【ad:tech NewYork体験インタビュー前編】「ブランド価値を高めよ」〜“リアルタイムマーケティング”を実現するための3つのポイント

デジタルマーケティング

皆さんこんにちは。イノーバの亀山です。

イノーバブログの読者の方々であれば、“ad:tech (アドテック)”というイベントをご存じの方も多いのではないでしょうか。

ニューヨークやロンドン、オーストラリアなど世界各国で開かれており、国内でも東京をはじめ、近年では関西や九州でも開催されている、マーケティング×テクノロジー×メディア業界のカンファレンスイベントです。

このad:tech、日本ではネット広告代理店やマーケティングソリューションベンダー等が多数出展し、わりと広告業界色の強いイベントと捉えられているように思います(イベント名のad:tech=アド×テクノロジーという印象)。

しかし、マーケティング先進国アメリカで開催された今年のad:tech NewYorkは東京のものとはかなり様相が違ったとのこと。2015年11月に米国ニューヨークで開催されたad:tech NewYorkを視察した株式会社ハイブリッドマーケティングの山田将司氏を迎え、イベントや講演内容から見える米国のマーケティングのいまを伺いました。

90分におよんだインタビューを前後編にわけてお伝えします。

前編となる今回は「Real Time Marketing(リアルタイムマーケティング)」とそれを実現するためのポイントについて。

今年のad:tech NewYorkのメインテーマは?

イノーバ亀山(以下、亀山) はじめに、今年のad:tech NewYorkを通して訴えられていたコンセプトというか、メインテーマみたいなものからお伺いできますか?

ハイブリッドマーケティング山田(以下、山田) 今年のad:tech NewYorkで話されたことを集約すると、結局「ブランド価値を高めなさい」という話なのかなと思います。

たとえば、消臭剤だったらその匂いを消すって言う基本機能とか、それが小さいとか、置きやすいとかのメリットという部分は、結構広告では打ち出しやすいし、打ち出しているけれども、それはあくまでもすでに買おうとしているとか、興味がある人を刈り取ろうとしているフェーズ。本当はもう少し感覚的で概念的なもの。例えば会社としての安心感だったり先進性だったり「あそこは結構とがったモノつくるよね」っていう企業イメージだったり。

亀山 それがここでいうところの「ブランド価値」。

山田 そうです。で、そのブランド価値を高めるために何をしていけばいいのか、というのが各セッションで語られていました。ただ、これは僕たちアドテクノロジー側にいる人間にとっては、結構寂しい気持ちなんですが、いわゆる“アド”の話も“テック”の話も全然出てこなかったんですよね。あるセッションでは「Ads are DEAD! (広告は死んだ!)」なんて言われていたりして。

そんな中で、ほとんどのカンファレンスで共通してよく出ていたのが「Real Time Marketing(リアルタイムマーケティング)」という言葉でした。

Real Time Marketingに対応せよ

亀山 リアルタイムマーケティングですか。これも、いわゆる広告の“リアルタイムビディング(RTB=広告のインプレッションが発生するたびに広告枠の競争入札を行い、配信する広告を決定するオンライン広告の入札の仕組み)”の話とかってわけじゃないんですよね?

山田 はい。そういう個別の技術や手法の話ではないです。消費者が皆スマートフォンだったりソーシャルメディアだったりを当たり前に使うようになったなかで、どうやって消費者とリアルタイムなコミュニケーションをはかるか、というところがすごく重要視されているように感じました。

亀山 ツールだったり媒体だったりという各論ではなく、売り手と買い手のマーケティングコミュニケーション全体をどうリアルタイム化していくか、ということですね。

山田 リアルタイムマーケティングを実現するために対応すべきこととしては、大きく3つのポイントに集約できるかなと思います。。一つ目が「そもそも自社が”ブランド価値だ”と思っていることが買い手にとって本当に価値なのかを見直す」こと。二つ目が「刻一刻と変化する状況を予測し、フォローする準備があるか?」という点。そして三つ目が「ブランドを毀損する脅威に備えているか? 」という観点です。

ダンキンドーナツは実はドーナツ屋ではなかった

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DUNKIN' DONUTS

山田 まず一つ目の「そもそも自社が”ブランド価値だ”と思っていることが買い手にとって本当に価値なのかを見直す」ことって、ブランド価値を高める上で「思い込みを捨てろ!」という話なんです。事例としてダンキンドーナツの社長が講演していたんですが、ダンキンドーナツって実はもう60年以上やってる老舗のドーナツ屋なんですよ。当然、ドーナツが主力商品だしブランド価値だと思うじゃないですか?

