昔ながらの商店に学ぶマーケティングの秘訣

コンテンツマーケティング
こんにちは。イノーバ代表の宗像です。
僕は福島県郡山市の中田町というところの出身で、実家は「ゆうき商店」という小さな店舗を営んでいました。ゆうき商店は、食品、お酒、たばこに加えて郵便局の業務も請け負うなど、いまでいうところのコンビニのようなお店です。そのゆうき商店で行われていた素朴なマーケティング活動についてお話ししたいと思います。
目次
“ど田舎”にあるゆうき商店
福島は、横に長い県です。左側が山、右側も山で、真ん中にだけ少し平地があります。うちがあるのは右側の山の一部。山のあいだの低地に集落があるような場所でした。つまり、大変な“ど田舎”ということです。
ゆうき商店は、もともと僕のおじいちゃんが始めたお店です。お酒も売るし、食品も売る。生活必需品なら大抵おいていました。「よろず屋」のようなものです。
確かに、ゆうき商店があったのは田舎でした。でも、みんなここでしか買い物ができなかったので、昔はわりと繁盛していたんです。家族をあげて商売していました。
すると、お客さんとも仲良くなるし、お店をやっているというだけで、周囲から一目置かれます。そのため、自分の家が商売をしていることに対し、誇りを感じていました。
その後、モータリゼーションの波が訪れ……
しかし、時代の流れとともに、お店は廃れていきました。
モータリゼーションによって、それまで専業農家だった人たちが、都会へと働きに出るようになります。新幹線や自動車道路も整備され、みんな工業地帯に出勤するのです。その結果、中田町はベッドタウン化が進みました。
そうなると、地元で買い物をする理由はありません。町中のほうがスーパーもコンビニもあるし、値段は安いし、品揃えもいいので。店の売上は、1日1万円ぐらいにまで落ち込んでしまいました。
そのような状況を目の当たりにして、「小さなお店が時代の流れに打ち勝つのはなんと大変なことなんだろう」と痛感しました。
似たような店舗のなかには、コンビニに鞍替えしているところもありました。しかし、いずれにしても、それほどうまくいっていなかったようです。
新しい商売へのチャレンジ
それでもゆうき商店は、運営を継続していました。
うちのおふくろはけっこう山っ気があり、新しいことにどんどん挑戦する人だったんです。クリーニングをはじめてみたり、タバコを売ってみたり、郵便局の権利を取得して運営するなど。とくに、郵便局の事業は業績も良く、いまでも続いています。
周囲のお店が閉店していくなか、どうしてゆうき商店は生き残ることができたのでしょうか。それは、おふくろが常に彼女なりにマーケティング活動を実施していたからだと思います。
とくに印象的だったゆうき商店のマーケティング施策「手紙キャンペーン」「待合室」「掘りごたつ」の3つについて、順に紹介していきましょう。
ゆうき商店のマーケティング活動①「手紙キャンペーン」
郵便局は、ゆうき商店の新規事業でした。
収益の内訳は、低額の手数料収入と、取り扱った業務に対する出来高払いです。とくに保険は出来高が大きく、売る側からすると魅力的な商品でした。そこでうちのおふくろは、保険を売ろうと考えたんです。
田舎なので、周囲の人はほとんど顔見知りです。そこで、電話帳を引っぱり出してきて、上から順に手紙を書いたのです。文面は次のようなものでした。
「このたび郵便局をはじめました。○○さま方には、たしか小学校1年生になるお孫さんがおられたと思います。今後は教育を受けさせるにも費用がかかることかと存じます。郵便局にはよくできた学資保険があります。ぜひ、検討されてはいかがでしょう」。
このような内容の手紙を、一通一通手書きし、町中に送ったんです。200~300通は送ったでしょうか。
すると、たくさんの反響があり、かなりの数の契約がとれました。しかも、お客さんも喜んでくれている。売り込まれているというよりは、「ちょうど必要だと思ったところに案内がきた」というように。
これは、現代で言うところの「メールマーケティング」です。きちんとターゲットを選定し、セグメントし、相手にあわせた文面で送っています。
「メールマーケティング」も「手紙キャンペーン」も、顧客との関係づくりが大切?
