定は「スーツのフィット感=顧客の満足」に直結する大事な部分なので、サイズの測り方のアドバイスは非常に丁寧だ。

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上図のように、文章と動画で正しい測り方や注意すべきポイントをレクチャーしてくれるので、初めての人でも簡単に計測できる仕組みを提供している。

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メジャーで測る項目だけでなく、「なで肩・怒り肩」や「お腹まわりのイメージ」、「身長・体重・年齢」などの項目も充実している。他にも体格と計測値に齟齬がある場合は、再計測を促すアルゴリズムを導入するなど、ユーザーの「がっかり」を極力少なくする工夫も施されている部分はぜひ参考にしたいポイントだ。

個人的に感じたUXの課題としては、測定のビデオがユーザー登録後にしか見えないという点だ。僕が最初にこのサービスを見た時に感じた不安は、「どうやってちゃんとサイズを測るのだろう?」だったので、その不安を解決するためにサイト内を随分動きまわってしまった。

Q&Aにも「動画の解説があるからサイズ測定は大丈夫!」と書いてあったのだがいくら探しても動画が見つからない……まあ登録してみるかと会員登録すると動画がでてきた……orz

もちろんユーザーによって行動も異なるし、サービスサイドとしてはまず会員登録してほしいというイメージは理解できる。しかし、早めに疑問や不安を解決してあげるためにも、登録前に動画を部分的に見れたりするとサービスに対する安心感が増しそうだ。

● 個人の好みにもフィットする豊富なカスタマイズ

スーツの種類自体が豊富なことに加えて、カスタマイズのメニューがたくさんあるのはユーザーにとってはうれしい。同じ体型の人が同じスーツを選んでも、「細身で身体にフィットさせたい」という方もいれば、「ゆったりめで着たい」という方もいるだろう。

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その他にもポケットの有無や襟の形、ボタンの数など自分の好みにあった「自分だけのスーツ」をオーダーできるのもSuitlyの魅力だ。

豊富な選択肢に圧倒されるという声もあるかもしれないが、そもそもオーダーメイドのスーツを買う人(ターゲット)はこだわりの強い人と仮定すると、この高いカスタマイズ性も納得できる。

現に実際に買ったユーザーの満足度は高いということなので、これから新規顧客がどこまで増えるかに期待したい。

価格を抑える2つの仕組み

● スーツやシャツの製造はタイ

質を担保しながらも価格を下げるため、スーツの製造は厳選されたタイの工場や服飾店で行なわれている。これはマシューの個人的な体験も影響していると思われるが、様々な国やタイ国内で50以上のテスト製作を繰り返し、厳選したサプライヤーを使用している。

個人的には、「完成したスーツの質」はこのサービスの肝だと感じている。「サイズの測定×質の高い製造」は、「オンラインでオーダーメイドのスーツなんか買えるの?」というユーザーの疑問を驚きに変えるための重要なファクターとなる。

「安いけどすごく良いオーダーメイドのスーツ買えた!」となるか「安かろう悪かろう」で終わってしまうかは、その後の口コミやリピーターの獲得に大きな影響を及ぼしてしまう。もちろんこの部分はSuitlyも積極的に取り組んでおり、「利益を削ってでも質を担保するために、機械だけでなく職人の手作業を導入している」とマシューも述べている。

● 実店舗を持たないことでコストをカット

販売はオンラインのみなので、実店舗はない。実店舗を一切持たないことで、コストを上げずに価格を下げることができている。ECでありながら完全オーダーメイドなので、倉庫に在庫を大量に抱えるというリスクが少ないのも経営上は大きなメリットだ。

在庫をもたない、生まれた時からグローバルなEC

上記でも述べたように、完全な受注生産なので、ECでありながらも大きな在庫を抱えることはない。これは従来型のECとは大きく異なる点だ。

他にも製造をタイで行い、輸送は世界中に対応できるので、北米の生まれたてホヤホヤのスタートアップながらも北米・ヨーロッパ・オーストラリアなど幅広い地域を最初からカバーできている($140以上のオーダーは全世界送料無料)。まずはローカルからスタートするECが多い中、製造を海外にアウトソースすることで、スタートから販売網をグローバルにまで拡大できているのは非常にユニークだ。

「不可能」から出発するオンラインビジネスの魅力

今回紹介したSuitlyもそうだが、「そんなの本当に誰か買うのか?」と思われながらも、実際にサービス開始後に上手に顧客を獲得しているオンラインビジネスは実在する。

日本でも最近ではメガネのECサイト「Oh My Glasses」が順調に成長している。スーツが身体のサイズを測るように、メガネも事前に視力を測定しなければならないが、毎月20%を超える成長率を維持するなど、快進撃が続いている。

他にもECではないが、「誰がネットで保険を買うんだ」と言われながらも顧客からの支持を集め、マザーズへの上場も果たしている「ライフネット生命」の存在感も日増しに大きくなっている。

彼らの顧客満足度を高め、確実にそのファンを拡大していく姿は頼もしくもある。Suitlyもそうだが、「そんなのネットで売れんのか?」みたいな分野にこそまだチャンスはある。

Suitlyのマシューのように、疑問や問題点を抱えているなら「ネットでどうにかならないか?」と考えてみてほしい。疑問や問題点は、常識にとらわれない素晴らしいビジネスアイデアの種となる可能性を秘めている。

Photo: Some rights reserved by florbelas fotographix, flickr

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