Facebook、20億ユーザーに向けた戦略とは?

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Facebookのユーザー数は、世界中で10億人を超えている。これはすごい事だ。

IPO後に株価が下落するなど課題もあるが、Facebookが10億人のユーザーを持っているという事実は、驚異的な強みである。そして、実は、Facebookは、ユーザー数を20億人に増やすために、途上国攻略に向けた布石を打ってきている。Quartz.comが、Facebookの戦略に関して、大変良い記事を掲載していたので、翻訳してご紹介したい。

Facebook、20億ユーザーに向けた戦略とは?

2億4千2百万というアジア圏のFacebookユーザー数は、アジア圏人口の僅か6%に過ぎない。

これは近年急速に明らかになってきた、Facebookが全世界を-少なくとも全世界(World Wide)のネット(Web)を-覆い尽くすためのストーリーだ。何年にもわたり見え隠れしてきたこの物語は、Facebookがどうやって10億人のユーザーを獲得したかの説明から幕をあけ、20億ユーザー、そしてさらにその先を目指す成長ロードマップへと続いていく。成長の種はすでに蒔かれているのだ。鍵はアジア、アフリカ、そしてラテンアメリカ圏の新興市場における次期中間層だ。彼ら“次の10億人”はインターネット=Facebookという印象を持っていることが多い。

今年の終わりまでに世界には総人口以上の台数の携帯電話が溢れ、うち73%はスマートフォン以外となる見通しだ。これら従来型携帯電話の大半はデータ通信契約を持たず、またネット接続が可能であったとしても、それで閲覧出来るのはWAP(先進国では何年も前に使われなくなったプロトコル)に対応したサイトだけである。2008年までにFacebookは、それまでの急速な成長を維持するためにはこれら旧デバイスへの対応が不可欠であるとの認識を持っていた。さぁ、話はここからである

“Facebook Zero”が18ヶ月でアフリカ大陸を制覇できたわけ

2010年5月、Facebookは新サービス“Facebook Zero”を発表した。対応国内の、WAPに対応したフィーチャーフォンでのみ閲覧可能な文字ベースのFacebookである。

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Facebook Zeroのメインページは通常のFacebookと見た目は異なるが、フレンドリクエストや写真へのタグ付け、友達のステータス更新など、お馴染みの通知機能が搭載されている。物理キーかタッチスクリーンかに関わらず、このテキストベースの操作画面からリンクを開いたりメッセージを送るなど、Facebookのほぼ全ての機能を利用することが可能だ。

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Facebook Zeroのミソは使用料が無料という点だ。利益は携帯電話会社から”Zero raiting”と呼ばれる仕組みによって上げる。利用者は通信料を負担する必要が無く、これはプリペイド携帯が大半の新興市場において極めて重要なことだ。オプトイン型携帯広告ネットワークを提供するJana Mobile社CEOのNathan Eagle氏によれば、発展途上国における携帯電話への平均支出は手取り収入の8~12%であり、ほとんどが通話とテキストメッセージのみの利用であるという。

アフリカでのFacebook Zeroのサービス開始後18ヶ月でユーザー数は114%の増加を見せた。これを直接Facebook Zeroによる成果と結びつけるわけにはいかないが、Facebook Zeroサービスイン直前10ヶ月間のユーザー増加率が18%に過ぎなかったことを考えれば一つの要因であることは確かだろう。ケニアではネットへのアクセスの実に99%がモバイルデバイスによる物で、これらのほとんどはフィーチャーフォンもしくは通話とテキストしか使えないようなより原始的な端末によるものである。今となってはFacebookはアフリカにおいても非常に人気であり、友達の写真などをより高速に表示する事の出来るブローバンド接続への移行を後押ししている。

Facebook Zeroはいかにして利用料無料を実現しているのだろう? Facebook Zeroの運用に際して、同社が携帯通信キャリアに対しユーザーの通信料を負担しているのか、なんらかの支払が発生しているのかという質問に対してFacebookの広報担当者はコメントを拒否した。しかし前出のNathan Eagle氏はFacebookはこれら携帯通信キャリアに対し何ら補償をしていないだろうとの見方だ。

