ますます重要度を高めるインターナルブランディングとは?

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目次

インターナルブランディングとは?

インターナルブランディングとは、社内に向けたブランディング活動のことで、その目的は、企業の基盤となる理念に基づく行動指針、企業として共有すべき価値観を従業員全体に浸透させることです。

社外に自社の価値を伝えるのは一人ひとりの従業員であり、従業員が自社の価値を深く理解して業務に取り組むことが質の高い商品やサービスの提供の基盤になります。

インターナルブランディングとエクスターナルブランディングの違い

一般にブランディングという言葉は、自社の企業イメージや商品の価値を正しく伝え、顧客の信頼や共感を得ることにより、他と差別化を図るマーケティング活動を指します。こうした、社外向けのブランディング活動はエクスターナルブランディング(あるいはアウターブランディングとも言う)であり、内部の従業員・関係者に対するインターナルブランディング(インナーブランディングとも言う)とは目的や施策が異なります。

エクスターナルブランディング

エクスターナルブランディングは、社外に向けて自社の考えや顧客に提供する価値を伝える活動であり、ウェブやSNSを含む様々なメディアを通じて行われます。

自社の商品やサービス、企業のイメージを構築し、「〇〇の商品といえばこの会社」というようなイメージをターゲット市場に浸透させることが目的です。

インターナルブランディングの目的

インターナルブランディングの目的は、従業員一人ひとりが自分ごととして自社のブランド価値の向上と企業目標の実現に向けた行動を進められるようにすることです。

また、インターナルブランディングを継続的に行うことで、従業員が自社の考えや方向性を理解できるようになるだけでなく、従業員満足度の向上やコンプライアンス遵守意識の改善にもつながります。

インターナルブランディングが重視される背景

インターナルブランディングが日本で重視されるようになってきた背景には、企業をとりまく環境の様々な変化があります。

社会環境の変化と企業としての安定性の確保

現代では、グローバル化とデジタル化の進展や、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少など社会環境が大きく変化しています。そのため、企業には社会環境の変容に応じた組織のあり方や、従業員の働き方の改革が求められる状況となっています。変化の激しい環境の中で、人と組織の安定性を確保するために、企業の理念・ビジョン・価値観を共有するインターナルブランディングがますます重要になってきているといえます。

働き方の多様化

社会環境の変化により、働き方も多様化しています。また、コロナ禍をきっかけにリモートワークが広がり、企業と従業員、従業員同士のコミュニケーションのあり方も大きく変化しました。

こうした変化の中で、従業員のモチベーションを維持するためにも、企業が従業員に対して自社の価値観や理念を共有し、従業員がそれに共感し、働く意味を見出すインターナルブランディングの活動が重要視されるようになってきています。

人材の流動化

現代では、終身雇用が崩れ、人材の流動化が進んでいます。

若手の離職を防ぎ、優秀な人材を確保するためにも、インターナルブランディングを取り入れて、従業員に働く意義や価値を明確に示すことが求められています。

インターナルブランディングをするべき企業の特徴

インターナルブランディングは多くの企業でメリットがありますが、企業の規模や状況に応じてその必要性は異なります。ここでは特にインターナルブランディングを必要とする企業の特徴を紹介します。

グローバル企業

グローバル企業は、言語を始めビジネスルールや生活慣習が異なる人々の集合体です。グローバル企業では一般に従業員の流動性が高く、従業員同士や企業と従業員の足並みを揃えることが困難です。そのため、従業員一人ひとりに行動指針や共有すべき価値観を浸透させるインターナルブランディングがより強く必要とされます。

スタートアップ企業

企業の立ち上げ時、さらに限られた人数で運営するその後の成長期においては、従業員全員が同じ目的意識を持って働くことが不可欠です。インターナルブランディングは、生産性の高いチーム作りに効果的です。

成熟した大企業

長い歴史を持つ大企業は、組織が巨大化し、従業員は自身が果たしている役割や存在意義などを見失うリスクがあります。また大企業では既存事業の管理業務ばかりにリソースが割かれ、新規事業や創造活動といったチャレンジが後回しになり、現状維持の状態になってしまいがちです。インターナルブランディングによって企業の理念や価値観を従業員に浸透させることで、従業員が自主的に行動し新たなチャレンジに取り組む土壌が醸成されます。

合併や統合を行った企業

企業にはそれぞれの企業風土、これまでに培ってきた企業の価値観があります。合併や統合が行われた場合には、それぞれの慣習的な社内ルールや企業風土の違いによる軋轢が生じることがあります。その弊害を解消する手段として、インターナルブランディングによってひとつの企業として一丸となって向かうべき方向を示し、モチベーションを高め団結することが有効です。

離職率が高い企業

離職率の高い原因として、従業員のモチベーションの低さ、社内の風土や評価制度への不満、採用のミスマッチなど様々な要因が考えられます。これらの要因をよく調査して、それに応じた対策を講じていく必要がありますが、インターナルブランディングは施策の核として役立つ概念だと言えるでしょう。

