「コスパ」の計算や「空気」を読むのが上手!?さとり世代の消費動向と対策【前編】

経営・ビジネスハック

「さとり世代」をご存知でしょうか? これまでは「ゆとり世代」と呼ばれてきた、1987年~1996年生まれの若者たちを指します。日本経済が傾いてから生まれ、ネットやケータイに囲まれて育ち、さらに東日本大震災という災害を経て価値観が揺らぐなかを生きてきた世代です。効率を重視し、消費に積極的ではないと言われる彼らが、何を考え、どのような消費行動をしているのかを見ていきましょう。

効率優先、でも協調性はあるのが「さとり世代」

「ゆとり世代」改め「さとり世代」と呼ばれている若者たちは、現在19~28歳、大学生から第二新卒の社会人くらいまでを含めます。さとり世代という名のとおり、賢いけれど周囲との協調性やバランスを重視するため、「このぐらいがちょうどいい」「どうせこんなもの」と悟っていて、ドライに見えると言われています。具体的には、次のような特徴があります。

悪目立ちはNG!――競争はしたくない

さとり世代には少子化の影響でひとりっ子が多く、さらに「ゆとり教育」を受けています。競走や順位付けを嫌ったゆとり教育には、「運動会はみんなで手をつないでゴール」という有名な逸話もあるほど。その影響を受けたさとり世代は総じて競走意識が低く、「出世したい」「起業したい」といった上昇志向をもっている人は少数派です。苦労したり悪目立ちしたりするぐらいなら、「ちょうどいい」あたりで生きていこうと考えます。

バーチャルコミュニケーションが得意

さとり世代には、物心がついた頃からインターネットやパソコンに囲まれて育った「デジタルネイティブ」も多く含まれます。そのため、メールやソーシャルメディア、オンラインゲームなどを利用したバーチャルコミュニケーションが得意。一方、人間関係が深くなるのは苦手で、仲間との「ゆるいつながり」を好み、周囲との協調性を大切にします。

能力は高いが「言われたこと」しかやらない

デジタル世代のほかの特徴としては、パソコンを使った事務能力に長け、覚えも早く、一般的に「能力が高い」と評価される人も多いようです。ところが、上司に命令された仕事以外は手を出したがらず、必要以上には頑張らないのだとか。上司に「明日の会議に必要だから、資料を作ってくれ」と頼まれたのに、翌日、「1時間程頑張ったけど、できませんでした」と平気で答えたさとり世代もいるそうです。

恋愛や結婚にも過度な期待をしない

今年発表された内閣府の調査では、20~30代の恋人がいない未婚男女の約4割が、適当な相手に巡り会わなければ「無理に結婚することはない」と答えたという結果が出ました。若者たちが恋愛や結婚に過度な期待を求めなくなったのは、出会いやデートにかけるお金や時間、異性と親しくなることへのリスクを考えると、コストパフォーマンス(費用対効果)が優れないからだとか。興味や関心はあるけど、ネットで遊ぶのが上手、家族や仲間とも仲良し、ともなれば、パートナーがいなくても十分に楽しめるようです。

消費は嫌いじゃない、でもやっぱり「コスパが大事な」さとり世代の消費傾向

賢く効率主義のさとり世代。節約第一かと思いきや、その多くはバブル期に青春時代を過ごし、消費による成功体験を得てきた両親に育てられているため、実はそんなに「消費嫌い」ではありません。彼らなりによく考えて、商品やサービスにお金を遣っています。それでは、さとり世代が消費する理由にはどんなものがあるのでしょうか。

買い物は好きだけど「コスパ」は重視したい!

効率主義のさとり世代にとって、買い物をするときに何より優先すべきは「コスパ(=コストパフォーマンス)」。競合商品と比較しない、セール以外の時に買う、使い勝手が悪くて無駄になってしまうなど、効率の悪い買い方は、もっての外なのです。

そんな彼らにとって、安くて使い勝手の良い「プチプラ(=低価格)」商品を買って、使い倒したり、着まわしたりするのは、当たり前のこと。男性誌でも女性誌でも着回し特集が組まれ、最近では、誰でも投稿できるファッションコーディネートアプリ、不要な洋服を売り買いできるフリマアプリなどが人気となっています。

目立つのはイヤだけど「プチ個性」は発揮したい!