でも、そのドーナツ屋がブランド価値を見直してみたら、実はドーナツじゃなくて、コーヒーが売れていることが分かった。「ダンキンのコーヒーはうまい」というイメージ、評価があることが分かったんですね。

亀山 なるほど、ダンキンって実はコーヒー屋さんだったのか(笑)

山田 そう(笑)。カスタマーの中では、そういうイメージができてたんですね。そこで、「コーヒーのダンキンドーナツ」を全世界の店舗イメージのコンセプトに据えてマーケティングを実行したと。そうしたら、2007年に顧客満足度の調査でスターバックスを抜いているんですよね。結構、明確に「コーヒーのダンキン」というのを打ち出していったようです。また、その頃スタバはどうやらサンドウィッチとかテイクアウトメニューとか、店内の顧客体験とは違うことを打ち出していたこともあって、結果的にダンキンが勝ちゃったという背景もあったようですが。

亀山 僕も大学時代にニューヨークに住んでいた時、近所にダンキンドーナツがありましたが、そもそもスターバックスとは明らかにコンセプトもターゲットも違いますよね?

山田 ダンキンのターゲットは完全に「庶民」ですよと。スターバックスでくつろいでコーヒー飲んでるような上流階層は全然相手にしないと(笑)。で、その差別化のためにはストーリーがとても大事という話をしていて、ストーリーに人が集まるんですよ、という話をしていたのが印象的でした。

亀山 ダンキンはどうやってその「思いこみ」を捨てられたんでしょう?

山田 講演の中では、ビックデータやテクノロジーよりもまず現実を見なさいというお話をしていました。失敗してもいいから、思い込みを捨て、消費者と向き合いなさい。ブランドの提供する価値は何か、その価値は機能しているのか、していない部分は何なのかということを徹底的に考えなさいというお話でしたね。

亀山 たしかに、POSデータとか売上高だけ見ていても「ダンキンに来てるお客は実はドーナツと一緒に買ってるコーヒーの方を目当てに来店してる」なんてことはわからないでしょうしね。

思いこみを捨てるための「リーン」

山田 ダンキンの事例でもう一つ、「サービスは顧客情報をもとに生み出す必要がある」という話があって。半分彼らの失敗事例みたいに取り上げられていたんですが、スマホの普及にあわせてダンキンもアプリを出したらしいんですね。それで割引クーポンとかを積極的に配信していたのだけど、実際のユーザーを見てみるとどうやらそもそも「ダンキンの店はどこにあるのか」を探していることがわかったと。それで地図機能を付けたらしいんですが。

亀山 クーポンがあれば便利でしょ、うれしいでしょ、という思い込みだけじゃなく、ユーザーを観察しないと本当に欲しいと思っているものはわからないよね、という話ですね。

山田 はい。それで、この文脈で出てきてたのが「リーン」という言葉ですね。

亀山 ソフトウェア開発やベンチャーのマネジメントで語られる、あの「リーン」ですか。「リーンスタートアップ」とかの。

山田 そうです。講演では”思い込みを捨てる”というのと同じようなニュアンスで使われていました。消費者にとって本当に価値あるものを提供できているかということは、簡単には分からないんだ、と。なので、いま自分たちが出しているものはプロトタイプやベータだと思って常に改善し続けなさい、いうことは言われていましたね。これはリアルタイムマーケティングを志向する上ですごく大事なことのひとつでしょうね。

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リアルタイムだからこそ重要なのが「準備」

亀山 リアルタイムマーケティングを実現するための二つ目の問いにいきましょうか。「刻一刻と変化する状況を予測し、フォローする準備があるか?」という観点ですね。

山田 はい。これ、刻一刻と変わる状況に、変わるたびに対応するだけじゃダメですよ、ということなんです。

亀山 変化を事前に予測して、対応するための準備が必要ですよ、と。

山田 そう。「準備」という言葉はどのセッションでもでてきましたね。あるセッションで例として挙げられていたのがわかりやすくて。例えば好きな人がいるのに、なんの戦略も持たずアプローチをする人はいないよねと。口説き落とすのに必要なものは何だと考えたときに、まずどうやって情報を集めるか。集めた情報をもとにどうするのか。

亀山 相手の反応はわからなくても、いろんなケースにすぐに対応するための準備は必要ですもんね。

山田 状況の変化を予測して、フォローも含めて準備しなさいよ、と。マーケティングの例としては、ダックテープ社がやった事例が紹介されていました。ラグビーの試合で、試合の流れによって映す動画の内容を変えて、それをVineを使って拡散するキャンペーンで。

亀山 試合の展開によって、動画がかわると。いまどっちが勝ってるとか?

