コンテンツ動画「ダヴ リアルビューティー スケッチ」に見る心理面からのアプローチ

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日本でもユニリーバが展開するスキンケア、ヘアケア、ボディケアブランドとして知られるDove(ダヴ)が制作した動画「Dove Real Beauty Sketches(ダヴ リアルビューティー スケッチ)」をご存知だろうか?
その圧倒的な完成度で、2013 カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル「チタニウム(統合キャンペーン)部門」でグランプリを受賞し、他部門においても数多く受賞した注目作である。
まだご覧になっていない方は、こちらからどうぞ。
ダヴ リアルビューティー スケッチ
ストーリー
FBIで訓練され、目撃者の証言から犯人の似顔絵スケッチをするのが仕事だという男の前に、何人かの女性が1人ずつ現れる。
男と女性は、まったく面識がない。そして、スケッチをしているあいだカーテン越しに座るため、このときにもお互いの顔を見ることはない。
やがて女性は、男の質問にしたがって自分の顔の特徴を答え、男はそれをもとに彼女の似顔絵を描いていく。スケッチが完成すると、女性はその場を去る。続けて、その女性と待合室で話をしたという数人にも、同じように彼女の顔の特徴(あるいは印象)を尋ね、それをもとに再び似顔絵をスケッチしていく。完成した2枚の似顔絵を比べてみると、そこには……
映しだされた事実は見るものにも感動をあたえ、そこに「You are more beautiful than you think.(あなたはあなたが思う以上に美しい)」というブランドメッセージが流れるというものだ。
“心の琴線”に触れるということ
ご覧のとおり、映画のような美しい映像技術や実験仕立てのドキュメンタリータッチな構成もすばらしいが、特筆すべきは、この動画がユーザー心理の“とても深い部分”に共感をもたらしていることである。
女性たちが自分の顔に対して抱えたネガティブな感情やコンプレックス(劣等感)など“トラウマ”ともいえる傷、誰もが心の奥に秘めた“触れてはいけないこと”をテーマにしているため、そのような感情が沸き起こるのである。
心理学では、トラウマが癒されるプロセスは「3つのR」であらわされる(米国の心理学者ジョンソンによる分類)。
1.Reexperience(再体験)
2.Release(解放)
3.Reintegration(再統合)
似顔絵を描く人物に自分の特徴を伝える過程で、コンプレックスのある部分を自ら再確認し、自分自身でも隠してしまいたいほどの感情に向き合う。その後、他人からは自分がどう見えているかを知り、自分の抱いていた感情の意味を改めて考える。そして、自分の「コンプレックス」は実は主観的な感覚であったことを知るのだ。
ここで、お気づきだろうか?
この3分という短い動画の中に、この複雑な心の動きがすべて現れているのである。
それは、動画の中の女性たちだけではなく、この動画を見るすべての女性が疑似体験できるのだ。
“心の琴線に触れる”という言葉のとおり、女性たちが、自身では“足かせ”のように感じていた何本もの糸が、実は美しい音を奏でる“琴の糸”であったことに気づく瞬間である。
その瞬間、ブランドは優秀なカウンセラーとなり、ユーザーはクライアントとして、ブランドに絶対的な信頼を寄せ、好感を抱くことは当然の結果だといえる。
試されるブランドの“本気度”
しかし、とてもデリケートなテーマに焦点をあてているため、一つ間違うと、ユーザーの反感を買い、ブランドイメージを落としてしまうという危険もある。
そのリスクを未然に防ぐため、ダヴでは、最新作「ダヴ:パッチ」でも心理学博士のアン・カーニー・クック先生を動画の中でも起用するなど、心理学の専門家に適切な指導を受けてコンテンツ制作をしていることがわかる。
ダヴ:パッチ
また、この“ハイリスク・ハイリターン”ともいえるテーマにあえて取り組んでいるということは、「すべての女性が心から自分の美しさに気づき、幸せになってほしい」というブランドコンセプトが揺るぎないものであり、それに対して真剣に取り組んでいるという“本気度”の表れだといえる。
この一貫した企業姿勢があったからこそ、このような難しいテーマを臆することなく選び、成功させることができたのだろう。
まとめ
人間のネガティブな感情にスポットライトをあて、心理学的にアプローチすることは、ユーザーの痛みを伴うきっかけにもなるが、同時に、“癒し”を得るきっかけにもなる。
安易には選べないが、“現代人が抱える闇”が広がる時代だからこそ、取り組むべき価値のあるテーマではないだろうか。
参考文献:
西澤哲『子どものトラウマ』(講談社現代新書)
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