海外会計事務所のWeb集客事例に学ぶ、コンテンツの仕掛け

コンテンツマーケティング

弁護士や公認会計士、税理士などの「士業」と呼ばれる専門職に就く方々の話を聞くなかで、「開業後の顧問先獲得に苦戦している」という悩みをよく耳にします。

過去の記事では海外における弁護士事務所の取り組みをご紹介しましたが、今回は海外の会計事務所にスポットライトを当て、士業におけるWeb集客の秘訣を探りたいと思います。

会計事務所の宣伝が敬遠されてきた理由

30年ほど前に都内で開業したという税理士の方にお話を伺った際に、自身が広告に対して否定的なイメージを持っていることをほのめかしていました。2001年の税理士法改正により会計事務所の広告規制は撤廃されましたが、その後も業界内で積極的な宣伝活動が盛んにならなかったのは、昔からの慣習が影響しているためです。

また、日本より20年以上早く会計事務所の広告規制が撤廃された欧米でも、会計事務所のマーケティング予算はその他専門職のそれと比較して低い傾向にあることが報告されています。過去の広告規制による影響に加え、日々お金と向き合っている会計事務所は、職業柄、投資に対して慎重なため、他業種ほど宣伝が活発にならなかったのかもしれません。

競合に先駆けたWeb集客がチャンス

一方で、顧客の8割以上が、会計事務所へ問い合わせる前にホームページを通じて情報収集をするという統計があります。

そのため、宣伝の一環としてホームページを持つ会計事務所は少しずつ増えていますが、実際に彼らのホームページを見ていると取り組み内容は事務所によって異なり、会計事務所のWeb集客はまだまだ向上する可能性を秘めているようです。

一方で、競合する事務所に先駆けてWeb集客に取り組もうとする海外の会計事務所が出現しています。さっそく、事例をご紹介しましょう。

事例1:スタートアップ企業を助けるCrunch

まずはイギリス南部の町にある会計事務所Crunchです。彼らはスタートアップ企業や中小企業などを対象に開発した会計ソフトの販売を行い、会計業務の支援を提供しています。

スタートアップ企業や中小企業の多くは、これまで会計事務所との接触を持った経験がほとんどなく、会計に関する知識も低いことが考えられます。そのため、顧客となりうる人々が持つ潜在的なニーズを把握し、そのニーズに応える価値を示すような集客方法が効果的です。

それでは、Crunchが実際にホームページ上で実践している集客のための仕掛けを見てみましょう。

1. トップ画面の特徴

CrunchをWeb検索すると、トップ画面に登場するのは多くの会計事務所のホームページに登場するようなスーツ姿の会計士とは少し趣の異なる会計士。その横には「あなたは自分の人生を歩んでください。数字のことは我々がやります」というシンプルなメッセージが添えられています。

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このトップ画面で注目すべき点は2つあります。1つは会計事務所が敬遠される主な理由である「ハードルが高い」というイメージを払拭している点です。もう1つは、少数精鋭で戦うスタートアップ企業や中小企業の「猫の手も借りたい」という悩みに対してメッセージを投げかけている点です。このように顧客に寄り添ったトップ画面は、これまで会計事務所とは縁がなかった顧客にも安心感を与えることが期待できます。

2. 記事コンテンツの特徴

Crunchのホームページ上にあるブログには定期的に記事が掲載されています。

彼らのブログが特に優れている点は、潜在顧客を

  • 「スタートアップ企業」
  • 「中小企業」
  • 「フリーランサー」
  • 「独立業務請負人」

という4つのグループに分け、各グループに向けたコンテンツをニュースサイトのような形で配信していることです。

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具体的な記事の内容は「起業家とは何か? 8つの基本的な価値」、「中小企業で実際に起こった5つの心温まる話」などの会計と直接は関係のないものから、「2016年から17年にかけての税金の変化」、「健康と安全に関する法の改定は個人雇用主にどう影響する?」という会計関連の時事ネタまで多岐にわたります。

それぞれの潜在顧客が置かれている状況に応じた内容の記事は、彼ら自身もこれまで気づかなかったニーズを喚起することができます

3. 無料ダウンロード資料の特徴

記事コンテンツよりもさらに実務に踏み込んだ内容を知りたいという顧客に対して、Crunchは無料ダウンロード資料を提供しています。各資料は専門用語を使わず、会計の知識がなくても理解できるように書かれています。

具体的には「起業に向けての6つのやさしいステップ」「独立業務請負人のための経費ガイド」などのコンテンツがあり、これらはCrunchを利用したらどんな付加価値を期待できるかということにも言及しています

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以上のように、Crunchのホームページは、

1. 潜在顧客の関心を引く

2. 潜在顧客のニーズを喚起させる

3. Crunchの付加価値を理解させる

というステップを踏むことで、新規顧客からの問い合わせを受けやすい体制を築いています。

事例2:大手企業からの信頼が厚いFreed Maxick

次はFreed Maxickというアメリカ・ニューヨークを拠点とする会計事務所です。先にご紹介したCrunchとは対照的に、彼らは幅広い業界の大手企業の税務・監査などを請け負っています。

大手企業の場合、すでに専属の会計事務所を抱えていることが想定されます。その場合、会計事務所を変更するという大きな決断を顧客に迫る必要があります。

では、Freed Maxickがホームページ上で実践している集客のための仕掛けをご紹介しましょう。

1. 記事コンテンツの特徴

Freed Maxick のブログに掲載されるのは、医療・金融・政府などのさまざまな業種に関する記事。具体的には「あなたの病院のマネジメントにシックスシグマの原理を当てはめよう」「ビットコインは新しいサイバー貨幣となるか?」「オバマ大統領の新年度予算案とは?」など、業界ごとにさまざまな話題を繰り広げています。

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先のCrunchと異なり、トピックは各業界のニッチな話題にも踏み込んでいるのが彼らのブログの特徴です。 「この会計事務所なら、うちの業界の事情にも通じている」と思わせるほどの豊富なトピックの記事は、「担当可能な業界の幅広さ」という彼らの強みを巧みに訴求しています。

2. その他の特筆すべきコンテンツ

Freed Maxickは見込み顧客が自らをパートナーとして指名するのを後押しするような情報をホームページで提供しています。

その一例として挙げられるのは、監査法人を変更する際のガイドラインです。顧客となりうる人々が長年付き合いのある専属の会計事務所を抱えている可能性を想定したガイドラインは、顧客の決断を促す役割を果たします。

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以上のように、Freed Maxickのホームページは、大手企業に向けた営業活動に立ちはだかる課題を視野に入れた集客方法を確立し、既に専属の会計事務所を持つ顧客の「乗り換え」を狙っています。

顧客視点で作るコンテンツが成功の鍵

会計事務所のWeb集客は歴史が浅い分、まだまだ成功例が少なく、競合相手との差をつけるチャンスの多い領域です。自分たちの顧客となりうるのはだれか。彼らはどんな課題を抱えているか。それらの疑問に対する答えが、Web集客を成功させる秘訣となるでしょう。

参考:

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