今後のマーケティングとはどうあるべきか?海外ブログ記事の紹介

デジタルマーケティング
ここ2-3年でマーケティングが大きく変わろうとしている。ソーシャル・メディア、モバイル、O2O、ビッグデータ、次々と新しいトレンドが登場している。あまりにも変化が早く、毎日新しいニュースが流れる中で、企業のマーケティング担当者が、新しいマーケティングの全体像を理解するのが難しい時代になっている。
そのような課題を感じているマーケティング担当者に是非読んで欲しい記事を紹介しよう。Chief Marketing Technologistというブログを書いているスコット・ブリンカーが掲載したブログ記事である。彼は、インターネットの初期の時代からウェブテクノロジーに携わっている大ベテランで、米国MITでフェローをしていた事もある。そして、現在はi-on interactive, Inc.というウェブのASPサービスを展開する会社の社長とCTOを兼務している。
今回紹介する記事は、僕が日々感じている問題意識、みんなに伝えたいと思っていた事が、非常に見事に整理されている。スコットの好意により、記事の全文を翻訳して掲載させて頂く。
目次
今後のマーケティングを理解するのに必要な5つのメタトレンドとは?
マーケティング進化が加速している。アトリビューションからZMOT (zero moment of truth)まで多くの新しいキーワードが次々と登場する。その全てを把握するのは難しい状況だ。
マーケティングに起きつつある変化を理解するには、5つのメタトレンドに注目すると良い。メタトレンドとは、個別の現象を引き起こす、より大きなトレンドの事である。潮の満ち引きを生み出す、大きな波のうねりのようなものだと分かりやすいだろう。
今回説明する5つのメタトレンドを理解すれば、マーケティングの変化を理解する事が出来るだろう。
1 トラディショナルからデジタルへ
2 メディアサイロから統合メディアへ
3 コミュニケーションから体験へ
4 「アート+コピー」から「コード+データ」へ
5 入念なプランニングからアジャイルマーケティングへ
1 トラディショナルからデジタルへ ~マーケティングのデジタル化~
人々は、様々なデジタルプラットフォームに常に接している。パソコン、スマートフォン、タブレット。そして、テレビ、車、家電、ウェアラブルコンピュータなどデジタル化の波は加速し、今後未知のデジタルグッズが次々と登場するだろう。職場でも自宅でも常にデジタルに接している、それが我々現代人の特徴である。
消費者達がデジタルパワーを得た結果、インバウンドマーケティングやコンバージョン最適化などといったマーケティング手法が登場して来たと言えるだろう。この消費者行動の大きな変化によって、企業のマーケティング予算が、デジタル領域へとシフトしている。広告、テクノロジー、人材、新サービスなど、デジタルの様々な分野へ予算が配分されるようになった。
マーケティングがデジタル化するだけではない。ビジネスそのものがデジタル化していく。著名なアナリストであるメアリー・ミーカー女史が指摘しているように、企業は、全てをゼロベースで考え直し、自らのビジネスをデジタルビジネスへと進化させようとしている。
デジタルビジネスへの移行に伴い、マーケターは、次のような課題を抱えている。
* マーケティングコミュニケーションが細分化され、常に変化している。チャネル、メディア、デバイス、コンテキストなどが細分化し次々と変化していく。あたかも、万華鏡のような状態になっている。
* デジタルでは、コミュニケーションがリアルタイムで発生し、瞬く間に広がって行く。そのスピードは驚異的な速さである。
* 消費者は、デジタルに高い期待を持っている。インターネットへの常時接続、最先端の技術、優れたユーザー体験(UX)の全てが高いレベルで提供される事を求める消費者達。アマゾン、アップル、グーグルは、消費者のデジタルに対する期待値を極めて高いものへと押し上げた。消費者の期待値はいままでにない程高まっている。
* 「競合他社」の範囲が大きく広がり、各社がインターネット上で熾烈な競争を行っている事。業界や業種が違う会社でさえも競合他社になる時代になっている。
* ソーシャルメディアの登場で、消費者が世界的な規模でつながっている。彼らは、自分の関心のあるテーマに特化したコミュニティを形成し、影響力を発揮している。
* 売り手と買い手の情報の非対称性の解消。買い手が情報を持ち、自らの課題解決を主体的に行う事が可能となっていること。
これらの課題を解決するためには、新しいマーケティングの戦術を考え出すだけでは、十分ではない。必要なのは、マーケティングの組織とビジネスプロセスを見直す事だ。
ひとつめのメタトレンド(トラディショナルからデジタルへ)が、次の4つのメタトレンドを生みだしている。
2 メディアサイロからトリプルメディアの一体運用へ
デジタル時代になって、顧客が利用するメディア、チャネル、媒体、デバイスなどが爆発的に増加している。これらは大きく3に分類される。
ペイドメディア:
ディスプレイ広告、リスティング広告、テレビCM、交通広告、スポンサーによる協賛など。お金を払う事で、時間やスペースを借りて、視聴者をエンゲージするためのもの。
オウンドメディア:
