稀代のストーリーテラー「エミネム」に学ぶ、マーケティングの教え

コンテンツマーケティング

「エミネム△(エミネムさん、かっけ~)」

四十路を越えてもなお、若者たちの支持を受け続ける大ヒットメーカー「EMINEM(エミネム)」。白人ラッパー、ネグレクトされて育った極貧の少年時代、ドラッグ中毒、過激なタトゥー……。

これを見て、「ゴシップネタが目立つあの人ね」と眉をひそめる人には、思い出してほしいことがある。彼は、誰がなんといっても、アルバムトータルセールス1億枚超の「史上最も売れた」ヒップ・ホップ歌手なのだ。

その「結果」とも言える栄光の裏側には、必ず「原因」が存在する。今回は、それを探りつつ、エミネムという男に、コンテンツマーケティングで「人たらし」ならぬ、「大衆たらし(人々の心をつかみ、惹きつける)」になるための方法を学んでみたい。

嫌いなあなたも「エミネム」がちょっと気になる動画

はっきり言って、筆者もこの記事を書くまで、エミネムなんてどうでもよかった。

ヒットしているのは知っていたが、いや、だからこそ、彼をとり巻くミーハーに浮かれた群像を思い描き、嫌悪感さえ抱いていた。だが、この1本の動画をきっかけに、なぜか彼に、彼の言葉に、すっかり魅了されてしまったのだ。

Eminem's Top 10 Pieces Of Advice For Kids(エミネムの「子供たちへ贈る10のアドバイス」)

TV番組の中で、エミネムが子供たちへのアドバイスを「ベスト10」風に発表していくのだが、その語られる内容たるや、ただただ「深い」の一言に尽きる。

ぜひ、あなたも動画を観て、エミネムの魅力を感じてみてほしい。司会者や観客の失笑・苦笑、それに反比例した、エミネムの大真面目な顔つきにも注目だ。

第10位 リアルでいろ
(*バーチャルな世界が広がる今の時代だからこそ、大人にも響く、見事な一言である)

第9位 誰もタトゥーしたことに後悔しないぜ
(*口に出すということは、タトゥーに後悔した日々もあったのだろうか。心の葛藤は言葉にすると、強いメッセージとして、昇華されることもあるのだ)

第8位 海外市場が不安定だから、債券投資するなら「今」がチャンスだぜ
(*えっ? あのエミネムから、まさかの経済学!? このタイミングで、このギャップ作り……。そのセンスに脱帽だ)

第7位 「トイ・ストーリー3」を観に行けよ! おもちゃたちが、街に帰ってきたぜ

(*意味はよくわからないが、おもちゃたちが帰ってきて、よほどうれしかったのだろう。子供のような率直さにキュンとくる人は多いはずだ。女性限定??)

第6位 音楽は、アーティストにちゃんと印税を払うところから買えよ
(*ごもっとも! すべてのアーティストが伝えたい王道メッセージだ。TPOをわきまえた、トップスターらしいバランス感覚である)

第5位 絶対に「麻薬を取り扱ってる奴」や「ギャング」や「企業のお偉いさん」とは、仲良くなるなよ
(*恐らく、過去の自分を振り返った懺悔(ざんげ)なのだろう。経験者の言葉は重く、影響力があるという一例だ)

第4位 魔法の言葉を忘れんな! 「お願いします」、「ありがとう」、「ビッチはひっこんでろ」
(*最初の2つを際立たせるために、あえて最後に選んだ口汚いスラング。ニクい構成で印象に残るフレーズだ)

第3位 金で幸せは買えないけど、クレイジーでバカげた幸せなら買えるぜ
(*表現は過激だが、「本当に大切なものは、目には見えないんだよ」という、サン=テグジュペリの『星の王子さま』の中のセリフを彷彿(ほうふつ)とさせないだろうか?)

