IKEAのコンテンツマーケティングに学ぶ、ウケる動画作りに必要なワザとは

コンテンツマーケティング

立川店もオープンし、何かと話題のIKEA。帰国の折に訪れたこの新ショップ、開店直後の店内は、右を向いても左を向いても人、人、また人で、肝心の商品が見えない! なんてことも多かった。う~む、恐るべし、IKEA。周りの競合店は、戦々恐々としているに違いない……。

と、感心している場合ではなかった。本ブログの目的は、こんな風にビジネスの拡大を試みるIKEAの、巧みなコンテンツ戦略を振り返ってみる……ということだったはず。なかでも今回は、人々にウケる動画作りのワザに焦点を当てたい、と思っていたのだ。

これからの時代、企業がグローバルに成長するには、人を引きつけるコンテンツ作りが欠かせない。そのためには、これから紹介するIKEAの動画に見られるような、小ワザ、大ワザが必要なのだ。さて、それは一体どんなワザなのだろうか?

なんといっても猫、ネコ、ねこである!-Webの世界を知るべし

まずは、バイラルコンテンツとなったIKEA UKの人気動画を見てみよう。

【Happy Inside – IKEA cats advert】

これは、IKEAのスタッフが閉店後の店内に100匹のネコを放ち、そのようすを撮影したもの。天井から、机から、いろんな種類のネコが飛び降りてきて、仲間とじゃれあったり、ぬいぐるみの中に紛れ込んだり……。その一挙一動に思わず釘付けになってしまう。

多くの人が、これを最近の動画だと勘違いしているようだが、公開されたのは実は3年半ほど前。以後、コンスタントに視聴され続けているというのだから……う~む、恐るべし、ネコ。ライバルたち(モデル犬とか)は、戦々恐々としているに違いない……。

ネコは、その愛くるしさ(あるいはブサ可愛さ?)で、キラーコンテンツとして名を馳せている。Webの世界は、あっちを見ても猫、こっちを見てもネコと、ねこだらけ。ネットでは、なぜネコがこんなに人気? なぜイヌじゃダメなんだ? と、騒がしい。

このIKEAの動画が公開されたころ、あのMashableにも、Webの世界でネコが好まれる理由をかなり真剣に分析した記事が出た。
(興味のある方は、こちらからどうぞ)

IKEAはネットの人気者をうまく自社ビジネス(=家具)に絡めたコンテンツを制作した、と言える。

この動画で見られるワザは次の通り。

小ワザ
とにかく、かわいい。キュートなネコの動きを追いながら、さまざまなタイプのIKEAの家具を自然にとらえるカメラワークに脱帽。

大ワザ
「Webの世界」を知っている。動画コンテンツはWebがあって初めて成り立つもの。ネットで人気のあるものは動画コンテンツでもその威力を発揮する―ということを見事に示している。

こんな暮らしも楽しいね!-ターゲットオーディエンスを理解すべし

さて、次は1年半ほど前に公開されたIKEA UKの動画を見てみよう。テレビでもオンエアされた人気コンテンツだ。

【IKEA Playin’ With My Friends Music Video, Masters in France】

カジュアルなダイニングルームに、巨大なクマのぬいぐるみやロボットが登場!(でかっ!!)子どもと一緒に食事の準備をするというストーリー仕立てになっている。「こんな暮らしも楽しいね」と思わせる、愉快な動画だ。カラフルでポップなアイテムも多く、子どもウケするだろう。また、大人が見ても面白く、ファミリーで楽しめるコンテンツに仕上がっている。

IKEAはターゲットオーディエンスを理解するのに長けている。「家具」を使うのは子どもも含めた「家族」である場合も多い。実際に商品を購入するのは大人だからといって、大人だけに向けたメッセージを発信するのではなく、自社の商品を使うすべてのユーザー(またはペルソナ)に向けたコンテンツを制作していることに注目したい。

この動画で見られるワザは次の通り。

小ワザ
とにかく、楽しい。また、ビジュアルバランスが良い(白を基調とした壁や床で清潔感を出しつつ、適度にカラフルなアイテムを加えているため)ので、繰り返し見ても飽きない。