スマートフォンや洋服、カバンなどを自分流に「デコる(=デコレーションする)」ことは、若い女性たちの間での一時的な流行というよりは、オシャレのたしなみとして定着しつつあります。これは「みんなと同じものはイヤだけど、悪目立ちするのもイヤ。だからワンポイントだけデコって、自分らしさを発揮したい」という、さとり世代女性たちの心の表れです。博報堂で「ブランドデザイン研究所」を立ち上げた原田耀平さんは、この自分らしさを「プチ個性」と呼んでいます。

ユニクロやしまむらなどで手に入れたお手頃価格のファストファッションを、キラキラ光るビーズやクリスタルシート、ボタンでデコって、世界でひとつだけのものにする――けっして仰々しくない、きらりと光る「プチ個性」を認められたいのです。そうした女性たちのニーズに応えて、銀座に初の都市型店舗をかまえた手芸専門店「ユザワヤ」は順調に売り上げを伸ばし、次々と新店舗を出店しています。

「広く浅く」が大事だから「ちょこちょこ消費」でお付き合い

バーチャルコミュニケーションが得意なさとり世代は、人間関係数やソーシャルメディアでのコミュニティ数が多く、いろいろな友達と「広く浅く」交際する傾向にあります。そのため、同じメンバーと朝まで飲んだりするよりも、同じ大学のクラスの友達、サークルの友達、違う大学の友達など違うメンバーと会うために1日何軒もカフェをハシゴしたりするのだとか。

そのことが顕著に表れているのが、卒業旅行。JTBワールドバーケションズによると、お金をかけて親友と欧米に行くというケースは減り、グアムや韓国など安く行くことのできる国へ複数回、その都度違う友達と旅行する学生が増えているのだそうです。

商品よりもコミュニケーション重視!の「ネタ消費」

「広く浅く」とはいえ、コミュニケーション欲が豊富なさとり世代が重視しているのは、商品やサービスそのものよりも、消費によって得られる「体験」や「思い出」、さらにその先にある仲間との話の「ネタ」になるかどうか、です。2012年時点での野村総合研究所の調査によると、誰かにほめられたり、「いいね」と言われたりしたいなど、他者アピールを目的とした「ネタ消費」の経済効果は、年間3400億円を超えているのだとか。

そうした傾向はレジャー・旅行から、ゲーム・アプリや飲食・菓子まで、あらゆる分野に見られます。クックパッドで話題になった「おにぎらず」や、Twitterから火がついた「メロンパンの皮焼いちゃいました」など、ネタになるものがヒットしやすくなっていることからも明らかです。

さとり世代は見逃せないターゲット

このように、バブル世代を両親に持つさとり世代の若者たちは、賢く効率主義でありながらも、ゆるやかな人間関係やコミュニケーションを大事にして、ちょこちょこと「消費」を楽しんでいます。これは、消費が冷え込んでいる昨今、見逃せないターゲット。後編では、そんなさとり世代を攻略するには、どのようなマーケティング戦略が有効かをお伝えします。

参考:
   『「さとり世代」の消費とホンネ 不思議な若者マーケットのナゾを解く!』(牛窪恵著、PHP研究所)
   『さとり世代――盗んだバイクで走りださない若者たち』(原田曜平、角川ワンテーマ新書)
  若者ファッション論 古着とファストファッションとプチ個性~対談・渡辺明日香【後編】|連載:若者研究の気鋭、原田曜平が斬る!『新世代のワカモノ民族学(エスノグラフィー)』|日経トレンディネット
  【新連載】イマドキの若者は、何回も卒業旅行に行く!?|連載:ヒットチャート|日経トレンディネット
  ソーシャルメディアが誘発する「ネタ消費」|ことばアップデート|日経Bizアカデミー

2016年は“激安電力”が大ブレイク!? 日経トレンディ「ヒット商品ランキング発表会」レポ|日経トレンディネット

人気記事