2015年に完売したプレミアム商品券の成果とマーケティング視点からの考察

経営・ビジネスハック

2015年は、良くも悪くも「プレミアム商品券」が話題になった年でした。全国の自治体の97%が発売したのですが、販売後3分で売り切れる商品券があったかと思えば、乱用スキャンダルも起きました。みずほ総合研究所の試算によれば、消費押し上げ効果は640億円と総事業費2483億円の25~30%強が見込まれるという数値もありますが、本当に地方活性化に効果はあったのでしょうか。また、地域により成否が分かれた理由は何だったのでしょうか。マーケティングの視点から考察していきます。

そもそも「プレミアム商品券」とは?

プレミアム商品券は、安倍首相によれば「個人消費のテコ入れと地方経済の好循環を図り、経済の好循環を全国津々浦々に拡大していくことができる」ため、国の消費喚起策のひとつとして実施されました。「地方創生」を主たる目的としていましたが、東京都23区を含む首都圏も地域の活性化という観点から、商品券を発行しています。すべて商品券という形態をとっていますが、大きく分けて「地区内で利用可能な商品券」と「宿泊代などの旅行補助」タイプの2種類があります。

たとえば、福岡市きっての繁華街天神では、商店街で使える「てんちかプレミアム商品券」一口1万2千円分を1万円で販売。2千円分お得となります。同様に、2割程度のプレミアムをつける自治体が大半で、対象者も居住区域民がほとんど。しかし、北海道の当別町など、町外からの移住者を対象とした商品券の発行を行う自治体もありました。

観光に力を入れている自治体では、観光客の呼び入れを目的に、発行自治体内のホテルや旅館に安く泊まれるプレミアム付旅行券を発行しています。新潟県阿賀野市では、額面1枚1万円の旅行券を50%オフの5千円で購入できる「五頭温泉郷スーパープレミアム旅行券」が、販売後たった3分で完売したそうです。

消費者にも自治体にも「うれしい」商品券

マネースクウェア・ジャパンが10月におこなった消費者調査によると、プレミアム商品券に対する好意的な意見として次のような声が聞かれました。

  1. 「還元率がおよそ20%と高く、商品券を利用して買い物した方が得」
  2. 「家計の味方になりそう」
  3. 「消費が促進され、景気が良くなりそう」
  4. 「地域経済の活性化につながりそう」

実施者である自治体からは、「地元商店街の活性化につながった」「プレミアム旅行券でホテル稼業率がアップした」「観光のリピーターが期待できる」「県(地域)の知名度アップが期待できる」などの声がありました。来年開催予定の「伊勢志摩サミット」で注目を集める三重県では、旅行券を発行したところ、夏休みのホテル稼働率が急増するなどの効果が見られ、来年度もサミット効果と合わせたリピーター創出に期待を寄せています。

買い占めに転売……乱用ケースも続出

しかし、自治体の準備期間が短すぎたことも手伝い、良かれと思って発行したプレミアム付商品券の欠陥も多数報告されています。

  1. 本来の目的である地方の経済振興は名ばかりで、ただのお得感のある商品券の「バラマキ」になっていた。
  2. 事前の宣伝が不十分で、気づいたら申し込みが終了していた。
  3. 1人当たりの購入上限が設けられておらず、「買い占め」が発生。税金による補てん制であるにもかかわらず買えない人が続出し、公平性に欠けた。
  4. 地域商店街で恩恵を受けたのは、地元店や企業ではなく、大手電気店などの大手量販チェーン店のみだった。
  5. 大口購入ができる人が得をしたこの施策は、単なる金持ち優遇策に過ぎなかった。

代理購入を認めた自治体では、買い占めが多発、熊本県八千代市では、1人で600万円分の買い占めがありました。買い漁った商品券を利用してロレックスを購入、転売して利ざやを稼ぐ例もあれば、本人確認などの作業に手間取り、夕方まで並んでも商品券を購入できなかった人が続出して抗議が殺到することも。ある自治体では、町幹部と議員が上限を超えて商品券を購入した疑惑が発生するなどトラブルが続出しました。

「効果は一時的」と批判の声も

内閣府発表の2015年10月の景気ウォッチャー調査によれば、街角景気実感指数は前月比0.7ポイント上昇の48.2ポイントとなり、3カ月ぶりに改善。(2015年11月は46.1で、前月比2.1ポイント低下。)プレミアム付き商品券の効果で、消費額が増えたことが主因と報告されています。

一方で、ある程度の消費刺激効果は実感されたもの、「単なる消費の先買い」「継続な景気対策ではない」「一時的な消費増で、来年には反動減」との批判意見も聞かれます。第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏は、国として商品券発行を後押しすべきではないとし、「本来、地方経済を立て直すためには、税源移譲で地方の自主財源を増やすのが本筋」であり、地方の自主性を高めていくことが必要だと語っています。

成否は自治体のマーケティング力に

今回の策で本来の目的である「地方創生」の足かがりをつかんだかどうかは、自治体の「問題認識力」と「コンテンツ制作力」によるところが大きいのではないでしょうか。地方の活性化にあたり、自治体が課題をしっかりと認識することや「商材」への問題認識、ゴールの設定、ゴール実現のための企画力・コンテンツ力が求められることは、一般企業がビジネスを行うのと何ら変わりません。

地域での消費を増やすためにプレミアム付商品券を地元食材の売り込みに利用したり、観光業を後押しするためにお得な商品券で観光客を招待し、関連産業の活性化とリピーター創出を促したりなど、明確な課題の認識とアクションへの落とし込みが成否を分けたようです。

2016年度「新型交付金制度」の行方は?

