マーケティング嫌いだったスティーブ・ジョブズの製品はなぜ売れるか

経営・ビジネスハック

MacintoshをはじめiPod、iPhone、iPadなど数々の世界的大ヒット商品を手がけ、アップルのカリスマ経営者としても知られたスティーブ・ジョブズ。個性的で自己主張の強いクリエイターだったジョブズですが、実は独創的なクリエイティビティだけでなく、卓越したマーケティング感覚の持ち主だったと言われています。今回は、ジョブズの功績を辿りながら、そこに秘められたジョブズ流「マーケティング」の極意を探ります。

「マーケティング」という言葉を嫌ったジョブズ

アップルの元マーケティング副社長であり、2005年から2011年までジョブズと共に働いていたアリソン・ジョンソンが答えたインタビュー記事によると、ジョブズは「マーケティング」という言葉を嫌っていたそうです。

本来、マーケティングとは、消費者に製品の価値を提供することです。マーケティング担当者が、消費者に製品の価値を的確に伝え、その機能をアピールしたり、消費者が製品を最大限に活用するためのサポートをしたりできないのであれば、それは「無理に売り込んでいる」にすぎない。ジョブズは、アップル社のマーケティング部門は「そのような姿勢でいるべきではない」と主張していました。

感動を伝えるコミュニケーションを重視したマーケティング

それでは、アップル社を世界的企業へ成長させたジョブズ流「マーケティング」とは、どのようなものだったのでしょうか。前出のジョンソンは、ジョブズは「製品の素晴らしさや感動を、消費者に伝えるためのコミュニケーションを重視していた」と語っています。

そのため、マーケティング部門は、製品開発やエンジニアチームのすぐ隣に配置されていました。マーケティング部門が、製品を作ったチームのモチベーションや情熱、その製品が人々の生活にどういった役割を果たし、どのような影響を与えるかをよく理解してこそ、消費者とのコミュニケーションがうまくいく。そのことを痛感していたジョブズは、そのための組織づくりにも気を配っていたのです。

会社や製品の価値を高める「挑発的」なメッセージ

このようなジョブズの考えは、既に創業当初から確立されていたようです。そのため、消費者に製品の価値を伝えるためなら、ジョブズは時に威力の強い言葉で、個性的なメッセージを発信することをためらいませんでした。

1970年代後半、まだ業務用コンピューターが主流で、アップルがようやく個人向けコンピューター(パソコン)のニッチな市場を開拓し始めた頃のことです。業務用コンピューターで大きな市場を持つ巨大企業IBMの市場参入を知ったアップル社は、広告などで「ようこそ、IBM、心から」というメッセージを発信しました。以下、「アメリカが誇るこのテクノロジーを世界に広めていく偉大な仕事において、責任ある競走が繰り広げられることを楽しみにしています。」と続きます。

一見、挑発的ですが、個人の生産性を上げて、社会資本を増大させるパソコンの大いなる意義を説いて、共感する消費者の関心を強く惹きつけたのです。また、大企業と同等にふるまうことで、かえって自社に優位性があると仄めかしているところも、見逃せません。

製品を「売り込む」のではなく、消費者に製品の価値を信じさせて、先駆者たるアップル社の存在感を高める。ジョブズの評伝『偶像崇拝』によると、この広告がきっかけで、アップル社は全米80%の人が知る企業となったのだそうです。これは、まさにジョブズ流「マーケティング」の神髄と言えるでしょう。

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「驚異のプレゼン」と呼ばれたジョブズの伝え方

ジョブズは、消費者の心をつかむ伝え方にも、徹底的にこだわっていました。プレゼンテーションやコミュニケーションのスキルを教えるコーチであるカーマイン・ガロ氏が著した『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』(日経BP社)によると、2010年10月20日にジョブズがおこなった”Back to the Mac”と題した新製品の紹介には、3つの極意を汲み取ることができます。

1. 製品の概要を明確に手短に紹介する

ジョブズが、11インチのMacBook Airを紹介するときに用いた言葉は、「MacBookにiPadが合体するとこうなる」という一言でした。これは、数分のうちにCNNで「MacBookにiPadが合体」という見出しとなって紹介されました。Twitterに投稿してもおかしくない短いものですが、製品の概要を明確に手短に紹介するヘッドラインとなっています。

2. 数字を上手に利用する

ジョブズを初めとするアップル社の発言者は、わかりやすい文脈で数字を用いて、効果的に内容を伝えます。この時も、COO(最高執行責任者)のティム・クックは、アップル社の売り上げの33%はMacであり、売上高は220億ドルにのぼると述べました。これだけだと単なる数字の羅列ですが、クックはMac部門が独立した会社なら、全米110番目の会社になるほどの売り上げであると続けたのです。このように数字を用いると、聞き手が受け取る情報をぐっと具体的にすることができます。

3. 伝えることを3点に絞る

ジョブズは、一度に伝えるメッセージを3点に絞っていました。なぜなら、人が短期記憶で取り扱えるのは、3~4点だからです。実際に、アップルのソフトウェアの新バージョン「iLife11」を発表するときも、数ある新機能のうちジョブズが取り上げたのは、iPhoto、iMovie、Garage Bandの3つでした。

このように、ジョブズは消費者に会社や製品の価値を伝えるために、どのような表現をすれば最も効果的かを、マーケターの視点から考えて実行していたのです。

消費者がやりたいことを優先した直営店を作る

オフィシャルな場面で個性的なメッセージを発信する一方で、ジョブズは消費者に製品の素晴らしさを、直に伝える努力も忘れませんでした。そのために構想したのが、アップル製品を販売する直営店「アップルストア」でした。アップルの製品設計から製造、販売までをコントロールすることで、他製品にない自社製品の価値を生み出すことができると考えたのです。

同じく直営店を持っていたパソコンメーカーのゲートウェイが業績不振だったため、当初、取締役はこの案に反対。しかし、ジョブズは、製品のラインアップをただ陳列するだけでなく、写真や音楽、ムービーといった消費者のアクティビティごとに製品を展示する直営店のプロトタイプを作ってプレゼンし、社内の承認を得ました。消費者にどのように製品の体験をしてもらうのが効果的であるかを、とことん考え抜いた結果です。

これまでにないスタイルだっただけに、前評判は悪かったのですが、実際には多くの集客を実現し、2011年には世界に300店舗、延べ来客数は10億人を超えるまでに成長しました。これも、消費者とのコミュニケーションを重視したジョブズ流「マーケティング」の成果なのです。

ジョブズの仕事から学ぶマーケティングのヒント

残念ながら2011年に早逝したジョブズ。その仕事の根底にあったのは、製品の素晴らしさを消費者に伝えるためのコミュニケーションでした。そのためには、最後まで広告や販促物、メディアにおける表現には徹底してこだわり、消費者と直接コミュニケーションできる場を大切にしていました。今回、ご紹介したジョブズ流「マーケティング」の極意、あなたも生かしてみませんか。

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