なぜ手紙キャンペーンは成功したのでしょうか。
おそらく、田舎ならではの「人間のつきあいが大事」という発想が、お客さんの心をつかんだのかと思います。祖父の代から「お客さんの信頼や信用を第一に」という発想があったそうです。それが結果的に、契約へとつながったのです。
これは、現代にも通じる部分があります。既存のメールマガジンも、顔の見える人から来ると読んでしまうものですが、一度も会ったことのない人からむやみに送られてくると、開封する気になりませんよね。
同じ手紙でも、同じ内容でも、人間関係が構築できているかどうかによって、結果は大きく変わるのです。それは、いまも昔も変わりません。
ゆうき商店のマーケティング活動②「待合室」
うちのおふくろは、定期的に「お店の模様替えをしたい」とか「改装したい」と言い出しては、実際に改装していました。ただ、改装にはお金がかかります。1日1万円の売上しかないお店で、数百万円かけての改装です。
「こんな小さな、売上のない店に投資するなんて馬鹿げている」「投資対効果はあるのか?」と僕や家族は反対しますが、なぜ改装したいのかについては、ちゃんとした理由がありました。おふくろには、郵便局の仕事が好きで、来てくれる客さんをちゃんともてなしたい、という想いがあったからです。
田舎だと、年金の受け取りにも郵便局が利用されます。近所に住んでいるおじいちゃんやおばあちゃんが、毎月、年金の支給日に来るんです。
ただ、年金の受取日には人が集中し、待合室はすぐにいっぱいになってしまう。そこで、もっとゆったりと待っていただくために、改装したいと言っていたんです。
お客さんがゆっくりでき、待合室に来た人同士が話せるような空間にしたい。また、来た人に対して丁寧に接客したい、という気持ちもあったかと思います
たしかに、ビジネス的に考えると、投資対効果はあまり高くありません。しかし、やろうとしていることの目的は、マーケティングに通じる部分があります。
お客さん同士が実際に会う場所をつくり、そこにコミュニティが生まれ、お客さんとの関係性がより強固になる。とても大事な考え方です。
「共創マーケティング」のさきがけとして
そういった発想は、現代では「共創マーケティング」と呼ばれています。
共創マーケティングとは、お客さんや他の企業と一緒になってマーケティング活動を行うこと。ユーザー自ら「参加したい!」と思わなければ成り立たないので、信頼関係がベースとなります。
大勢の人を巻き込みたいと思ったとき、すべてのお客さんと直接、関係性を構築するのは現実的に不可能です。そこでコミュニティが必要となります。コミュニティは、アイデアが生まれたり、積極的に参加してもらえるなどのメリットがあります。
有名な事例としては、ネスレの「ネスカフェ アンバサダープログラム」があります。コーヒーマシンを企業に無料提供し、「アンバサダー」となる社員自身が社内普及を行うことで、そこにコミュニティが生まれる、というものです。
もともとは、震災の避難所にコーヒーマシンを持って行ったのがきっかけです。そこで喜ばれたために、「ひょっとしたら企業でも喜ばれるのでは?」となり、実践されました。
自社の販売員ではなく、導入企業の社員(アンバサダー)が粉の補充やメンテナンスなども担当することで人件費が削減でき、その分導入企業は最安値でコーヒーを楽しむことができます。社員同士の交流も生まれ、まさにコーヒーを通したコミュニティが、社内に形成されるのです。
この取り組みは優れたマーケティング活動として2013年度の日本マーケティング大賞も獲得しています。
ゆうき商店のマーケティング活動③「掘りごたつ」
ゆうき商店の店内には、お客さんが上がり込みやすいつくりになっていました。靴を脱いで掘りごたつに入り、お茶を飲み、お菓子を食べ、冬場はミカンを食べるという感じです。映画「男はつらいよ」にでてくる家のようなものです。
田舎だからということもありますが、お客さんは買い物するだけではなく、お店でくつろいで、話をして、帰るんですね。それは今にして思えば、とても意味のあることです。
昔のお店は、ただものを並べていればよかった。本屋は本を並べ、電気屋は家電を並べるだけ。
しかし、現代では、なんでもネットで買えてしまいます。また、ちょっと車をはしらせれば、品揃えのいいお店もあります。
そこで重要になるのが、「お客さんが自ら店舗に行きたいと思える仕組み」があるかどうか。ゆうき商店の掘りごたつのように、お客さんが気軽にたまれるスペースがあると、それが足を運ぶ理由になるかと思います。
店舗に行く理由をつくること
本を出版する際にお世話になったインプレスの藤井貴志編集長は、シーカヤックにハマっているそうです。それで、あるシーカヤックの専門店に通っているとのこと。
でも、シーカヤックの知識を得たいだけなら、専門店に行く必要はないですよね。専門書だって、ネットで購入できます。わざわざお店に行く理由は、そこで趣味の話ができるからです。
また、ネットで本を買えば安いけど、そうするとこの店がつぶれるんじゃないかという心配もあるんです。つぶれてしまうと困るから、わざわざその店に行く。
それもまた、マーケティングの一種だと思います。
マーケティングのヒントは身近にある
ゆうき商店が実践しているマーケティング施策から学べること。それは、「身近なところにもマーケティングのヒントはたくさんある」ということです。お客さんを楽しませ、自分も楽しみたい。そのような想いが、マーケティングの原点かもしれません。少なくとも、利益だけを重視していては、浮かばない発想ではないでしょうか。
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