ますます重要度を高めるインターナルブランディングとは?

経営・ビジネスハック
企業が顧客に対して特定のイメージを持ってもらう活動を社員に向け、そのイメージを社内に浸透させることをインターナルブランディング(インナーブランディング)と呼びます。最近ますます注目を集めるこの活動はなぜ企業にとって重要なのでしょうか?
「インターナル」ブランディングの意味するところ
そもそもブランディングとは、企業や製品、サービスに対して共通のイメージを持ってもらうための活動です。日本ではブランドというと、高級品というイメージがつきまといますが、実際には大手企業や高額な製品でなくともブランドは事業活動を行ううえで非常に重要な要素です。たとえば、「A社といえば石鹸の会社」、「肌にやさしい石鹸といえばA社の製品」という認識を多くの消費者が持っていたとすれば、石鹸を購入する際にA社の製品がより選ばれやすくなることが期待されます。そして、この認知を向上させることで「A社の石鹸だから」という付加価値が生まれ、価格競争に巻き込まれなかったりリピート率を上げたりすることができるのです。
このようなブランディングを自社の社員向けに行う活動をインターナルブランディングと呼びます。その企業で働いているからといって、すべての社員が自社に「共通のイメージ」を持っているとはいえません。しかし、企業には事業活動を行ううえでの理念や外部に発信しているブランドがあるはずです。社員に対してもこのイメージを根付かせる、その背景にあるものを正しく理解してもらい、共通のイメージを根付かせることがインターナルブランディングなのです。
インターナルブランディングが重視される背景
この言葉が登場したばかりのころには、「社員の意識を変える」といった用法が多かったようです。「従業員満足」のための施策として考えられていたともいえるでしょう。ブランドをつくり上げる主体が従業員であることは間違いなく、企業の目指す姿を社員に浸透させ、それによってモチベーションを維持・向上してもらうことはインターナルブランディングとして重要です。
これが最近では、インターナルブランディングの成功によって社員の「行動」がどう変わるか、事業に対してどのような影響を与えるか、といったより実践的なマーケティング・経営理論として改めて注目されています。博報堂コンサルティングは、この背景には次の3つの要因があると分析しています。
- グローバル化: 市場・競争のグローバル化に伴い、日本人以外の従業員に対しても経営理念を正しく浸透させていく必要が強まった。
- コミュニケーションの変化: デジタルネイティブと呼ばれる世代に代表されるように、コミュニケーションの形が大きく変容、世代間でのギャップが広がった。
- コンプライアンス強化: コンプライアンスを守っていくためにもタスクをもれなく実行する、仕事のマニュアル化が進んだ。
このような状況の中、社員間のコミュニケーションは希薄になりがちで、イノベーションも生まれにくくなっています。このため、ブランド理念を「一緒につくり上げていく」という活動を通じて社員同士を結びつけたり、創造性を発揮してもらったりする必要があるのです。日本の企業にとってこの課題はより切実なものになっているといって良いでしょう。
どのような効果が期待できる?
正しいインターナルブランディングを実施することで、以下のような効果が例として期待できます。
- 顧客意識の向上
ブランドを具体的に理解し視点を持つことは、顧客への意識を高めることにもつながります。これは、結果として顧客満足度を向上させる行動に結びつきます。
- 社員がブランド価値向上に自発的に取り組む
明確なブランド意識を持って行動することは、社員がより主体性を発揮することにつながります。また、インターナルブランディングはトップダウンではなく、社員同士のつながりからつくられることを目指すため、社内に散在する「思いはあったが声を上げていなかった」という人材の発言・行動をうながします。
- 新規サービス開発やサービス品質の改善に貢献
先に挙げた社員による主体性の発揮は、職場の活性化にもつながり、結果として新しいサービスを生み出したり既存のサービス品質の改善が期待できます。こうした改善が営業や開発といった異なる事業領域で期待されることもポイントです。
- 優秀な人材の採用に有利
社内でブランド価値を明確にすることは、自社に最適な人材を採用する基準も明確になるということです。また、明確なブランド意識を持った社員が社外でも生き生きと活躍することで、モチベーションの高い優秀な人材が集まりやすいというメリットもあります。
インターナルブランディングの実施手順
実際にインターナルブランディングを実践するにあたってはどのような手順で行えばよいのでしょうか。AD STUDIESに助けとなるレポートが掲載されています。この報告によれば、次の3つのステップが重要です。
「見える化」
ブランドとは、「イメージ」であるがゆえに案外理解の難しいものです。ともすれば一般の従業員にとってはマーケティング資料に書かれた能書きととらえられてしまうこともあります。このため、ブランドの理念、そこにある想いや事実を正しく理解してもらい、社員一人ひとりの頭の中で具体的な像をつくってもらう必要があります。ブランドブックや研修、社内イベントのような取り組みが有効です。この「見える化」のステップを欠いてしまうと以降の取り組みを始めても社員にとっては具体的に理解できず、効果が上がりません。
「自分ゴト化」
そうして具体的につかめた「ブランド」を実践していくのは他でもない社員自身であることを理解してもらいます。自社のあるべき姿を実現させるための活動に自分が参加しているという意識を持ってもらうことで、日々の業務や会社そのものへの意識を変える非常に重要なステップです。実現のためには企業側が社内アウォードのような、最適な「機会づくり」をしていくことが求められます。
「行動化」
ブランドを自分のものとしてとらえた意識で行動していくのがこのステップです。企業として重要なのはそれを継続させていくこと。社員のモチベーションを刺激するような制度や環境整備が重要になってくるでしょう。リッツ・カールトンやスターバックスのように人事制度にブランド基準を盛り込むといった、実体を伴った取り組みを行っている企業もあります。
効果的なインターナルブランディング取り組み事例
効果的にインターナルブランディングを実施した事例として、保険会社のAXA(アクサ、この事例はイギリス)があります。同社は、経営陣と従業員の分断からくる社員のモチベーション低下に悩まされており、顧客にまでその影響が及ぶようになっていました。この状況を打開するため、AXAは社員向けのイベントを開催しました。このイベントに先駆けて、全社員にバレンタイン・カードを配布、そこで自分が気に入っていることと会社に変わってほしいことを1つずつ挙げてもらいました。このヒアリングをもとにイベントを開催、そこで社員からの要望に対してのフィードバックを行ったのです。
この結果として、企業メッセージの理解度が20%増加、9割以上の社員が「会社は自分の意見を聞いてくれている」と感じ、8割以上がこのイベントが意義あるものだと回答しました。この結果は従業員ロイヤルティ(eNPS)が半年で20ポイントアップという形となってもあらわれました。
しっかりした計画づくりが肝心
さまざまなメリットが見込まれるインターナルブランディングを実施するにあたっては、業界や経営・組織上の課題を正しく分析し、最初に明確な計画を立てることが求められます。最近では学べる書籍が多く出ているほか、セミナーも開催されており、足を運んで一度研究してみるのもおすすめです。
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