ネイティブ広告の真髄はキャデラックに学べ!GM「キャデラック」の売らない広告がヒットした訳

コンテンツマーケティング

広告の形をとらずに商品やサービスを宣伝する「ネイティブ広告」が、2014年ごろから広告市場において注目を浴びるようになりました。(ネイティブ広告の詳細に関しては、こちらの記事をご覧ください。)

しかし、実際のところ、ネイティブ広告は現在に始まった新しい広告の形ではなく、1世紀以上も前から存在していたことをご存知でしょうか。しかも、その影響力が現代に語り継がれるほどの大反響を呼んだ広告もあるのです。

今回は、ネイティブ広告の神髄がわかる歴史的な事例として、自動車メーカーのゼネラルモーターズが展開した高級車ブランド「キャデラック」の広告をご紹介します。

大衆車のT型フォード、高級車のキャデラック

現在、アメリカにおいて自動車メーカーのビッグ3と言えば、ゼネラルモーターズ、フォードモーター、クライスラーの3社です。しかし、20世紀初頭、アメリカ国内にはいくつもの小さな自動車メーカーがしのぎを削って技術開発に取り組んでいました。

1908年にT型フォードの大量生産により大衆車の製造販売で成功を収めたフォードとは対照的に、ゼネラルモーターズは次々と既存の自動車メーカーを買収し、キャデラックを筆頭とする高級車をラインアップに持つ自動車メーカーとして、20世紀初頭に頭角を現しました。

自動車メーカー黎明期の技術競争

黎明(れいめい)期の自動車メーカーが我先にと競っていたのが、小型でもパワーを発揮し、なおかつ静粛性のあるエンジンの開発です。

1910年ごろ、直列6気筒が高級車に搭載するエンジンとして主流になる一方、4気筒エンジン車のキャデラックは競合他社のエンジン技術に遅れをとっていました。しかし、不断の研究開発が実を結び、1914年に他社に先駆け世界初のV型8気筒エンジンを開発することに成功しました。

さて、いざ新技術を世に出すという段階になり、キャデラックは考えました。

「我々は他社の6気筒に対抗して8気筒のエンジンを開発したが、技術は刻々と進化する。高級車ブランドとして競合するパッカードモーターをはじめとして、ライバル社がさらに多気筒のエンジンで対抗してくるに違いない。だからこそ我々が頂点に立ったこの瞬間に、他社とは異なる切り口で人々の心をつかむことが重要だ」

こうしてキャデラックはコピーライターの先人セオドア・マクマナスを起用し、歴史に残る広告を打つに至ります。

商品を宣伝しない広告

こちらが1915年1月2日のサタデーイブニングポスト紙に掲載された、キャデラックの新聞広告です。

1915-Cadillac-Ad.jpg引用元:Retro Ad of the Week: Cadillac (1915), The Penalty of Leadership

ご覧の通り、文字がずらりと並んでいるだけの白黒の記事広告。自動車メーカーの広告と言えば、カラフルな絵や写真でクルマのデザインや技術を訴求する宣伝が流行っていた当時からすると、この広告は一見すると見過ごされてしまいそうなほどに地味に見えます。

しかし、これはあくまでも新聞の紙面内における1ページです。「Penalty of Leadership(リーダーの代償)」というキャッチコピーがほかの記事と並び、読者層の興味を引きます。

キャッチコピーの後には、新商品の宣伝や新技術の説明は一切ありません。しかし、「人類の営みにおいて頂点にいる人は、絶えず注目の光の中で生きなければなりません」「芸術、文学、音楽、そしてビジネスにおいても、褒美と罰は常にともにあります」などと読者を啓蒙する文章は、高級車ブランドとして頂点に立つキャデラックが持つ思想そのものを表し、結果的にキャデラックのブランドイメージ構築を図っています。

潜在的な心理を刺激したキャデラック

この新聞広告が掲載された1915年といえば、第一次世界大戦が始まった翌年です。アメリカで本格的に経済が発展するのは第一次世界大戦が終結した後の1920年代ですが、大戦景気に沸く当時のビジネスマンたちが「世界の頂点に立ちたい」「リーダーにふさわしいキャデラックのV8気筒エンジン車に乗りたい」という衝動を持っていたことは、その後のキャデラックの販売実績が証明しています。

こうして当初の目論見通り、キャデラックは高級車の最高峰として瞬く間に世に知れ渡り、歴代のアメリカ大統領やベーブ・ルースなどのスポーツ選手、アル・カポネといったマフィアなど数多くのファンから愛用されました。

さらに、現代人にも通じる価値観を繰り広げる1915年のキャデラックの広告は、その後も人々の心に残る広告として語られ続け、1945年には「広告市場で最も優れた広告」として表彰されました。また、かのエルビス・プレスリーがこの広告を座右の銘にしていたという逸話も残っています。

ネイティブ広告の真髄はキャデラックに学べ

さて、冒頭に述べた通り、キャデラックの広告から100年以上経った現在、広告の形をとらないWeb広告が「ネイティブ広告」という名前でもてはやされています。

ネイティブ広告には賛否両論があり、「自然な形で消費者の潜在的ニーズを喚起できる」という広告主にとってのメリットがある一方で、「後から広告だと気づき不快に思う」という消費者側の意見もあります。

しかし、キャデラックの事例からわかるのは、広告とはブランドイメージを消費者に伝える手段であるだけでなく、世相を反映しながら新しい文化を作るほどの影響力を持つということです。

インターネットが普及して企業と消費者とのコミュニケーション方法が多様になった現在、宣伝方法のテクニックばかりに目が行きがちですが、そうしたときは100年前のキャデラックの広告に立ち返る必要があるかもしれません。

参考:

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