インターナルブランディングのメリット

インターナルブランディングを正しく行うことで、以下のようなメリットが期待できます。

社員の企業理解・共感が深まりモチベーションが向上

インターナルブランディングによって、企業が従業員に対して自社のビジョンや理念、価値観などを共有・浸透できれば、帰属意識を高められます。帰属意識が高まれば、モチベーションも向上し、その成果が業績にも現れやすくなります。

生産性の向上が期待できる

従業員一人ひとりがモチベーション高く仕事に取り組むことで生産性の向上が見込めます。インターナルブランディングによって、連帯感が強化され、従業員同士が互いにサポートするようになることで、生産性へのポジティブな効果が期待できます。

企業イメージが上がることで人材の採用や確保につながる

インターナルブランディングによって、従業員の企業への帰属意識が高まれば、従業員の定着率が向上します。また、インターナルブランディングは、エクスターナルブランディングとの相乗効果も見込めます。経営理念やビジョンなどに共感していれば、従業員は企業情報を積極的に発信します。これによって、企業イメージが向上することで、人材市場でも有利になり、優秀な人材が集まりやすくなる効果が見込まれます。

コンプライアンスへの意識向上

インターナルブランディングによって、従業員が自社への誇りと愛着を強く持つようになると、従業員は自社を守るため自然とにコンプライアンスを遵守して行動するようになります。

現代では、社会のコンプライアンスに対する目は厳しくなり、コンプライアンス違反は事業の根幹を揺るがす事態に発展しかねません。だからこそ、インターナルブランディングによる従業員の自社への誇りと愛着をベースにしたコンプライアンス遵守の意識付けがますます重要になってきています。

インターナルブランディングのデメリット

一方で、インターナルブランディングには注意すべきデメリットもあります。デメリットを理解したうえで、自社に合った取り組みを実施する必要があります。

効果が表れるまでに時間がかかる

インターナルブランディングは、取り組んですぐに効果が表れるものではありません。従業員に企業理念や価値観が浸透するまでに、相応の時間が必要です。そのため、中長期的な視点で計画的に施策を進めていく必要があります。

価値観の合わない社員が離職する可能性がある

インターナルブランディングは、企業の価値観とは合わない従業員の離職を招いてしまう可能性があります。人の主義主張や、キャリアに対する考え方は多様であり、これはある意味、致し方ないことだともいえます。採用の際に、自社に文化に合うかどうかを採用判断基準の一つとすることで、そうしたミスフィットを減らすことも可能でしょう。

企業の経営理念は、組織の目標や方向性を示す重要なものです。ただし、理念をあまりにも固定的なものとして見てしまうと、新しいアイディアや視点を排除してしまい、組織の成長を妨げることになりかねません。柔軟性を持って理念を捉え、コミュニケーションを通じて、多様な視点を取り入れることも重要です。

外部リソースを利用するとコストがかかる

インターナルブランディングのノウハウを持たない企業は専門の外部リソースを活用すべきですが、その場合、一定の先行投資が必要になります。外部視点を取り入れることで、独善的なインターナルブランディングの取り組みに陥ることを避けることができます。

インターナルブランディングの実施手順

実際にインターナルブランディングを実践するにあたってはどのような手順で行えばよいのでしょうか。

理念・ビジョンとブランドコンセプトの明確化

まずは、ブランドコンセプトの核となる理念とビジョンの明確化が必要です。既存の理念・ビジョンをただ流用するのではなく、会社の現状や、社会情勢、競合などを踏まえて再検討し、自社しか実現できないものにすることが重要です。次は、理念・ビジョンを踏まえたブランドコンセプトの策定ですが、これはエクスターナルブランディングと共有できるものが必要です。ブランドコンセプトは企業の活動や、提供する製品・サービスとしっくりとかみ合った実感を伴うものでなければなりません。

従業員への共有と浸透度の可視化

策定した理念・ビジョン・ブランドコンセプトは、後で詳しく述べますが、様々な方法を通じて従業員と共有します。次に、従業員のエンゲージメントを定量化するエンゲージメントサーベイなどによって、浸透度を可視化します。浸透度に基づいて施策を行うことで、効率的にインターナルブランディングを進めることができます。