このように、今年発行されたプレミアム付商品券は、大きな話題にはなりましたが、その実、成功例だけでなく失敗例も数多くありました。

政府は、2016年度も地方創生策として「新型交付金制度」を施行します。プレミアム商品券と大きく違う点は、市町村による活性化策の内容の完成度により交付規模や対象範囲に差がつくことと、交付後も効果を検証しつつ事業の見直しを求められることです。つまり、周到な準備をしないと交付金が減る、または交付されない可能性があることも意味します。たとえ案件が通っても、計画数値に到達できなければ、修正を迫られるなどのチェックが働く予定です。こうした制度づくりにより、今回のようなトラブルの多発が防止され、より地方のニーズに応じた施策の立案が促されるでしょう。

新規顧客へのリーチとリピーターにできるかが勝負ー亀山將のマーケティング考

いまから15年くらい前、「地域振興券」なるものが全国民に配布されました。たしか1人2万円くらい。バイトもできない中学生だった私には「突然降ってきたお小遣い」くらいの気持ちで嬉しかった気がします。何に使ったかは忘れてしまいましたが……

日本はとかくこの手のバラマキ施策が好きですが、マーケティングの観点からするとこれだけの財源を費やすのであればもっとやりようがあったのではとも思います。このような施策の場合重要となるのは、どれだけ新規顧客にリーチできるかと、それをどれだけリピーター化できるか、です。

 

使った人

使った場所

顧客属性

初回訪問後

東京都港区在住のAさん

近所(東京都港区)の家電量販店

既存(いつもいくお店)

何か必要なものがあったら足を運ぶ

石川県金沢市在住のBさん

近所(石川県金沢市)の料亭

近隣新規
(行ってみたいと思っていたお店)

美味しかったが割引なしで再訪しようとは思わない

埼玉県浦和区在住のCさん

鹿児島県の温泉旅館

遠方新規
(プレミアム商品券を通して初めて認知)

素晴らしいおもてなしに感動。次回は両親を連れて行こうと計画中

上の図に例を挙げてみました。

ケース1.東京都港区在住のAさんがプレミアム付き商品券を買って、頻繁に行く近所の家電量販店で気になっていたデジカメを購入。

ケース2.石川県金沢市在住のBさん、プレミアム付き商品券で、以前から行ってみたいと思っていた近所の高給料亭で食事。料理は美味しかったが、やはり高いので割引なしでまた行くかはわからない。

ケース3.埼玉県浦和区在住のCさん、プレミアム付き商品券を調べていたところ、鹿児島に「秘湯」と呼ばれる温泉を発見。割引率もよかったので思い切って温泉旅行に行く。素晴らしいおもてなしもさることながら、滞在後に旅館から届いた当日の記念写真と心温まる手紙に感動。次回は両親を連れて行こうと思っている。

この中で、今回の「プレミアム付き商品券」の効果として望ましいものはどれでしょうか?

まず、ケース1はAさんの、日常の買い物のための「お小遣い」で終わってしまっています。

次にケース2。以前から行ってみたかった高級料亭に、プレミアム付き商品券をきっかけに訪問。「地方経済の消費喚起」にはつながっているものの、近隣在住者による利用であるため付帯的な消費(移動や宿泊など)は限定的。しかもリピーター化にもつながっていません。

理想的なのはケース3です。遠方在住者がプレミアム付き商品券をきっかけに、いままで知らなかった鹿児島の魅力を発見。実際に訪れた結果、素晴らしい商品体験を通してリピーター化しています。

「地域における新規消費の増やす」ことで「地方創生」を目的とするのであれば、3のようなケースを増やさなくてはなりません。そのためにはプレミアム商品券を使える商品・サービスから日用品などのコモディティ商品を省くことや、地域的な制限を加えるなど、いままで接点がなかった商品・サービスと消費者をつなぐ(埼玉県のCさんが鹿児島の秘湯を見つけたような)工夫が必要です。

また、さらに大切なのが商品・サービスそのものの品質とアフターフォローです。一度目の体験で満足してもらえなければ、割引なしでリピートしようなんて思いません。結局、一過性の「ドーピング」に過ぎなくなってしまいます。

来年の施策にはぜひマーケティング視点からの改善を期待したいと思います。

(イノーバ亀山)

参考:

➢     国主導「プレミアム商品券」 各自治体の消費拡大なるか|産経ニュース

➢     プレミアム商品券、周知方法に不満の声 - 「公平性に欠ける」「周知不足」|マイナビニュース

➢     「官製商品券」人気上々 国の交付金利用、効果は未知数|朝日新聞digital

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