「Risk Everything」 NIKEが取ったリスクとは?

EC(Eコマース)
Risk Everything(リスク上等)
これは、NIKEが2014年ブラジルワールドカップに合わせる形で展開しているキャンペーンのコンセプトだ。
「リスクを取らなければ、望むリターンは得られない」
「リスクを取らなければ他人を、そして自分自身を熱狂させることはできない」
このキャンペーンを通してNIKEはこう訴えている。
その目玉として公開された動画「The Last Game(最後の戦い)」は、ワールドカップ開幕直前に公開されるとすぐに、ネット上で大きな話題を呼んだ。
そこで今回は、この動画がなぜ人々の心をつかんだのか、そしてNIKE自身はどんなリスクを取ったのか、その2点に迫っていきたい。
人間とコンピュータの戦いを連想させる
この動画は「人間対クローン」という、わかりやすい二項対立の設定を置くことによって成功した。この方法が秀逸だったのは次の2つの理由による。
1.旬の話題と関連付けた
人間対コンピュータというテーマは、今最も旬な話題である。その背景には人工知能(AI)研究の隆盛がある。
昨今のビッグデータ解析が、長らく冬の時代であったAI研究の針を進めた。新たな突破口が見えたこの分野には今、Google、Apple、Facebookといった巨大IT企業が参入している。
そしてこの事態は、世界に1つの問いを問いかけている。
「コンピュータは、いつ人間を超えるのか?」というものだ。
最近のメディアではよく、近い将来コンピュータが人間の仕事を奪うという予測が報道されている。
そしてそれは、人々に恐怖を与えている。
自分の職が、いや、自分の存在自体が、コンピュータによって無き者とされてしまうのではないか、という恐怖だ。
そのような背景があったからこそ、この動画はこれほどの反響を呼んだのだろう。
文字通り人間にとっての「The Last Game(最後の戦い)」。
近い将来を象徴するこの戦いの結果を、NIKEはどう描いたのか。
その答えを知りたければ、ぜひとも動画を見て欲しい。
2.視聴者が国境を問わず感情移入できる
本動画が世界で大きな話題を呼んだ理由は、国境を問わず感情移入できる内容だったことが大きい。
これは、今回のような「人間 対 それ以外」という構図を取り、「人間」全員を味方側に置いたことによって成し遂げられるものだ。
このような手法は、現在流行(はや)りとなっている。
携帯電話の販売で世界一のシェアを誇るサムスン社は、同様に2014年のワールドカップに合わせる形で、同社の主力商品であるGalaxyの動画広告に、メッシ、クリスティアーノ・ロナウドといったトッププレイヤーを起用している。
見ていただければわかると思うが、ここでの構図は人間対エイリアンという形になっている。
このような形式を取ることで、見る人すべてを味方につけているのだ。どこに住んでいるかは関係なく。
これらの動画からわかるように、視聴者と同じ側に属していることを示すのは、彼らの感情を揺さぶる点において大きな効果を持つ。
今後コンテンツを作る際には、いかに視聴者と仲間であることを示すかを考えてみてほしい。
NIKEが取った「リスク」とは?
「Risk Everythingと説くのはいいが、じゃあNIKEはいったいどんなリスクを取ったんだ」。このように思った視聴者もいるかもしれない。
確かにそうだ。自分のことは棚に上げておいて、リスクを取れと言っても説得力はないだろう。
しかし、安心してほしい。今回、NIKEもしっかりとリスクを取っているのだ。
それは、今回のキャンペーンのメインとなる動画を「あえて」コンピュータアニメーションにしたことである。
以前から、スポーツ選手の躍動する姿をアニメで表現するのは難しいと言われてきた。それは筋肉を再現することが困難だからというのが1つの理由だ。
以下に載せたNIKEの別の動画と比較しても、それはおわかりいただけると思う。
そんな背景があるにもかかわらず、今回NIKEは、クリスティアーノ・ロナウドや、ネイマールという、ビジュアル的に圧倒的な価値を持つ選手を起用しながら、あえてアニメ動画を作成するという決断をした。
これは、NIKEにとって大きなリスクだったと言える。
しかし、そんなリスクをNIKEは、大きなリターンに変えてみせた。この反響を見て、きっとNIKEはこう言ったに違いない。
「Risk Everything(リスク上等)」と。
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