携帯通信キャリアにとって、無料版Facebookは不可避の脅威に対する解決策になりうるからだ。これらの国々の携帯通信キャリアの最初の顧客は富裕層だったが、現在増加しているユーザーは中間層以下だ。つまり契約毎の利益は縮小傾向にある。一方で、やり取りされるデータ量は増大の一途をたどり、顧客はより高速なネットワークを求めるようになることで設備投資コストは増大する。携帯通信キャリアはさらなるユーザーの獲得と、顧客単価の向上にやっきになっているのだ。

Nathan Eagle氏いわくFacebookは携帯通信キャリアが彼らのサービスを無料提供せざるを得ない状況を作り出しているようだ。“どうやっているかは知らないが、私ならこう言うだろう。” Nathan Eagle氏はこう続けた“Facebookはネット上でもっとも中毒性の高いサービスだ。Facebookを体験したユーザーは他のWebサービスにも興味をもかも知れないし、それら有料サービスに誘引出来るかもしれない”

Facebook Zeroの戦略はネットに触ったことのない人々の取り込みにぴったりだ。第一に、ソーシャルネットワークの特性として“友達が使っていたら自分も使いたくなる”というものがある。そしてFacebook Zeroは彼らが長年親しんできたテキストメッセージによりこれら新ユーザーを招待を容易にしている。ひとたび新ユーザーを取り込んでしまえば、携帯通信キャリアはデータ通信プランを売るチャンスを得る。Facebook Zeroにおいて、通信料無料で提供されるサービスはテキストベースのみなのだ。写真や外部リンクを見たければ通信料を払わなければならない。

これが、Facebook Zeroのローンチ時に45カ国で50社もの携帯通信キャリアが契約を求めた理由だ。また、0.facebook.comというドメインを設置が容易であり、またほとんどの携帯通信キャリアにとって特別な設備増設が必要なかったことも要因の一つであった。

アジア、ラテンアメリカの状況と競合

Facebookが盤石な地盤を作り上げつつあるのはアフリカだけではない。Nathan Eagle氏いわく「Facebookは文字通り“インターネットそのもの”になりつつある」という。ニールセンの調査によれば、2011年末の時点でフィリピンでは人口の3分の1にあたる3360万人のインターネットユーザーがいるといた。そして同国のFacebookユーザーは実に2940万人だ。フィリピンの携帯メーカー大手MyPhone社は、Facebookについて歌った動画がYouTube上で人気の若手音楽グループを自社の広告に起用し、そこにFacebookのロゴを埋め込んだ。

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Facebookユーザー数上位10カ国中、6カ国は新興市場だ。その内の5カ国-インド、ブラジル、インドネシア、トルコ、フィリピン-には2億1700万人のFacebookユーザーがいる。これらの大多数の所得水準は先進国平均よりも低く、フィーチャーフォンを利用する彼らにとってFacebook Zeroの登場以前にはFacebookを利用する手段が存在しなかった。

Facebookはこれら新興市場に対し素晴らしい参入を果たしたが、競合他社がより魅力的なオファーを携えて利用者無料のソーシャルネットワークサービスに参入してくるのは時間の問題だろう。フィリピンをはじめ、これらの国々で既に人気のTwitterは、もともとテキストメッセージによる利用を念頭に置いたサービスであり、彼らの持つローエンド端末でも快適に利用することが出来る。また、Google がGoogle+の簡易版を提供することも有り得るだろう。Facebookの初期からの競合サービスでGoogle に買収されたOrkutは、ブラジルにおいて2012年までFacebookをしのぐ人気を誇っていた。

FacebookがFacebook Zeroによる成功をあまり宣伝していないのはここに理由があるのだろう。競合他社の注目をあまり集めたくないのだ。 注意を払わなくてもよい唯一の市場は中国だ。中国ではFacebookをはじめとした大手ソーシャルネットワークサービスへのアクセスは政府により軒並み遮断され、より管理のしやすい国内企業のソーシャルメディアのみという状況にある。

これまでの経緯:Facebook Zero、Facebook for Every Phone、Facebook for SIM

Facebook Zeroに関して最も重要なことは、それがFacebookが発展途上国市場を攻略し、次の10億ユーザーを目指す戦略において最も重要な、そして最初の一手だということだ。全てを理解するために図を用意しよう。