大ワザ
ターゲットオーディエンスを的確にとらえ、それにふさわしいコンテンツを制作している。

これからは、サステナビリティ!-時代を読むべし

最後は、今年2月に公開されたIKEA UKのサステナビリティキャンペーン動画をご覧いただきたい。

【IKEA – Wonderful Planet 60 seconds】

これは、「今後は、エネルギー効率の良いLEDライトを販売していく」というIKEAの環境問題への取り組みを見せるキャンペーンである。

同社は現在「People & Planet Positive(ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ)」というサステナビリティ戦略を立て、環境と社会にポジティブな影響を与えていくことを目標としているのだ。たとえば、いまIKEAの建物には全部で55万枚以上のソーラーパネルが設置されているという(世界中で合計して)。今回制作された動画も、そのような動きの中で作られたコンテンツである。

この動画では、夜の森にさまざまなデザインのライトが次々と現れ、暗闇にほのかな光を放つ。自然(=森)と人工物(=ライト)の一見奇妙にも見える取り合わせが、幻想的ともいえる印象的なイメージを生み出している。昨今、「モノ」をただ消費することに疲れ、サステナビリティを意識し始める消費者も現れるようになったが、そのような人々にも静かに訴えかける力のあるコンテンツとなっている。

この動画で見られるワザは次の通り。

小ワザ
アイデアが面白い。現実的にはあり得ない光景が、視聴者に強いインパクトを与える。ライトが木の幹や水辺など、いろいろな場所に現れるので、次はどんな所にどんな風に出てくるのだろう…と、つい見続けたくなる。

大ワザ
「サステナビリティへの意識の高まり」という時代の空気を読んでいる。

人気者×自社事業で、「ライフスタイル」の感じられるコンテンツに

さて、これまでIKEAの動画制作における数々の小ワザ、大ワザを見てきたが、最後に「決めワザ」を紹介しよう。

今回の3つの動画に共通して言えるのは、人気の高いもの(あるいは人々の関心が高いもの)と自社事業をうまく掛け合わせながら、「ライフスタイル」の感じられるコンテンツ作りをしているということ。単に、商品にスポットライトを当てるということはしていない。これが、IKEAの決めワザである。

人気者(ネコ、クマのぬいぐるみなど)の使い方が巧みだ。最初の動画では、ベッドの隙間から顔をのぞかせたり、チェストの引き出しを開けたりするネコを見ると、「こんな家具があって、こんな風にネコの動きを見られたら可愛いかも♪」という気になってくる。最初はちょっとした遊び心(いたずら心?)から生まれた企画だったかもしれないが、結果的に、IKEAの家具を使った「ライフスタイル」が見えるコンテンツとなっている。

次の動画にも同じようなことが言える。IKEAの家具がもたらすであろう「楽しい暮らし」が想像できるのだ(巨大なクマのぬいぐるみは、現実には現れないだろうが…)。最後の動画も然り。「サステナビリティ」のイメージが、ぼんやりとではあるが、心象風景のように自分の中に刻み込まれる。

まとめ

コンテンツマーケティングのポイントは、「ユーザーにとって有益な情報を提供する」ということ。商品単体の宣伝に終始せず、ユーザーに人気の高い要素を動画に取り入れ、自社商品がもたらす「ハッピーな暮らし」を表現したIKEAは、まさにコンテンツマーケティングを有効に行っている企業と言えるだろう。今回ご紹介した小ワザ、大ワザ、決めワザは、ぜひ参考にしてもらいたい。

今回の日本滞在中に乗った多摩都市モノレール。シートが大胆な柄になっていて、びっくりした。しかも種類がたくさんある。何かと思ったら、IKEAの宣伝らしい。ふと広告のほうを向いて真っ先に目に入ったのは、キャッチコピーだった。―「さあ、家が楽しくなるぞ。」
う~む、やっぱり恐るべし、IKEA。周りの競合店は、戦々恐々としているに違いない……。

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