企業における「ぼっちマーケター」問題を考える

デジタルマーケティング

こんにちは。イノーバ代表の宗像です。

今回は「ぼっちマーケター(ひとりぼっちのマーケティング担当者)」についてお話ししたいと思います。

日本には「ぼっちマーケター」がたくさんいます。ぼっちマーケターとは、一応マーケティングの部署はあるけれど、担当する人がひとりで、すべての活動を行っているような人です。

彼らの多くは、本来の業務範囲に対して充分なリソースがないために、日々膨大な業務を抱えに、作業をこなすことに一生懸命でなかなか市場を開拓するというようなことまでできません。結果、なかなか目に見える成果につながらず社内での評価も上がらない……。

今日はそんな「ぼっちマーケター問題」について、その解決策を探ります。

ぼっちマーケターの悲哀

「ぼっちマーケター問題」の根底にあるのは、組織内メンバー(とくにマネジメント層)のマーケティングに対する無理解(あるいは無関心)です。とくにウェブやIT関連以外の業種においては、WEBやデジタル、マーケティングに関する知識と理解がある人が少ない企業がまだまだ多いのが現状です。社長が「自分はよくわからないし、あいつはパソコンが得意みたいだからやらせとけ」、「WEBサイトに詳しいからまかせとこう」と、投げっぱなしにしてしまうケースもあります。

マーケターとしてのバックグラウンドがある優秀な人材でも、このようなマーケティング基盤のない中小企業や、そもそもどの部署も人手不足状態のベンチャー企業に足を踏み入れ、ぼっちマーケターになったとたんに機能しなくなってしまうことがあります。その理由は、十分なリソースがないことや、社内のマーケティングへの理解が低く投資ができない、マーケティング活動を行う環境が整っていないためです。

追い込まれるぼっちマーケターたち

ぼっちマーケターの業務は、会社によってケース・バイ・ケースだと思います。ただ、ひどい場合には、WEBサイトの管理に広告運用、SEOも考えながらリアルの展示会への出展準備をしつつ、配布用のチラシのデザインを片手に広報用のプレスリリースを書いている……なんていうこともあります。(初期のイノーバもそうでした)

それぞれをマジメにやろうとすると、相当な時間とお金がかかりますし、そもそも一人でまわせるような業務量ではない。そうは言っても、やらなければならない状況にある。必然的に、ぼっちマーケターはつねに忙しい状況に置かれることになります。

イノーバでも、僕がマーケティング部にものすごいプレッシャーをかけています。そうなると、「やばい! また社長が言ってる」となる。「わかっているんです。やろうと思っています」と反論したとしても、「オレが欲しいのは数字なんだ」となってしまう。

また、マーケティングはオンラインだけに絞ってもWEBサイトの構築からSEOや広告に至るまで、領域が細分化されていますし、広告一つ取ってもそれ自体もたくさんの種類があります。リスティングなり、ディスプレイなり、リターゲティングなり。最近であればネイティブ広告やFacebook広告、Twitter広告なんてものも。そうやってひとつひとつをマジメにやっていると大変です。知識のアップデートもしなければならないし、日々、専門性を磨く必要もあります。ある程度、深入りしなければならない状況があるのです。

失われる「全体最適」という本質

結果、陥ってしまうのが、全体最適できなくなってしまう状況。要するに、「何をもっともがんばらなければならないのか」や、「今、会社のなかでもっとも大きな課題はなんなのか」といった、そもそも論の話ができなくなってしまうのです。

原因は、専門性の高い作業を少人数でたくさん抱えてしまっているため。

「戦略とエグゼキューション」という言葉があるように、作戦を立てる人とそれを実行する人というのは、本来、分かれているべきです。

別々であればこそ、分業ができます。しかし、ひとりで行っていると、戦略を考えながらエグゼキューションしなければならないので、完全に手が回らなくなってしまいます。

それでは、全体最適にまで気が回らないのも仕方がありません。

ぼっちマーケターは多大なストレス下に置かれている

そもそもマーケティングは、高い戦略性が問われるものです。そして実行もしなければならない。まさに、ぼっちマーケターは、三重苦のような状況に置かれています。そのため、取捨選択が難しくなっている。

海外みたいに、マーケティング部が確立されていて、そこに権限と予算があずけられていればいいのですが、そうではない。WEBサイトをどうするか、あるいは広告をどうするか。そういったことを、いちいち確認しなければならないとなれば、やはり大変です。

主な原因は日本のマーケティングが“施策ベース”で語られていること

そもそも、なぜ日本の企業にはマーケティング部がないのでしょうか。

背景としては、歴史的な部分も大きく影響しています。そもそもアメリカは国が広いので、マーケティングが自然と発達しました。国土が広くて消費者も多数企業も多種多様です。そもそも人種も宗教も違う。そうなると当然、取捨選択しなければなりません。「誰に売って、誰に売らないか」を明確に定義した上で、それに沿った戦略を立てる必要がある。

それが日本だと、国も狭く、東京圏内であれば電車に乗れば会いに行けますよね。さらに、単一民族国家で教育水準も高い日本は、消費者の質が均質です。マーケティング戦略うんぬんの前に「お客さんに売りに行け」となってしまいます。そういった事情もあり、これまではマーケティングが重要とされてきませんでした。きちんとマーケティング戦略を立てなくても、広告でたくさんの人にアプローチさえすれば、なんとかなっていたのです。