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一連の慎重な事業提携、買収、そして販促キャンペーンによりFacebookは自社のサービスを最新のiPhoneユーザーにも、5年落ちの白黒画面の携帯電話ユーザーにも利用可能なサービスへと育て上げた。利用者の多くはデータ通信プランすら契約していない。

途上国に数十億台は溢れかえっている安価な携帯電話からでも無料もしくは僅かなコストでFacebookにアクセスすることができる。

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一つの事例を紹介しよう。Facebookとパートナーシップを組んだオランダの携帯ネットワークキャリアGemalto社は“Facebook for SIM”をリリースした。これはプリペイドSIMカードの空き領域にFacebookの基本機能を搭載したもので、テキストメッセージシステムを利用するため、このSIMカードを購入したユーザーはどんな携帯電話でもFacebookを利用することが出来る。最初に導入したアルゼンチンでは、当初はトライアル期間として“Facebook for SIM”の無料提供を行い、後に月額9ドルでのサービス提供をはじめた。このSIMカードを契約すれば、データ通信契約の無い携帯電話でもFacebookを利用可能だ。

facebook-2_7.jpg今年の初め、FacebookはシンガポールのU2opia Mobile社によって開発された”Facebook by Fonetwish”というサービスをリリースした。これは携帯通信キャリア向けのソフトウェアで、彼らのネットワークにインストールすることでユーザー全員が利用可能となる。”Facebook by Fonetwish”の機能とは、市場に存在する携帯電話の9割が認識可能なUSSDと呼ばれるプロトコルを利用し、どんな携帯電話でもテキストベースでFacebookを表示することが出来るようにするというものだ。2011年の年末、アフリカの大手携帯通信キャリアOrange社はエジプトにおいて35万人のユーザーに対し”Facebook by Fonetwish”のトライアルを行い、コートジボワール共和国に続いての素晴らしいサービスローンチとなった。Orange社はアフリカの20の携帯通信キャリアを所有し、そのユーザー数は7000万人におよぶ。

市場に出回っている携帯電話の大多数を占めるミッドレンジのフィーチャーフォン。これらの端末からでもFacebookは無料、もしくは僅かなコストで利用することが出来る。

45カ国でローンチされたFacebook Zeroだが、その後導入国の追加についての公式アナウンスはない。とはいえ、Facebook Zeroには現在数億人がアクセス可能だと見て間違いないだろう。

メキシコはFacebookユーザー数上位10カ国内の発展途上国の一つだが、現時点でFacebook Zeroを提供している携帯通信キャリアは存在しない。しかしFacebookは多くの資金を投下し同国でサービスを利用出来るよう取り組んでいる。2011年1月、同社はSnaptu社と連携してフィーチャーフォンで動作するアプリをリリースした。無料が基本のFacebook Zeroとは異なり、このアプリが無料なのは最初の90日間だけ。その後の利用には通常のデータ通信料が課金される仕組みだ。このアプリで見られるFacebookはおそらくあなたの知るFacebookにより近いものだろう。タイムラインがあり、ステータスアップデートがあり、スマートフォンでの表示に近い形で写真も表示される。

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Facebookはこの結果に満足し、わずか2ヶ月後には開発パートナーのSnaptu社を4000万ドル以上で買収し、同アプリの技術を基にした独自アプリをリリースした。”Facebook for Every Phone”だ。このアプリは2500種類以上の端末をサポートし、買収時点で3000万ユーザーを抱えていた。このアプリは世界中の携帯電話の80%で利用可能だ。 Facebook Zeroとは違い、“Facebook for Every Phone”は同社に直接利益をもたらすことも出来る。現在の状況は不明だが、Snaptu社の買収前まで、彼らは携帯通信キャリアがユーザーの同アプリの利用により得るデータ通信料の一部をシェアする契約を結んでいた。

Facebookの向かう先:Androidスマートフォン、サービス統合、Eコマース

Facebookがフィーチャーフォンユーザーの取り込みに投資を続ける究極の目的は、ユーザーがスマートフォンに買い換えた時にも引き続きFacebookを利用してもらうためだ。途上国におけるAndoroidスマートフォンの値下がりは急速で、すでに25ドル足らずで購入可能なケースもある。これによりFacebookユーザーのスマートフォンへの買い換えは容易になり、初めての携帯電話がスマートフォン、というユーザーも出てきている。