Webサイト、ランディングページ、ブログ、モバイルアプリ、フェイスブックページ、YouTubeチャンネルなど。企業がスペースを所有している、もしくは、内容をコントロールできるもの。
アーンドメディア:
PR、口コミ、ソーシャルメディア。Facebook 上でのいいね!、ユーザーレビュー、被リンク、コメント、掲示版への投稿、Pinterestでの掲載。 第三者が企業についてコメントや意見を表明するもの。
新しいメディアが登場するにつれて、企業と消費者とのタッチポイントが急速に増加した。企業は、メディア毎に社内チームを組成したり、それぞれのメディアに強みを持つ代理店を個別に雇うなどして対応をしてきた。しかしこのような対応を進めた結果、メディアが縦割り状態となり、一貫性が失われる結果となっている。
タッチポイントをカテゴリ別に分類する事は、顧客にとって全く意味を持たない。彼らは、一つのタッチポイントから別のタッチポイントへ、メディアやデバイスを超えて動いていく。企業は、メディアやデバイスをまたがって、一貫性のあるユーザー体験を提供する事を期待されている。このような状況下、アルティメーター社は、トリプルメディアの統合に関してレポートを発行し、マーケティング関係者に強い影響を与えた。
トリプルメディアは、急速に進化しており、統合的に管理する事は、容易な事ではない。トリプルメディアの統合管理は、今後20年間に渡り、マーケティングの最大の課題になる。戦略、組織、技術のそれぞれの側面で、トリプルメディアをどう管理していくか、これが今後のマーケティングの焦点だ。
3 ユーザー体験がマーケティングの中核となる
マーケティングはもともと、コミュニケーションを通して世界と繋がってきた。正しいメッセージを作り出し、正しいターゲット層に、正しいタイミングと正しい場所で発信してきた。ストーリーテリング(Storytelling)の技を競っていた。
ストーリーテリングはマーケティングにおいて不可欠な存在だが、しかし、もはや全体の一要素にすぎない。今後は、優れた顧客体験を提供する事こそがマーケティングの役割なのである。
なぜ、顧客体験がマーケティングの中心になるのか?その理由は2つある。
一つ目の理由は、デジタル化によって、広告メッセージの物理的、時間的な距離が短くなり、クリック単位へと集客されてしまった事である。消費者は、ソーシャルメディア上のリンクをクリックしたり、モバイルアプリをタップしたりして、企業のメッセージを受け取るようになっている。デジタルの世界では、消費者は、ブランドが語るストーリーを消極的に受け取るのではない。彼らは、ブランドのストーリーを、能動的に、瞬間的に体験している。デバイスをまたいで、様々なタッチポイントで行われるそのユーザー体験こそが、ブランドのイメージとなっていく。
素晴らしいユーザー体験=素晴らしいブランド、の時代だという事だ。
二つ目は、ソーシャルメディアによって、人々が自身のユーザー体験をシェアするようになったこと。彼らがシェアする体験は、良い話もあれば、悪い話もある。このようなユーザーによるシェアは、ブランドが語るストーリーを強化し、拡散してくれることもあれば、ブランドが出している“公式な”ストーリーを破壊する事さえある。マーケターがすべき事は、人々が良いストーリーをシェアしてくれるように、素晴らしいユーザー体験を提供する事に注意を払うという事である。
これらの理由によって、ユーザー体験に関する全ての要素がマーケティングの一部になっている。これは、マーケティングの領域が大幅に拡大した事を意味する。デジタルにより、タッチポイントが爆発的に増えた事が、マーケティング領域の拡大に拍車を掛けている。マーケティング関係者には、新しいスキル、能力が必要とされている。そして、企業が顧客に優れたユーザー体験を提供する上で、マーケティングはもはや脇役ではあり得ない。今まで以上に、重要な役割を担うようになったのである。
4 クリエイティブ技術者、マーケティング技術者の登場
デジタル時代において、力を持つものは2つだ。プログラムのコードとデータである。
コードとは、すなわちソフトウェアの事だ。ソフトウェアを使う事で、デジタルの世界を意のままに形作る事が出来る。ウェブ、モバイル、その他のデバイスなどを介して、ユーザー体験を自由自在に作り出し、修正する事も出来る。現実の世界では不可能な事が、デジタルの世界では簡単に実現できるのである。これは、まさに映画「マトリックス」の世界だ。ソフトウェア開発者は、映画のネオのように、想像力を頼りに仮想現実を生み出すことが出来るのだ。
ソフトウェア開発者はマーケティングのあらゆる場所に存在している。広告代理店で、デジタルのクリエイティブを制作するクリエイティブ技術者がいる。マーケティング用のプラットフォームやアプリケーションを提供するベンダーの中で、製品開発者として存在している。マーケティング部門やIT部門で、マーケティング関連の技術者として働いている。そして、現在のシリコンバレーで最も人気のポジションは、インターネット企業でユーザー数を増やす役割を持つエンジニア“グロースハッカー(growth hacker)”である。
全てのマーケターがソフトウェア開発者である必要はないが、あらゆるマーケティング組織は、ソフトフェアを使いこなせなくてはいけない。どのマーケティングソフトウェアを採用するか、ソフトウェアを使いこなすノウハウやアイディアこそが、競合他社と差別化し、競争優位性を作り出すのだ。今や、マーケティングのマネージメントにおいて、テクノロジーが切っても切り離せなくなっているのだ。
