士業における新規顧客開拓の課題とトレンド

インバウンドマーケティング
「士業」といえば、かつて試験は難しいが、資格を取得すれば高額な報酬を得られると人気の職業でした。ところが、現在、公認会計士や税理士、弁護士といった「士業」を取り巻く環境は、資格保有者の増加や規制緩和により、大きく変化しています。「このまま売り上げが先細りしてしまうのでは?」と不安を抱えている人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は、購買プロセスにおいて、共通点の多いB2B(Business-to-business:企業間取引)のWebマーケティングから、士業における新規顧客開拓方法を考えてみましょう。
競合は増えたのに、顧客が減っている、士業の厳しい現状
司法書士、弁護士、土地家屋調査士、行政書士、社会保険労務士、不動産鑑定士、公認会計士、税理士、弁理士という9士業の人口を合計すると、個人会員が266,706名、法人会員が5,112法人(平成25年)です。なかでも、税理士の割合は高く、士業の約3割を占めています。士業の登録者数は増加傾向ですが、受験者数はピークアウトしており、減少に転じています。
一方、士業のクライアントとなる企業数は、平成21年6,199,222社⇒平成24年5,768,489社と約7%減少しており、中小企業においては、平成21年4,840,000社⇒平成24年3,850,000社と約21%も減少しています。「士業」にとっては、競争相手が増える一方で、お客様が減っているという厳しい市場環境になっています。
人脈頼みの士業は、新規開拓が苦手
このように限られたパイを奪い合う環境では、既存顧客の離反を防ぐとともに、新規顧客開拓が、重要な課題となります。しかしながら、士業の顧客獲得は、知り合いを介したものなど、人脈による紹介がメインであり、一般企業と比較して、「営業」マインドは弱い傾向にあります。つまり、「新規開拓」のノウハウがあれば、競争相手と比べ、圧倒的に有利になるということです。
士業の新規開拓にはWebマーケティングが有効?
Webマーケティングというと、Eコマースに代表されるようにBtoC(Business to consumer:企業対消費者取引)向けでは? と考える人もいるかと思います。しかし、近年は、BtoB企業でもWebを活用した営業・マーケティングを実践する企業が増えています。
購買の意思決定にWebの情報が重要視されている
「Harvard Business Review」のレポートによれば、BtoB市場において、顧客は業者と初めて接触する時点で、およそ60%近くの購買プロセスをすでに終えているといわれています。つまり、顧客は、営業担当者に声をかける前に、自社に最適な商品、サービスについてある程度、時間をかけて、情報を集め、商品を絞り込んでいます。
また、企業購買に関与する人を対象とした日本ブランド戦略研究所の「BtoBサイト調査結果2013」には、情報収集の方法は、31%がWebサイトを購入情報の参考にしており、かつ54%がwebサイトの情報を重視しているというアンケート結果が掲載されています。
さらに、株式会社ネクスウェイの「IT製品・サービスの購買に関する調査レポート」では、「IT製品・サービスを初めて知るきっかけの63%はWeb経由」との調査結果も。このようにオンラインでの比較購買はすでに常識となっており、会計士や税理士もその例外ではないといえます。
顧客との関係構築には、戦略的なWebコミュニケーションが効果的
さらに、会計士や税理士など士業の委託では、①高価格で、②検討期間が長く、③ロジカルに選択を行うというBtoB取引に似た特徴があります。したがってBtoBのWebマーケティングの成功事例を参考にすることは、有効な手法といえるでしょう。BtoBにおけるウェブサイトの重要性を指摘しているKlanac教授によれば、顧客との関係構築には、3段階あり、各段階に合わせて、コミュニケーションを強化できるようなサイト構築をするべきと論じています。顧客との関係構築には、以下の3段階があります。
① 気づきの段階(課題に対してどんなサービス・商品が必要かを考える)
② 探索段階(何社かを比較し、検討する)
③ 委託段階(依頼・発注する)
段階に合わせ、製品・サービスの詳細な情報(価格、納期、業界水準の品質など)にプラスして、企業情報やプレスリリース、メディア掲載情報など、ポジティブな感情を抱かせる(信頼感、安心感、親しみなど)戦略的なWebサイトの設計がポイントになります。
士業の新規開拓に効果的なWebサイトの作り方
総務省の『通信利用動向調査(企業編)平成25年度』によると、自社のホームページを開設している企業は、84.3%。従業者規模の大きい企業ほど開設率も高い傾向にあります。つまり、多くの企業は、Webの重要性に着目しており、さらに、事業規模の大きい会社ほど、コンテンツを充実させています。
士業のWebサイト対策の現状
一方、士業は、これまでの慣習による紹介営業などに依存していたため、新規開拓にはWeb戦略が欠かせないにもかかわらず、Webサイトの作成やWebマーケティングの施策が遅れているという現状があります。例えば、以下のような問題点が挙げられます。