スマートフォンにより、ユーザーは世界のどこからでも共通のFacebookモバイルサイトにアクセスする事が出来る。市場ごとに異なるインターフェースや機能を提供しているMicrosoft社とは違い、Facebookは言語以外のインターフェースは全世界共通のものを採用している。 従業員数わずか16人の写真共有サービスであったInstagramを10億ドルを投じて買収したことを見てもわかるように、デスクトップコンピューター向けのサービスとしてスタートしたFacebookも今やモバイル対応に全力を注いでいる。これは先進国のFacebook既存ユーザー達がコンピューターよりもモバイルでのネット利用に時間を使っているからだけではない。”我々がこれから向かう市場(新興市場)において、ユーザーはコンピューターを持っていないのです。” GigaOm’s Mobileze conferenceで登壇したFacebookのモバイル担当役員Eric Tseng氏はこう話す。Facebook人気はすさまじく、ある市場では”Facebookボタン”がキーパッドについている携帯電話が6種類も売られている。

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ひとたび人々がこういった端末でフルバージョンのFacebookを使いはじめた時が、Facebookにとっての広告ビジネスのはじまりだ。彼らはユーザーの嗜好、遊び場、友人、そしてFacebookを見ていない時にどのサイトを訪れているかまで把握している。長期的に見て、Facebookがユーザーの全ての情報を利益に換えるにあたっての障害はプライバシー問題だけだろう。将来的に、広告はFacebookにとっての主収益源ですらないかもしれない。彼らは現在、企業がバーチャルな商品をFacebookユーザーに販売するための仕組み作りに取り組んでいる。これはFacebookの小売業への第一歩だ。いくつかの市場においてすでに活発なマイクロペイメントも一つの選択肢だろう。

Facebookがユビキタス(どこからでもアクセス可能)であれば、これらの事業の収益性はさらに増すだろう。モバイル広告とマーケティングを取り扱うBrandtone社CEOのDonald Fitzmaurice氏はこれについて“Facebookの提供するOpen GraphとAPIを考えたとき、人々はカンザスに住む女子高生を念頭におくかもしれない。しかし実際には近い将来、Facebookユーザーの大部分は成長著しい新興市場のユーザーが占めることになる”という。

あらゆるところにFacebookが

Facebookは現在数億のモバイルデバイスにより利用可能で、その数はさらに大きな成長の余地を残している。アジアのFacebookユーザーは現在2億5千万人だが、これは人口の6.5%に過ぎず、アフリカに至っては人口の5%以下しかまだFacebookを利用していない。 Nathan Eagle氏はユーザーの増加について「ベトナムでは、過去6ヶ月の間にFacebookユーザーが3倍に成長した。かの国ではFacebookの利用は違法にもかかわらず、だ。」と指摘し、まもなく10億に達するFacebookユーザーだが、これを2倍に拡大させることは容易だろうとの考えを示した。

Facebookの戦略の鍵は、ユーザーがどのレベルのモバイルデバイス(非常に原始的な携帯電話からスマートフォンまで)から使い始めたとしても、高度なデバイスにアップグレードすればするほどユーザー体験が豊かで楽しい物になっていくということだ。そしてこれが同時に世界の携帯通信キャリアが競ってFacebookとパートナーシップを結びたがる理由でもある。ネットを利用しはじめる次の10億のユーザー達は、コンピューターからでなくモバイルデバイスからネットを利用するようになる。そして彼らがネット上で友達と繋がりやり取りするデータ量はそのまま売上となるのだから。

ユニリーバ社のような企業が、自社のシャンプーを人々が初めて使うシャンプーにするために努力を惜しまないように、Facebookもユーザーのインターネット初体験を“囲い込みたい”と考えている。これらのユーザーがもたらし得るライフタイムバリューこそがFacebookの株価を正当化させることが出来る。そしてこれこそがGoogle すら為し得ていない“世界のホームページ”にFacebookがなり得るチャンスなのである。 出典:Quartz

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