ソフトウェアは、大量のインプットとアウトプットを生みだし、大量のデータが入手可能となっている。データは驚異的な速さで流れる。そして、その量は圧倒的だ。データを活用すれば、ユーザー体験を、一人一人の顧客に合わせて、ユニークな方法でカスタマイズする事も可能になる。マーケティング部門におけるデータ分析の専門家(データサイエンティスト)は、顧客に関する新しいインサイトや、ビジネス機会を見つけ出すだろう。データの重要性が増すにつれ、データそのものがコンテンツとなり、マーケティングチャネルとなる可能性もある。
より重要なことは、データによってマーケティングがアートではなく、サイエンスへと変わった事である。データで定量的に説明できるようになった事で、マーケティングが単に費用を計上するだけのコストセンターから、利益を生み出すプロフィットセンターへと変化する事が出来るのだ。A/Bテストなどを通じて、実験を重ね、マーケティングを最適化する事がマーケティングの日常業務なのである。
5 厳密なプランからアジャイルマーケティングへ ~機敏でフレキシブルなマーケティングマネージメント~
従来は、5ヵ年の中期計画があり、その一部として年間のマーケティングブランがあった。プランは、4半期単位で、極めて計画的に実行されていた。計画から実行のサイクルが極めて長かったのである。しかし、もうそれは通用しない。中長期の戦略は依然として重要であるが、日々のマーケティングオペレーションはよりフレキシブルで、流動的でなくてはいけない。
特に、ソーシャルメディアでは、数時間という短い時間の間に、問題が発生したり、ビジネスチャンスが生まれていく。デジタルにおいては、ターゲットとしている市場とのやりとりは、よりダイナミックになる。顧客や競合の定義が次々に変わっていく。
このような新しい環境で成功するためには、新しいマーケティングのマネージメントと組織カルチャーが求められる。
その新しいアプローチがアジャイル・マーケティングだ。このコンセプトは、アジャイルとよばれるソフトウェア開発手法を参考に作られたものだ。マーケティング組織は、トヨタのカンバン方式や改善手法、そして、リーンスタートアップなどを参考するべきだ。(グーグルは、広告代理店に対しアジャイルクリエイティビティという名称で売り込んでいる)
アジャイルマーケティングでは、次の事が求められる
* 施策の立案から実行のサイクルを反復的に繰り返し実行する事
* 施策の結果をわかりやすい形で計測する事(KPIの明確化)
* 部門や会社の垣根を越えたコラボレーション
* チームメンバー同士での頻繁なコミュニケーション
* データに基づき、実験と測定を継続的に繰り返す事
* 施策の成果は、月単位や年単位ではなく、数日・数週間単位で測定
* 状況に応じ、プランや優先順位を柔軟に変更する
マーケティング分野のリーダー達は、アジャイルマーケティングの考え方を理解する必要がある。そうすれば、ウェブの成果報酬型マーケティング、ソーシャルメディアマーケティング、コンテンツマーケティング、コンバージョン最適化など、データ主体で、レスポンシブなマーケティングアプローチを統合的に理解し、組織のOS(オペレーションシステム)を構築する事が出来るだろう。
これこそが、マーケティング未来なのだ。
アイザック・アシモヴ氏の言葉を借りよう。
「変化こそが日常だ。変化は継続的で、避ける事が出来ない」
ここまで述べてきた5つのメタトレンドを明確に理解し、あなたのマーケティング組織がこれらに対応、進化して行けば、現在のマーケティング環境である“日常的に起きる変化”への準備は万端になるだろう。
まとめ
どうだろう?今までぼんやりと理解していた事がすごくクリアに説明されているのではないだろうか?
彼がメタトレンドの1つめで指摘しているように、消費者はデジタル化している。この変化は不可逆であり、抵抗する事は出来ない。
企業の経営者は、「Facebookをやった方がいいのか?」、「Twitterはやった方がいいのか?」というような質問の仕方をする。しかし、この質問の仕方は十分ではない。質問すべきは、ifではない。質問すべきは、whyであり、howなのだ。
消費者がデジタル化した時代に、我々は、どうやってデジタルな顧客体験を作り出すべきなのか、その視点こそが最重要である。
以前のブログ記事で書いて有るとおり、日本企業では、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)が極めて少ない。マーケティング全般を統括し、部門横断的に責任を持てる役職が不在の状態が大きなボトルネックになることは間違いない。マーケティング担当者は、このような問題点を乗り越えながら、組織を動かし、新しい時代のマーケティングに対応していく事が求められる。
極めてチャレンジングな仕事だが、一方で大きな可能性も秘めている。
僕は、今回のような海外記事を紹介したり、僕の問題意識を共有させて頂くので、是非一緒に日本企業のマーケティングを変えていきましょう。
出典:Chief Marketing Technologist
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