第2位 もし君にサインをしてあげて、それがネットオークションで売られるのを見かけたら、お前んちに行って、ベッドの下に隠れてるからな!
(*ヒェ~! 大人は笑える話だが、子供は想像すると、恐怖で眠れなくなるかもしれない。「子供がすることだから」と大人ぶらない、飾らない人間味に、誰もが共感してしまうはずだ)

第1位 こんな番組見て、時間を無駄にすんなよ!
(*見事なオチで、Time is money.(時は金なり)の基本も押さえてくる生真面目さ。この一言で、一緒にTVを見ている親たちの眉間もゆるむだろう)

エミネムが教えてくれること

上の動画を観ていただいてもわかるように、エミネムの言語能力(ライティング能力)、マーケティング力は異彩を放っている。彼の作ったヒット曲の一部から、さらにその魅力を紐解いてみよう。

1)ライティングについて

エミネムの曲で気づかされるのは、その圧倒的な「語彙(ごい)力」だ。それが、ラップの特徴でもある、完成度の高いライミング(韻踏み)を生み出していることが、ヒット曲「lose yourself」の歌い出しでもわかる。

His palms are sweaty, knees weak, arms are heavy
(彼の手のひらはジットリ、ひざはガクガク、腕はズッシリ)

太字になっている部分が、ダブルで韻を踏んでいることにお気づきだろうか? 事実、彼は「Orange(オレンジ)という単語では韻を踏めないという人がいるが、俺はいくつだって踏むことができる」と断言しているようだ。

その秘密は、学生時代から愛読している「辞書」にあるという。辞書というと、学生時代限定アイテムのように思われがちだが、私たちの言葉の「基礎」となるものがすべて詰め込まれているのだ。これほど、ライティングにふさわしい参考書はないだろう。

また、「語彙」が増えていくことで、冷静な「編集力」も備わってくる。それは、エミネムの歌詞から伝わる言葉の「緊張感」からも、よくわかるはずだ。

リズムのカウントに合わせながら、言葉の意味、アクセント、どの単語の組み合わせがより印象的に響くのかを検討していく。恐らく、気の遠くなるような編集作業で、音節の一つひとつに気を配っているに違いない。

彼の「激情」とも言えるメッセージは、その作業があって初めて、強く、そして直線的に、聴く者の「心に刺さる」のだ。

2)マーケティングについて

エミネムの曲は、マーケティングに必須の大きなルールを満たしている。それは、「聴く者より先に、聴く者の潜在的な心情」を唱えているということだ。

たとえば、今年の母の日に公開して話題になった、スパイク・リー監督のミュージック・ビデオ「Headlights」という曲がある。これは、ネグレクトを受けて育ち、自分の母親に対してネガティブな感情を抱き続けてきたエミネムが、自分自身も「人の親」となることで、次第に母を許し、和解を求めていくようになった経験を歌にしたものだ。

憎しみであれ、慈しみであれ、ほとんどの人が自分の母親に対して、特別な感情を抱えている。言い換えれば、「母」という題材は、すべての人の心に響く可能性があるテーマなのだ。

だが、その一方で、誰に批判されることも恐れてはいない。彼は、すべての人に語りかけようとすると、誰にも語りかけていないのと同じになることを知っているからだ。

その表現方法が極端であっても、常に、自分だけが持っている「背景」のストーリーテラーであること。エミネムは、そこにしっかりと軸足を置いているのである。

まとめ

いかがだろうか? エミネムは、私たちに、コンテンツは「ツール」であり、本当に必要なことは「ストーリー」であることを再認識させてくれる生き証人ではないだろうか。

もはや彼は、戦略的なライターやマーケターではない。彼にとって、ストーリーを語ることは、息をするかのように自然なことなのだ。

奇才でも、天才でもなく、「天然」。天然は、「最強」なのである。

参考元:
The Eminem Guide to Becoming a Writing and Marketing Machine
Eminem Apologizes to Mom in Emotional Mother's Day Music Video
エミネムが語る、いじめられた過去やどん底からの復活