- 事務所のサイトがない
- 通りいっぺんの事務所紹介サイトとなっている
- 競合サイトとの差別化が図れていない
- 事務所のサイトは存在するが、ブログをアメブロなどのサイトを利用しており、信頼感、統一感に乏しい
ただし、それぞれの領域のプロとして顧客に提供できる知見は蓄積しており、他の事務所と差別化のチャンスを逃している場合があります。まずは、戦略的なサイトの設計から始め、Web集客について知ることが重要です。
効果的なWebサイトを作る4つの質問
サイトを作る基本は、以下のことを明確にすることです。
- 「自分が誰であるか?」
- 「顧客は誰か?」
- 「顧客は自分の何に関心をもっているのか?」
- 「顧客にどんなソリューションを提供するのか?」
他社と比較して、競争力や独自性のある分野があれば、その特徴をわかりやすく、明確に伝えるコンテンツを用意しましょう。例えば、公認会計士が開業した会計事務所であれば、企業の税務にプラスして、法人保険(節税対策)や資金繰り(キャッシュフロー)、M&Aなどのうち、得意な分野を中心に解説記事やブログなどを更新するといいでしょう。
この自社のUSP(ユニーク・セリング・プロポジッション:独自の強み)がはっきりすると、ターゲットとする顧客層もおのずと絞られてきます。一方、オールマイティな事務所であれば、顧客の要望の高い分野にフォーカスして、サイトを設計するのも効果的です。
単なる企業紹介ではなくアクセス数の多いオウンド・メディアへ
BtoBのWebマーケティングの基本は、①認知獲得②リード創出③リード育成④ニーズの顕在化した見込み顧客にアプローチ、という流れになります。まず、重要なことは、ターゲットとなる潜在顧客層に認知してもらうことです。なぜならアクセス数が多ければ多いほど、成約に至る可能性は高くなります。そこで、サイトを単なる企業紹介のHPとするのではなく、多くの人がアクセスするオウンド・メディアとして活用しましょう。大切なことは、「共感」を得られるコンテンツを継続的に提供することです。
アメリカでは成功事例の多い専門職のWeb戦略
日本に比べ、フリー(専門職)の活躍が進んでいるアメリカでは、専門的な知識を活かし、「人の役に立つ」内容のコンテンツを継続的に投稿することで顧客開拓に成功しています。役に立つとは、みんなが知りたいことを記事にするということです。とくに、節税などは、もっと知りたいが、どこから何を学んだらいいかわからないという人は多いはずです。そこで、節税方法をQ&A形式で親しみやすく解説する、理解しづらい内容を動画やイラストを使って、わかりやすくレクチャーするなどが考えられます。
顧客と「つながる」コミュニケーションを目指そう
また、士業はコンサルティング業のため、顧客との相性も重要になります。専門性に加えて、趣味や家族の話題などの記事、セミナーの動画など、人柄がわかるようなコンテンツを用意するのも有効でしょう。一見、遠回りにも思える手法ですが、従来の宣伝や広告のように一方的に自社のメリットを語るのではなく、顧客と「つながる」ことを目的としたコミュニケーションこそが、新しい顧客層を呼び寄せるのです。
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まとめ
時代の流れは、ユーザーが商品・サービスを選ぶ時代になっています。そのため、マーケティングの手法も、従来の広告による顧客への「説得」から、コミュニケーションによる「顧客支援」へと大きく変わってきています。顧客は、企業ではなく「親友」のように自分にとって最高の商品やサービスを選ぶための公平な評価や情報を提供してくれるパートナーを求めています。
士業についても、同じことがいえるでしょう。専門的な知識をもっていても、あくまでも「主導権は顧客」にあり、顧客が成功するために力を貸せる心強いパートナーと認識してもらえるようなコミュニケーション戦略の設計が重要であり、そのためにはWebの活用が有効です。
顧客志向のマーケティングを実施している士業はそれほど多くありません。どうしたら、顧客が便利になるか、成功するかに徹底的にフォーカスしたコンテンツを提供することで、間違いなく、選ばれる事務所になるのではないでしょうか。
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「集客したいけれど、広告はちょっと……」海外法律事務所に学ぶ5つのマーケティング術
参考:
- BtoBコンテンツマーケティングの成功方程式|6つの事例で解説|イノーバブログ
- 今日から取り入れたい!BtoB営業・マーケティング調査レポートまとめ|株式会社ガイアックス
- 他士業と司法書士人口の比較|メンターエージェント
- 「小規模事業者」の構造分析-需要開拓こそ最重要課題(3)|2014年版中小企業白書について|中小企業庁
- 通信利用動向調査(企業編)平成25年度|総務省
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