実店舗とネットの垣根がなくなった!顧客視点からのオムニチャネル戦略

デジタルマーケティング
もしあなたが上司から「わが社も、オムニチャネル化することを検討しているが、何をしたらいいだろう?」と相談されたら、なんと答えますか? 言葉としては定着しつつあるオムニチャネルですが、自社の戦略として考えてみると、意外と難しいのではないでしょうか。今回は2社の事例から「顧客視点のオムニチャネル戦略」について考えてみます。
新しい消費のスタイル「オムニチャネル消費者」が増えている
日経MJの「第3回ネットライフ1万人調査」によると、実店舗とネットなどで垣根を意識せずに消費行動をとる「オムニチャネル消費者」がじわじわと増えています。スマホの利用率が6割を超えたことに加え、新サービスの利便性の高さから、「オムニチャネル消費者」が定着しつつあるようです。
大手企業もオムニチャネル対策を加速
この変化を受け、企業もオムニチャネル化を加速しています。昨年、大手流通企業、セブン&アイホールディングスが、今後の経営基盤を従来のGMS(ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア)から、本格的にオムニチャネルに舵を切ると発表し、ホールディング傘下企業の商品を横断的に購入できる、サイト「オムニ7」を開設しました。一方、実店舗を持たないとしていた、ネット専業の米アマゾンが、シアトルに本屋をオープン。どちらも消費者の生活スタイルの変化に合わせ、最新のテクノロジーを活用し、便利かつ新しいサービスで顧客のニーズに応えています。
オムニチャネルとは「顧客満足」を具現化するための戦略
セブン&アイホールディングスが、これまでのGMSのビジネスモデルから、オムニチャネル化に転換したことは、消費者心理を読み解く鍵になります。なぜなら、小売りは消費者の価値観や共有する物語の代弁者でなければ支持されないからです。アドボカシー・マーケティングが提唱するように、現代の消費者は、価格や商品の差別化はもちろんですが、自分の価値観やライフスタイルに寄り添い、さらなる提案をしてくれる「親友」のような企業を求めているといえるのではないでしょうか。
このような消費者の傾向から、オムニチャネルとは、体力のある大手企業によるIT投資や、在庫、顧客管理一元化、事業縦割りの解消など、効率化を意図した業務改革ではなく、顧客サービス最適化の経営戦略と考えるべきでしょう。そのため、中小企業であってもこれからは、自社の顧客に合った「顧客サービス」を、ネットとリアルを駆使し、提供する必要があります。
顧客戦略としてのオムニチャネル化に成功した事例
オムニチャネルがIT戦略ではなく、顧客戦略であるということが、よくわかる事例を2つ紹介しましょう。スーパーマーケットのエブリィとリユース事業のKOMEHYOの事例です。
コミュニケーションを深めるために020アプリを導入した「エブリイ」
エブリイは、15期連続の2桁成長という急伸を続ける、食品スーパー業界では名の知れた広島の企業です。店舗でのO2Oアプリ施策を始めており、最新のチラシ情報や個店ごとの鮮度の高い商品入荷情報、イベント情報などを見ることができます。
同社のUSP(独自の強み)はスーパーで最も重視される「鮮度」と「接客」であり、この2つのポイントをO2Oアプリで積極的に発信することで、顧客とのコミュニケーションを深めています。そのため、重要指標をアプリの滞在時間よりも開封率に定め、特売情報の時間など、鮮度の高い情報をタイムリーに利用者に届けることに注力しています。
また、O2Oアプリ導入の目的を第一に集客、売り上げとするところが多いのですが、同社では、あくまで「顧客満足」のためのツールとして捉えています。有益な情報を配信するだけでなく、顧客のパーソナライズや来店捕捉、求める価値の定量化に重きをおき、商品やサービスへのフィードバックに利用。そのため、割引やクーポンなどは、配信していません。
自然発生したオムニチャネル化で売上高30億円突破!「KOMEHYO」
ブランド商品の買い取りと販売をおこなうKOMEHYOでは、オムニチャネルを活用した売上高が30億円を突破しています。O2O戦略に加えて、EC掲載の商品を希望店舗に取り寄せ、見てから購入する方法や、店舗に希望の商品在庫が無い場合、iPadなどタブレットで 他店舗の在庫を調べ、商品の取り寄せるなどの、ネットとリアルを活用した試みで売り上げを伸ばしています。
元々は、戦略というよりも、商品が比較的高額で一点もののため、お客様から「実際に見て決めたい」などの要望を受けて、近隣の店舗に取り寄せるサービスを繰り返しおこなっているうちに、リピーターが急増し、ネットで見て店舗で受け取るという「オム二チャネル化」が自然に生まれています。
同社が考える成功のポイントとは、オムニチャネル化するにあたり、「顧客満足度を上げるため」に社内体制を変えたところだとしています。たとえば、予算です。これまでは、事業別だった売り上げ予算を、店舗とEC事業あわせてひとつとすることで、部門間で顧客を取り合うことがなくなり、よりお客様とのコミュニケーションが円滑に進むようになったといいます。
顧客の価値観やライフスタイルから必要なサービスを
このように、消費者行動から考えるオムニチャネル戦略について紹介しましたが、いかがでしょうか。オムニチャネル化においては、2社の事例からもわかるとおり、「顧客目線で考えること」が重要です。資金を投入していきなりシステムを構築するというハード面からよりも、「自社の顧客の価値観やライフスタイル」を分析し、どのようなサービスが必要なのかを考えることが第一歩になるでしょう。
たとえば、ネット主体の事業であれば、イベントやセミナーの開催、ファンミーティングの実施など、リアルな場での顧客とのタッチポイントを増す、リアル店舗であれば、オンラインショップ、アプリ、ブログなどで、有益な情報を発信し、Webでのエンゲージメントを深めるなどが考えられます。予算をかけず、リアルとネットで顧客とのコミュニケーションの質を高めることから始めてみてはどうでしょうか。
最後に、冒頭の上司への回答ですが、「顧客が自社のサービス、商品について、どう考え、どのような機会に利用しているのか、また、何に不満を感じているのか、ネットとリアルの情報から徹底的に探ることからはじめましょう!」ではいかがでしょうか。ぜひ、この機会に、オムニチャネルを顧客戦略として考えてみてください。
参考:
➢ 店舗とネット垣根なし“オムニ消費者”増える |日本経済新聞社
➢ オムニチャネルが“お客様中心”の流通革命をもたらす|セブンアンドアイホールディングス
➢ 米アマゾン、シアトルで初の書店実店舗をオープンへ|ロイター
➢ すごいぞ地方スーパー、鮮度抜群の店舗が始めるO2Oアプリ施策|アスキー
➢ KOMEHYO、オムニチャネル活用の売上高が30億円突破PDF
➢ 平成26年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査PDF
➢ グレン・アーバン著『アドボカシー・マーケティング 顧客主導の時代に信頼される企業』(2006,英治出版)
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