山田 そうです。いまこっちのチームはこう、みたいなことがダックテープのコミカルな動きでスタジアムのスクリーンにも映し出されて、同時にVineにも動画があがる。最終的には、勝った方のチームを讃える映像が流れる。これが結構シェアされたらしいです。

亀山 なるほど。それならある程度テンプレート化したものでパターン作っておけば試合展開に応じてリアルタイムに対応できそうですね。

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参考:Duck Tape Re-Enacts College Football Game In Real-Time On Vine

亀山 ”リアルタイムマーケティング”というのは場当たり的なことを言っているのではなくて、ユーザーの反応だとか、消費者がどういうレスポンスをしたかというデータをキチンと取れる状況をつくった上で、それに対応していくつもパターンを準備しておいて、細かくチューニングしていくということですね。

山田 そうそう。あらかじめ想定しておいてくださいと。さきほどの好きな彼女にアプローチする話が分かりやすいんですが、刻々と変わる状況の中で、結局はあらかじめ立てたプランだけですべてうまくいくことはあり得ないと。でも、なんとかしようとするする。なんとかしようと思うときも、事前にこうなったらこうしようと考えている人間と、場当たり的に対応している人間のどちらがうまくいくかというと、当初のプラン通りにはいかなかったとしてもやっぱり準備していた人の方が対応力があるんですよね。

亀山 アドリブだけの人間より、ちゃんと考えた上でその場の状況にあわせたアドリブができる人間の方が強いと。

山田 まさに。そのあたり、手段としてアメリカでは動画がすごく増えているという状況の違いはあるんですが、事前の準備というのは、どこの国でも同じかなと思いますね。

亀山 あ、動画の話でましたね。その話、ちょっとまた後半で改めて聞かせてください。

テクノロジーはリスクでもある。ブランドを毀損し得る脅威に備えよ

亀山 リアルタイムマーケティングに対応するためのポイントの3つ目。「ブランドを毀損する脅威に備える 」についてお伺いできますか?

山田 「脅威に備える」というのは、キーノートで出ていた話です。テクノロジーというのはリスクでもあって、セキュリティとかブランド毀損を考えていく必要があると。例えば、ブランドをどう守るかという話の事例として、COACH(米国の高級皮革製品メーカー)が取り上げられていました。COACHのバックというのは、偽サイトの方が品揃えが多いらしいですね。

亀山 偽サイトの方が、ということは、オリジナル(本物)が存在しない、つまりコピーではない偽物があるってことですよね?

山田 そういうことだと思います。偽ブランドの方が品揃えが多いし、これは偽COACHに限らず、いわゆる不法サイトの方が集客や買わせることについてものすごくいろいろ工夫していて、うまくマーケティングができている。逆にブランド側は、そこまで工夫していない。ブランドを守るためにしっかりマーケティングしないと、いつの間にか不法サイトの方が売れてるという話になりかねないよね、ということでした。

二つ目の事例としては、ネット上のコンテンツの著作権の話でしたね。アーティストの動画や著作物がどんどん動画共有サイトにアップされてしまう世の中になっているよねと。「世紀の一戦」と呼ばれたボクシングの試合が5月にあって、これが違法にライブ配信された。テレビ局はすごい高いお金かけて放映権買っているのに、ネットで全然見れるじゃん、ということで問題になった話です。

亀山 このあたり、アメリカだとどうなんですか?規制の方向?

