メディア企業とテクノロジー企業の闘い

デジタルマーケティング

(この記事は、Rare Crowds社のCEOであるEric Picard氏の好意により翻訳許可を頂き翻訳したものです。一部、表現が冗長な部分などは、わかりやすさを優先して翻訳しています)

どうしてメディア企業はテクノロジー企業の食い物にされつつあるのか

執筆者紹介:Eric Picard氏は、オンライン広告業界で15年以上の実績を持つベテラン。複数のベンチャーの創業に携わった他、マイクロソフトでも勤務。現在は、アドテクノロジーのベンチャー企業のCEOとして勤務。 http://wp.rarecrowds.com/

マイクロソフトに勤務していた時に、同僚が動画配信ビジネスについてレポートを作成した。タイトルがDon’t be food.(食い物にされるな!)と題されたレポートだ。今後、コンテンツの配信チャンネルが多様化し、誰もがコンテンツの配信元になる環境において、いかに競争していくべきかを論じたものだった。内容も素晴らしかったが、Don’t be food. (食い物にされるな!)というコンセプトが秀逸だった。一般のビジネスにも言えることではあるが、特に、メディア業界に関して、もっともよく当てはまるからだ。

コンテンツ流通が大きく変化し、メディア産業は、巨大な変化の力に翻弄されている。かつては、メディアビジネスで勝つためには、流通を抑える事が重要だった。紙の印刷と流通には莫大なコストがかかるし、ラジオとテレビの周波数は限られていて、インフラにも大規模な投資が必要だった。しかし、メディアは流通を中心に考えるあまり、思考が硬直し、変化に対応しにくい体質になった。

これは、かつての米国の鉄道会社を見ているようでもある。鉄道会社は、自動車や飛行機といった新技術が登場さいた際に、新しい競争相手に対応できず、巨大な利益を失った。これは自分達のビジネスを「輸送」として考えず、「鉄道」として考えていたからだ。この結果、鉄道会社は、大きなビジネスチャンスを逃し、今も生き残っている会社は、ごくわずかである。

テクノロジー企業のメディア進出が加速

過去十年間、テクノロジーの進化によって、メディアに激烈な変化が起こりつつある。今注目されている事は、テクノロジー企業が、メディアビジネスに参入し、既存の企業を脅かしているという事だ。その典型はグーグルだ。彼らは、最近、旅行ガイドを出版する出版社フロマー(Frommer)社を買収し、コンテンツ企業を傘下に収めた。また、アマゾンは、テクノロジーを活用して本の流通に革命を起こし、さらに雑誌、ラジオ、ビデオといった分野にも参入しようとしているマイクロソフトは、Xboxを一般家庭に広く普及させて、コンテンツの配信プラットフォームにしようとしているし、Apple社は、iTuneというコンテンツの配信プラットフォームを作り出した。FacebookやTwitterも、コンテンツを見つけるためのプラットフォームになろうとしている。

今後はテクノロジーを抑える事が大事

既存メディアのビジネスモデルは機能不全に陥っていて、今後もテクノロジー企業による脅威を受け続けるだろう。流通チャネルが細分化し、参入障壁が低下するにつれ、コンテンツ流通は劇的に変わっていく。流通を抑える事が勝負を左右する時代ではなくなった。

今後のメディアビジネスの勝負を左右するのはテクノロジーだ。テクノロジーは、これまで同様、コンテンツ流通の仕組みを変え続けていく。しかし、メディア企業は、経営者が技術者でないがためにテクノロジーを理解出来ない。そして、テクノロジー企業の参入を許しているのである。

メディア企業におけるテクノロジーへのリテラシの低さは大きな問題だ。全てのメディア企業は、テクノロジーの分野で競争していくための人材育成を大規模に行わないといけない。それでも、テクノロジー企業による脅威から逃れるのは困難だが。

エンジニアがビジネスを学ぶのは簡単

かつて、Microsoftで働いていた時に、役員に対して、「なぜマイクロソフトの役員の多くが、エンジニア出身なのか?」、という質問をした事がある。答えはこうだ。「テクノロジーやプラットフォームを知り尽くした優秀なエンジニアがビジネスを学ぶのは簡単だ。しかし、優秀なビジネスパーソンが、テクノロジーを学ぶのは時間がかかる」彼の発言は真理だと思う。

今後、ビジネススクールでは、プログラミングを必修にすべきだ。そして、テクノロジー・プラットフォームを理解できる生徒を育てるべきである。なぜなら、ここ数年で、新しいコンテンツ配信プラットフォームが次々と生まれてきており、プラットフォームを理解する事こそがメディアビジネスの成功の鍵だからだ。

従来は、ビジネスの人間が、どんな商品を作るか、どう流通させるかを考え、エンジニアが、指定された商品を開発し、リリース時期を決めるのが一般的だった。ところが、優れたテクノロジー企業は、これらの役割分担の壁を取り払っている。エンジニアが、ビジネス側の担当領域まで口を出していくのだ。優れたテクノロジー企業は、エンジニアを、話の通じないコンピューターオタクとしては扱わない。彼らは、素晴らしいエンジニアが、ビジネス上の問題を解決し、テクノロジーにより既存のビジネスを破壊し続ける事こそが、自分達の成功に導く事を理解している。

エンジニアの処遇が問題

メディア企業は、流通の支配を基盤とした従来のビジネスモデルから脱却しなくてはならない。そして、テクノロジーを自社のコアコンピタンスとして取り入れるべきだ。彼らは、優秀なエンジニアを雇わないといけない。

しかし、課題がある。優秀なエンジニアは、一流のエンジニアのためにしか働かないのだ。さらに悪いことに、多くのメディア企業では、エンジニアを社内IT部門程度にしか扱っていない。そして、二流のエンジニアしか居ないという状況を生み出した。

もう一度言おう。優秀なエンジニアは二流のエンジニアのためには仕事をしない。彼らは、メディア企業の労働環境には魅力を感じない。そして、メディア企業の社内のテクノロジーの部門は、新しい変革へ抵抗を示すだろう。

メディア企業がテクノロジー企業と対抗するための方策とは?

メディア企業が、グーグル、アマゾン、アップル、マイクロソフト、フェイスブック、その他、数多くのスタートアップ企業と競争していくには、世界レベルのエンジニア組織を構築しないといけない。これは、生き残るための必要条件だ。メディア企業は、未来に向かって自らを発展させ、内部からの改革をやりとげるための方法を見つけ出さなければならない。

一つの案は、既存のIT部門のレポートラインとは切り離した形で、社内に新規事業部門を立ち上げ、広汎な権限を与えるというものだ。自社の既存ビジネスを破壊するようなアイディアも追求できる位の自由度が必要だろう。これは困難なプロジェクトだ。1回の挑戦ではうまくいかないだろう。それでも、メディア企業がこういった試みに真剣に取り組まないかぎり、遅かれ早かれ彼らは、テクノロジー分野から参入してきた競合他社に食い物にされてしまうだろう。

出典:Ad Exchanger