顧客に媚びないビジネスを作る

経営・ビジネスハック

前回のブログ記事「社長が居ないと回らない会社はダメ会社」で、プロダクト型のビジネスという考え方を紹介した。そして、その成功例としてロゴワークスというアメリカの会社をご紹介した。今回は、もう1社、プロダクト型ビジネスの成功例を紹介しよう。37シグナルズという会社だ。

(注:前回の記事を読んでない人は、先に前回の記事を読んで欲しい。間違いなく面白い記事だ。そして、今回の記事は、前回の記事を読んでおかないと内容が分からないだろう)

37シグナルズとは?

37シグナルズは、Ruby on Railsという開発言語のフレームワークを作った会社であり、ベースキャンプと呼ばれるプロジェクト管理ツールを開発し販売している会社である。

独自の経営哲学、開発思想を持っており、Signal vs. Noiseという彼らのブログは、世界中で数十万人の人が購読している。「小さなチーム、大きな仕事-37シグナルズ成功の法則」という書籍がでているので、知っている人も多いのではないだろうか?

今や、世界的に有名な37シグナルズだが、彼らは、最初からソフトウェア開発を行って成功していた訳ではない。もともとは、ウェブのコンサルティングを行っていたのだ。そして、ある時からコンサルティングをやめて、ソフトウェア販売に特化した。

なぜ、彼らは、ビジネスモデルを変更したのだろうか?

創業者の一人、ジェイソン・フリードがインタビューの中でこの疑問に答えてくれている

ウェブコンサルティングからスタート

37シグナルズは、もともとシカゴで設立された。設立当初のメンバーは、ジェイソン・フリードを含む3人である。ビジネスは、ウェブのコンサルティングと、ウェブ制作を主体としていた。当時ビジネスは順調で、ジェイソンは十分な収入をあげる事が出来ていた。

しかし、金銭的な満足度とは反対に、ウェブコンサルティングの仕事にはうんざりしていたという。

「数ヶ月かけて制作したウェブサイトをクライアントに納品しても、必ず変更が発生するんだ。そして、時には、クライアントの社内政治に巻き込まれる事だってある。プロジェクトベースのサービスビジネスには本当にイヤだった。せっかく作ったウェブサイトがお蔵入りになる事が何度もあったんだ。」

想像してみてほしい。もしも、あなたがウェブコンサルティングの仕事をしたらどうだろうか?わがままな客の要求に振り回されれば、ジェイソン・フリードと同じように、うんざりするのではないだろうか?彼の気持ちも十分理解できると思う。

ソフトウェアを開発したきっかけ

その後も、37シグナルズは順調にビジネスを拡大した。そして、どんどん大きいプロジェクトを引き受けるようになっていった。しかし、案件が大きくなるにつれ、プロジェクト管理が複雑となってきた。そのため、自分たちが使用するプロジェクトマネジメントツールを作った。これが今日のベースキャンプである。ただし、当初は社内用のツールに過ぎなかった。

しかし、予想外の事が起きた。ベースキャンプの事をクライアントに紹介すると、多くの顧客が買いたい、使わせて欲しいというリクエストをしてきた。彼らは、長年使いやすいプロジェクト管理ツールを探していたと言うのだ。市場にあるプロジェクト管理ツールは複雑すぎて、多くの顧客のニーズを満たす事が出来ていなかったからだ。

ビジネスモデルの転換

そして、自社向けのツールとして開発したベースキャンプが社外に販売できる事を知った彼らは、自社の顧客にベースキャンプを紹介したり、自社のブログを通じて製品の販売を行った。

ベースキャンプは、毎月一定額の利用料を支払う月額課金モデルで提供された。月額課金の良いところは、大勢の顧客から毎月一定の収入が入るため、収益が安定する事、そして、将来の予測が立てやすい事だ。

ビジネスモデルをシフト

ベースキャンプの利用者数が増加し、1年後には、ベースキャンプの利益が、本業のウェブコンサルティングを上回るようになった。そして、彼らは思いきってウェブコンサルティングを止め、ビジネスモデルをプロダクト型にシフトさせる事を決意した。ウェブコンサルティングの仕事は、お金にはなるものの、手間がかかりすぎて、満足度が低かったからである。

サービス型からプロダクト型にビジネスモデルを変更し、社員の満足度は上がった。ジェイソンは、次のように話しをしている。

「仕事のためにクライアントにぺこぺこする必要がなく、運命を自分でコントロールできるのは嬉しいよね。」

ベースキャンプをヒットさせたにもかかわらず、彼らは、ベンチャーキャピタルから無理な資金調達をしたり、上場を目指すような事はしなかった。経営の自由度を奪われるのが嫌だったからだ。

彼らは、無理な企業規模の拡大を行わず、シンプルで使いやすいプロダクトを作るソフトウェアの会社として存続する事を決意した。社員の満足度を重視し、小さくても尖った会社である事を選択したのだ。そして、そのような彼らの経営哲学は、ブログや著書を通じて紹介された。彼らの規模を追求しない経営方針は、世界中の人が支持し、経営のお手本とするようになった。

まとめ

どうだろう?参考になっただろうか?

私が得た最大の教訓は、「客に媚びてはいけない」という事だ。

そもそも全ての顧客を満足させる事はできない。そして、顧客の言うことを聞いていたら、37シグナルズのように、コンサルティングのビジネスを捨てて、プロダクト型のビジネスに転向する事は出来ないだろう。

また、日本には「お客様は神様」という考え方があって、我々は、顧客のいう事は正しい、全ての顧客を満足させないと、思い混んでいる。しかし、これは行き過ぎた顧客至上主義だ。

例えば、iPhoneを考えてみて欲しい。ワンセグも付いていないし、電子マネーも付いていない。でも、iPhoneを使っている人の満足度は極めて高い。スティーブ・ジョブズは、全ての人を満足させる必要がない事を理解しているのだ。

どうだろう?
あなたは、無意識に全ての顧客を満足させようと努力していないだろうか?
一部の客の要求を断り、やるべき事を絞りこむ事で、もっとビジネスが成功する可能性があるのではないだろうか?


写真のクレジット:SmithGreg

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