だから、日本企業のマーケティングには一貫性が乏しい。多くの人に情報を届けられそうな新しい広告手法や技術が登場すれば、それに飛びつき、期待した効果が出なければ「テストマーケティング」なんて都合の良い言い訳をして、やめてしまう。

BtoB企業なら一度は出展したことがあるであろう展示会ひとつ取ってもそうです。

マーケティングに求められるのは「何枚の名刺を獲得したか」だけれど、そもそもその展示会にやってきている来場者が本当にリーチしたい潜在顧客なのか。交換した名刺から一体どれだけの商談につながり、成約し、優良顧客になったのか。そういった全体像も最終的な責任の所在も曖昧なまま、現場のぼっちマーケターは当日の運営に奔走し、疲弊する。

戦略の不在が、ぼっちマーケターをさらなる苦境に追い込んでいるのです。

しかし今、物が売れにくい時代になり、経営においてのマーケティングの重要性が再評価されています。いまこそ、ぼっちマーケターが奮起して「ちゃんとしたマーケティング」に踏み出す時です。

マーケティングのROI(投資対効果)を見える化する

では、ぼっちマーケターはどうすればいいか。

まずやるべきことは、マーケティングにおける「ROIの見える化」です。

経営者は、毎月の売上と、それにともなうアクションが紐付いていないと、「なんか忙しそうにしているけど、本当に大事なことをしているのかな?」と思ってしまいます。

しかし、数字ベースで説明すれば、経営者への説得力は高まるのです。

たとえば、売上の手前に商談の件数があり、その手前にリード数(見込み顧客数)があって、というように。また、レポートが数字ベースで用意されていて、みんながそれを見ていれば、共通言語にもなります。

結果として、経営者に対して要求がしやすくなるのです。「ここが改善されれば、もっと売上があがりますよ。でも、そのためには人が要ります。投資が必要です。」というように。ROIの見える化によって、マーケター自身が仕事をしやすくなります。

つまり、ぼっちマーケターのジレンマを解決するには、数字で自分たちの活動と、売上へのインパクトを見える化し、新しい予算や新しい人員を要求するための根拠を、しっかりと作っていくことが大事なのです。

このときに重要なのは、従来のように「施策ベースで」数字を出しても経営者に対しては説得力に乏しい、という点です。

たとえば「100万円かけて展示会に出展したところ、100枚の名刺を獲得したので獲得単価は1万円でした」というのでは不十分です。

その100件の見込み顧客から、いったい何件の商談が生まれ、何件の成約に至り、どれだけ売上に貢献したのか。その展示会から獲得した顧客のリピート率はどうだったのか。

施策一つひとつの効果だけでなく、さまざまなマーケティング施策を組み合わせたマーケティングプロセス全体のROIと、各施策の貢献度を可視化することで、強化すべきポイントがわかるようになり、投資に対する意思決定もしやすくなります。

レポーティングのためのレポーティングに陥るな

「数字で語る」ことは重要ですが、実はここにもぼっちマーケターにとって大きな落とし穴が潜んでいます。

数字でのレポーティングは、仕組み化されていないと非常に手間と時間がかかるのです。

マーケターが追うべきKPI(重要業績評価指標)は非常に多岐にわたります。WEBサイトひとつ取っても、アクセス数(PVやUU)、流入経路や検索キーワード、資料ダウンロード数やお問い合わせ数などがあり、これはWEBサイト上のコンテンツが増えれば増えるほど増加していきます。

さらに、これらのKPI単体では「売上にどう貢献したか」までは見えません。マーケティング〜営業のプロセス全体を串刺しにして初めて売上への貢献度が可視化できるのです。

そしてこれらは月次、週次、日次と、精緻に数字を出そうと思えば思うほど、終わりなき「レポーティング地獄」に飲み込まれ、本来レポートすべき結果を導くためのアクションに割く時間がなくなるという、冗談のような本末転倒がおきかねません。

ぼっちマーケターは怠け者であれ

レポーティングに限った話ではありませんが、そもそも業務過多で多忙なぼっちマーケターは常に自らの業務のうち「仕組み化・外部化できることはないか」「自動化できる部分はないか」を追求することが重要です。

ぼっちマーケターの時間は貴重なのです。「自分じゃなくてもできる」ことをどんどん外に切り出していく、良い意味での怠け心も大切と言えます。

マーケティングオートメーションはぼっちマーケターを救うのか

その意味では、近年国内でも話題の「マーケティングオートメーション(MA)」は、ぼっちマーケターにとって救世主になり得る可能性を秘めています。

レポーティング機能が搭載されているマーケティングオートメーションツールを活用すれば、数字が見える化でき、業務が大幅に効率化されると期待しているぼっちマーケターも多いでしょう。

しかし、ここでも日本企業の悪癖が顔をだします。

明確な目的や戦略なしに導入したり、そもそも管理すべき数字やデータが取れたりしない状況のなか勢いでマーケティングオートメーションツールを導入しても、残るのは誰も使わないシステムと疲弊したぼっちマーケターが一人……ということになりかねません。

また、多くのマーケターにとってマーケティングオートメーションツールの導入は、業務がラクになるどころか「逆に業務が増える」結果につながることになります。

マーケティングオートメーションは、ぼっちマーケターを助けてくれる強力な助っ人にはなり得ますが、魔法の道具ではありません。

では、マーケティングオートメーションの導入前にどんな準備をしたらいいのか、導入するとぼっちマーケターの業務はどう変わるのか。

次回はそのあたりについてお話したいと思います。