各種社内制度の反映と社員への共有

インターナルブランディングは、以下の通り様々な社内制度に反映し社員と共有していきます。

  • 社内専用サイト/SNS
    社内専用サイトは経営者のメッセージや社会貢献活動の報告、顧客・消費者の声などを幅広く取り上げることができインターナルブランディングに有効です。社内SNSは場所を選ばず、双方向のコミュニケーションを図ることが可能で、社員の気づきを吸い上げられるメリットもあります。
  • 社内報
    社内報は、組織の現状共有から経営者・社員のトピックスまでを幅広く掲載することが可能です。社員全員に情報を届けることができること、定期的に発行することで記憶に残りやすくできることもメリットです。
  • クレド(ブランドコンセプトなどを記載した小さなカード)
    クレドはいつでも見返せることがメリットです。社員にコンプライアンスを意識づけるツールとしても有効です。
  • カルチャーブック
    カルチャーブックは、ブランドコンセプトの中核概念を伝えるストーリーを冊子にしたものです。カルチャーブックは社員の共感を醸成するだけでなく、採用活動にも有効です。
  • 日報
    日報に営業結果や作業進捗だけでなく、企業理念・行動指針にかかわるエピソードを書いてもらうことを習慣付けることで、上司は部下の理解度を知ることができます。
  • サンクスカード
    社員同士が感謝の気持ちを伝えるサンクスカードは、チームワークやモチベーションの向上につながるツールとして有効です。
  • 社員研修
    社員研修にインターナルブランディングの内容を組み込むことは必須です。

インターナルブランディングの継続

インターナルブランディングは、一度の働きかけですぐに浸透するものではありません。一人ひとりの従業員に深く浸透させるためには、継続して働きかけていくことが大切です。先程述べたように、定期的に浸透度を調査し必要に応じて内容と施策を変更していかなければなりません。

効果的なインターナルブランディング取り組み事例

インターナルブランディングを効果的に実践している事例を紹介します。

アクサ生命保険株式会社

効果的にインターナルブランディングを実施した事例として、保険会社のAXA(アクサ、この事例はイギリス)があります。同社は、経営陣と従業員の分断からくる社員のモチベーション低下に悩まされており、顧客にまでその影響が及ぶようになっていました。

この状況を打開するため、AXAは社員向けのイベントを開催しました。このイベントに先駆けて、全社員にバレンタイン・カードを配布、そこで自分が気に入っていることと会社に変わってほしいことを1つずつ挙げてもらいました。このヒアリングをもとにイベントを開催、そこで社員からの要望に対してのフィードバックを行ったのです。

この結果として、企業メッセージの理解度が20%増加、9割以上の社員が「会社は自分の意見を聞いてくれている」と感じ、8割以上がこのイベントが意義あるものだと回答しました。この結果は従業員ロイヤルティ(eNPS)が半年で20ポイントアップという形となってもあらわれました。

株式会社西武ホールディングス

西武グループは鉄道事業を始め、ホテル、レジャー事業、不動産事業など多様な事業を展開しています。経営革新と現場の風土改善の推進基軸として、企業グループのビジョンを制定、その方策のひとつとしてインターナルブランディングを導入しています。

具体的な活動は定点調査アンケート、オンライン上で組織の枠を超えた横断交流を実践する場「ほほえみFactory」、素晴らしい取り組みを表彰する「チームほほえみ賞・大賞」、役職に関係なく双方向のコミュニケーションを促すサポートツールの採用、webグループ報 「web-ism」の運営などです。

様々な全社的な取り組みを経て、企業と従業員、組織の枠を超えた従業員間のグループビジョンのディスカッションが活発化しています。その結果、グループビジョン推進の土壌となる職場全体の一体感を形成する大きな力となり、東証一部上場を果たす一因となる成果をあげています。

株式会社日立製作所

日立グループは世界約850社の企業で構成され、海外企業のM&Aも積極的に行われています。その中で、地域も事業内容も歴史も異なる会社が、グループ一丸となって力を発揮するためには、1つの価値観を共有することが大切であり、そのために確立されたのが、「日立グループ・アイデンティティ」であり、これをグループ全体に浸透させることがインターナルブランディングの重要な目的かつ、経営戦略の1つになっています。

日立では、「ブランド経営」という言葉がまだ世の中に浸透していなかった2003年から社員に向けて経営の中核にブランド戦略を据える重要性を知ってもらうため、日立グループ・アイデンティティを実践し、日立ブランドの価値を向上させたプロジェクトを表彰する目的で社長ブランド表彰がスタートしました。その後、世界中の全日立グループ従業員を対象にした「Global Award」として世界を6地域に分け、地域毎に募集・審査し、各地域の代表として6名のグランプリを表彰する現在のグローバルな表彰制度へと進化しています。

日立グループは、とくにインターナルコミュニケーションに力点を置き、価値のある企業ブランドを作り上げることに成功した事例だと言えるでしょう。

まとめ

インターナルブランディングは効果的に実践すれば、従業員のモチベーションや生産性の向上、優秀な人材の確保、エクスターナルブランディングとの相乗効果など多くのメリットが期待できます。インターナルブランディングは、全社的に長期間のスパンで取り組むべき活動であり、相応の投資と人的リソースを必要とする取り組みになります。しっかり計画を立てて、必要に応じて外部の専門家のリソースも活用して進めましょう。

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