山田 現状、やりたい放題されちゃってて答えは出てないみたいです。結局、著作物を完全に守るのはもう無理。いろいろ規制をかけてもイタチごっごです。なので、どこまでが許容範囲で、どこまでを守るのかということをまず決めなければいけないし。何をされたら問題なのかということを一旦すべてテーブルの上に出さないと対策の打ちようがないという状況なんですね。

亀山 でもその一方で、そういった一般ユーザーによる情報発信とかソーシャルでのバイラルとかをマーケティングに活かそう、って動きもありますよね。ゲリラマーケティングとかCGM(Consumer Generated Media:消費者生成メディア)的な話ですが。

山田 そこは、アメリカのほうが思い切ったアプローチができるんだと思います。アメリカって法律で書いていないことは基本的になにやってもOKなんですよね。問題になってからルールが出来上がっていく文化であるということでして。日本では、逆に法律に書かれていないことは基本的にやっちゃダメよと。

亀山 法解釈の土壌が違うんですね。音楽業界とかって、まさにそれなんじゃないかな。業界の人に聞いた話なんですけど、日本の音楽業界、日本のアーティストが、一生懸命クールジャパンとか言って海外へ出していこうとしても、いまいちうまくバイラルしない。一方で、韓国は国内市場が小さいので国外に出て行かざるを得なくて、国が一生懸命バックアップして、韓国の音楽とかダンスとかってどんどん出していった。韓流ブームの一大プロモーション。

その時に、彼らは一般ユーザーやファンがYouTubeとかにライブ映像や写真を上げるのをOKにしたんですよね。日本のほとんどのアーティストが、未だにライブで写真や動画を撮るのってNGじゃないですか。あれが全部OK。なので、ライブに参加した人たちがどんどん動画をアップして、ハッシュタグをつけて。それを見た人たちがシェアして。

そういう形で韓国はうまく国外に広めていったって聞きましたね。 そういう意味では、テクノロジーによる「脅威」をうまくプラスに転じさせるというか、取り込んじゃうって発想はありなんでしょうね。

山田 たしかに、向こうのコンサートの様子を見ていると、普通にiPhoneで撮っていて。あのあたりも含めて全然状況が違うというのもありますが、アメリカでも日本でも、現状をそのままを守り続けるというのは無理だと思うんですよね。どんどん変わっていく。脅威だから、リスクだから手を出さないっていうことじゃなくて、脅威をどうコントロール下に取り込んでいくか、活かしていくかという意味での「備え」は必要なんだと思います。

後編へ続く……


まとめ

いかかでしたか?

Webやモバイルで売り手と買い手の接点が増え、双方向化とリアルタイム化が進む中で、企業が考えるべきは「ブランド価値の向上」である。

そのために重要なポイントとして

  1. 思いこみを捨て、買い手にとっての「本当の価値」はなにかを見直す
  2. 刻一刻と変化する状況を予測し、フォローするための「準備」をする
  3. ブランドを毀損する「脅威」に備える

の3つをおさえる必要がある、というのがここまでの内容でした。個人的にad:techは広告やメディア、デジタルマーケティング系の色が強い印象がありましたが、”アド”や”テック”という各論の話ではなく、マーケティング全体の極めて経営に近い話が各セッションで話されていたというのが印象的でした。

後半となる次回は

  • ad:tech NewYorkでメインテーマとなっていた「ブランド」の日米における違いについて
  • アメリカのマーケティングが日本よりも「進んでいる」のはなぜか
  • 「進んでいる」アメリカにおいて、いまマーケティング上もっとも重要視されていることはなにか
  • 近年トレンドとなっている「動画」について

などなど……ボリュームたっぷりにお届けします。お楽しみに!

[2015/12/24更新]

後編はコチラ⇒【ad:tech NewYork体験インタビュー後編】日本人マーケターよ!英語を学び、外へ出よ!


インタビュイープロフィール

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山田 将司(株式会社ハイブリッドマーケティング取締役)

大学卒業後、OA機器販売会社で複合機の新規開拓営業に従事。入社3年目に営業成績日本一となる。世の中に影響を与える無形の自社商品を販売することで、商品説明能力を高めたいと考え株式会社ロックオンに入社。広告効果測定・リスティング広告自動入札システムの代理店営業を担当。東日本大震をきっかけに、地域や企業の再生・発展に「ガッツリ」関わりたいと考えるようになり、2012年4月、株式会社ハイブリッドマーケティングに参画し、取締役に就任する。現在は、多くの中小企業や公共団体のWebマーケティング支援を精力的に行ないながら、大学院で経営学を学んでいる。