チョコを一口かじったら……「Freia」の動画に見るノスタルジア

コンテンツマーケティング

ある特定の匂いや香りを嗅いだとき、忘れていた記憶が急によみがえった経験はないだろか? プルーストの小説『失われた時を求めて』に由来する、この「プルースト効果」を使ったノルウェーの菓子メーカー「Freia」の動画を紹介しよう。

「子供の頃はよく利用していたけれど、そういえばすっかり忘れていた……」というブランドを、顧客が思い出すためのヒントになりそうな動画だ。

Freia「Find joy in the simple things」キャンペーン

フレイア(Freia)は、1889年に設立されたノルウェーの伝統的な菓子メーカー。人気商品のミルクチョコレート(MELKESJOKOLADE、メルケショコラーデ)は、ノルウェー人がこよなく愛するチョコレートのひとつだ。2014年9月に同社がリリースした動画「Freia - A Little Piece of Norway」(邦題:ノルウェーの小さな物語)が、静かな人気を呼んでいる。

Freia - A Little Piece of Norway

http://vimeo.com/105076280

この作品は、ニューヨークで華やかなスタイリストとして忙しく働き、充実した生活を送るノルウェーの若者が、ある夜、空っぽの冷蔵庫のなかにあった食べかけのチョコレートを口にした瞬間、故郷に対する思いが湧き上がり、ノルウェーに戻るというストーリーだ。

映像の終わりに、キャンペーンのタグライン「Find joy in the simple things(シンプルなものごとのなかに喜びを見出そう)」が映し出される。

ストーリーよりもアクション

この作品の特徴は、全編を通してセリフも説明もなく、映像のみという点だ。むしろ、言葉を排除したことによって、主人公の表情と行動がクローズアップされ、自然に主人公と自分を重ね合わせるようになる。なぜなら、都会で忙しく生活する人なら誰しも経験したことがある、普遍的なノスタルジア(郷愁・懐かしさ)が喚起されるからだ。

また、チョコレートの味わいから、「大切なことを思い出し、故郷に帰る」という一連の行動が、説得力とリアリティをもつ。この作品は、チョコレートが重要な役目を果たしているが、広告としての押しつけがましさは感じない。

むしろ重要な小道具として扱われ、「シンプルなものごとのなかに喜びを見出そう」というメッセージを見事に表現している点が、オーディエンスの共感を呼んだのだろう。

共感とノスタルジアが魅力の源泉

コンテンツマーケティングやSNSでは、「共感」が重要なキーワードだ。この動画は、都会人が仕事や日常に忙殺され、ないがしろにしがちな家族の団らんやコミュニティとの関係をもっと大切にしたいといった、誰もが抱えているジレンマをテーマにしている。

また、「ノスタルジア」はマーケティングに効果的であると言われている。国内では、映画「三丁目の夕日」を代表とする昭和をテーマにした作品、サービス、商品は記憶に新しい。ノスタルジアとは、もともとギリシャ語の「故郷へ帰る」という単語と「苦しい」という意味の単語を組み合わせた言葉に由来し、ホームシックを意味する精神医学用語であった。1950年頃から言葉の意味が変化し、現在では、「過去の個人的な体験に基づく事柄に感じる情動」を表すのに用いられている。

F・デーヴィス著の『ノスタルジアの社会学』よると、ノスタルジアは、過去の出来事が遠い昔か否かによるのではなく、現在の状況や雰囲気が過去のものと対照的(都会と田舎など)であればあるほど、感じやすいと述べられている。

ノスタルジアは人生の転換期にポジティブな感情を生み出す

では「懐かしさ」は、我々にどのような影響を与えるのだろうか? 前出のデーヴィスは、ノスタルジアとは我々の過去・現在・未来を統合する独特の方法だと言う。つまり、「自分とは誰なのか」「どこへ行こうとしているのか」という意識と深く結びついている。つまり、ノスタルジアは、アイデンティティの構成、維持、再構成という果てしない行為に用いられる感情なのだ。

人生の転換期、不確実な未来に対する不安を感じたとき、あるいは、社会が危機的な状況にあるとき。このようなときに過去を振り返ることは、「あの頃と変わらない自分であり、あの頃と同様に自分には価値があり、能力があり、行く手を待ち受ける恐怖や不確実性を完全に克服できる」と自分自身を鼓舞し、ポジティブな感情を生み出す効果があるとデーヴィスは述べている。

したがって、ノスタルジアに訴えることは、例えば職が不安定といった、変化の激しい現代において、有効なマーケティングの手法となるだろう。

まとめ

フレイアが行ったような、「懐かしさ」を取り入れたキャンペーンは、よく知られている伝統的なブランドや、ひとときブームになったが忘れ去られてしまったブランドに効果的だろう。従来からあるマーケティング手法だが、「懐かしさ」に加えてWebにおいて重要な「共感」が、巧みに表現されている点が参考になる。

セリフのない優れたCM作品としては、この他に2011年公開のVolkswagen社の「The Force」(邦題:ザ・フォース)がある。

これは、子供がスターウォーズに登場するダース・ベイダーに扮し、フォース(目に見えないエネルギー帯)を使おうとするのだが、当然のことながら、さっぱり効かない。見かねた父親がリモコンで車のランプをつけ、あたかもフォースが効いたと思わせるというCMだ。その車がVolkswagenの車なのだが、実にさりげない。

<動画>

The Force: Volkswagen Commercial

https://www.youtube.com/watch?v=R55e-uHQna0

どちらも「あるある!」という、オーディエンスの共感と懐かしさを呼ぶコンテンツだ。こうした「共感」と「懐かしさ」の二つの要素を、コンテンツマーケティングに取り入れてみてはどうだろう。

参考元: Fred Davis,“Yearning for Yesterday: A Sociology of Nostalgia”, FreePress(デーヴィス『ノスタルジアの社会学』間場寿一・荻野美穂・細辻恵子訳、世界思想社) Freia - A Little Piece of Norway The Force: Volkswagen Commercial What Is Nostalgia Good For? Quite a Bit, Research Shows Freia Piece of Norway in New York One Bite of Chocolate Puts Everything in Perspective in This Lovely Spot From Norway Freia creates a modern Proustian moment

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